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第1章
兄弟喧嘩。
しおりを挟む「アイヴィは?婚約しないの?しないなら、俺と婚約する?」
「しない。」
というか、出来ないだろう。戸籍上、私はオスカーの姪に当たるのだから。それに、何歳差だと思っている。自身が捕まえた男と同じ道を歩むつもりか。
「一切、婚約の申し込みとかないの?この間、非公式のパーティーとは言え、王宮が主催のやつに参加したんでしょ?」
「ない…と思う。」
そんな話、一度もされたことがないから分からない。あるのだろうか?と思い、チラリと公爵様へと視線を向ければ、ばちりと目が合う。
話の流れからして、私の言いたいことが分かったのだろう。公爵様は、オスカーに向かって『そんなもの、あってたまるか』と言い放つ。
そういえば、王宮のパーティーに行く前に、婚約はまだ早いだとか、お義父様は許しませんだとか言っていたような気がする。
「アイヴィなら、引く手あまただと思うけどね。」
「可愛いからな。でも、やらん。」
「そんなこと言って。アイヴィが行き遅れになったら、兄さんの責任だからね?」
「ずっと此処にいればいいだろう。大体お前だって結婚していないのだし。」
「俺は男だからいいんだよ。アイヴィは女の子だよ?ちゃんと幸せになる結婚をさせてあげないと可哀想じゃないか。兄さんだってアイヴィの花嫁姿は見たいでしょ?絶対綺麗だよ。」
「そんなもの見たくない。」
「じゃあ、アイヴィが結婚するとき、ヴァージンロードを歩く役目は俺がしていいわけね?」
「そんなこと一言も言ってないだろ…!」
本来、少しの音をたてただけでもマナーがなっていないと口煩く言われる程、貴族の食事とは森閑としたものなのだが、2人が言い争いを始めたことにより一気に騒々しくなるこの場、この時間。
この兄弟は、どことなくエイダンとカーシーに似ている。“血は争えない”とは、よく言うものだ。
「アイヴィは、ヴァージンロードを一緒に歩く相手は、俺と兄さん、どっちがいい?」
別にどちらでもいい。
そう言おうとして一度は口を開くも、公爵様があまりにも、有無を言わさぬような力強い視線を私に送るものだから、すぐに口を閉ざした。
何か目で訴えられている気がするけれど、何を求められているのかさっぱり分からない私は、助けを求めるように奥様へと視線を向けた。
奥様は私の視線に気づくと、にこりと微笑み「ウエディングドレスは一緒に選びましょうね」…と見当違いなことを言う。
ヴァージンロードを誰と共に歩くのかも、ウエディングドレスをどんなものにするのかも、勝手に決めてもらって構わない。私にこれといった拘りはないし、その時が来たならば全て公爵様達に合わせるつもりだ。それなのに、何故か大人達は私よりも私の結婚式に拘る。
「意味が分からない…。」
そんな私の小さな呟きは、未だ言い争いをしている兄弟の声によってかき消された。
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