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第二章 3120番の世界「IASB」
第27話 最悪の予感
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この夕方ごろの散歩は、素晴らしく気分が良い。薄暗い路地を、岩田 幹人は一人で歩いていた。毎日この時間帯に外を散歩することは日課だったのだが、ここ最近仕事が忙しく、もう二週間ぶりの散歩だ。
四月も後半に差し掛かり、この路地裏にも小さな花がひっそりと咲いていた。
ふいに携帯に通知音が響く。『相次ぐクラリスによるものと思われる殺人事件』という見出しの物だった。
「殺人事件、ねえ……」
そう呟き、幹人は煙草に火をつけた。それは、去年からずっとテレビを独占している連続殺人事件だった。
死体は狂犬にでも食いちぎられたかのようにボロボロになり、目も当てられないほどの無残な状態。これで九件目だ。すべてこのC地区で起こっているため同一犯とみられているが、被害者には全く共通点がないため無差別殺人と言われている。
さらに残酷なのは、まず刃物などで刺して動けなくしてから荒らしていくところだ。食い荒らされた死体を調べると、必ず少なくとも一か所は刺し傷が残されている。さらにその周辺部だけは肉塊として残っているという。
到底普通の人間ができるような犯行ではないため、クラリスが関係している可能性が高く、現在KIPが必死になって犯人を捜しまわっているところだという。
日も落ちてきて、あたりはすっかり暗くなっていた。
「そろそろ帰らないとな」
幹人はまたゆっくりと歩き始めた。そして少し歩いたところで足を少し早める。
つけられている。後ろから足音がするのだ。この時間にこんなところで全く同じ道を同じペースで歩くなど、明らかにおかしい。
いつまでもついてくる「それ」にしびれを切らし、幹人は後ろを振り返る。そこには一つの人影が闇に紛れて静かに立っていた。
「先ほどから後ろをつけてきて、何か用ですか?」
返事は帰ってこなかった。もう一度声をかけようとしたとき、目の前の影はゆらりと揺れ、気づいたときには目の前に二つの青く光る目があった。それと同時に腹部に鈍い痛みが走る。自分が刺されたということに気が付くのに、あまり時間はかからなかった。
そのまますぐに、もう一度脳天まで鋭い痛みが付き上げる。まるで獣のような腕の、鋭利な爪が幹人の右胸に突き刺さっていた。声にならない悲鳴が出る。
家にいる最愛の娘のことが頭に浮かび、ただこの男への復讐心だけがふつふつと湧き上がっていた。
「まさか、お前が……例の、殺人犯……」
朦朧とする意識の中、幹人は見下ろしてくる男を必死に脳裏に焼き付けた。もし本当にあの連続殺人犯なら切り刻まれて、食い殺されるかもしれない。でも死んでからもずっと探し続ける覚悟で、さらなる追撃を待った。
しかしその追撃はいつまでたっても来ることはなく、代わりに遠くからサイレンと人を呼ぶ声が聞こえた。男は小さく舌打ちすると足早にその場を去っていった。
助かった。その安心からか、じわじわと刺されたところが熱くなり、痛みが襲ってくる。その痛みに身を任せ、娘の姿を思い浮かべて幹人の意識は闇の中へと落ちていった。
新学期が始まり、零は二年生になった。運良くいつもの三人が同じクラスになったと聞く。
瑞希はKIP本部とは逆の方向にある大学に通っているため、もう一緒に歩くことは無いが、家が近いことから相変わらず時間がある時は遊んだりしていた。
四月も後半になり、他の新人が先輩に付いて仕事を見学している中、秋は初任務を終えていた。今は正式に慎吾と昭のチームに加わり、小さな犯罪を解決したり、訓練に力を入れたりしている。
今日もいつも通りに出社した。何やら慌ただしいエントランスホールで、すれ違う人に挨拶をしながら秋は慎吾のもとへと向かう。ドアを開けると、慎吾は誰かと電話をしているところだった。邪魔にならないよう、なるべく静かに入り自分の席に着く。
「……そうですか、では準備が出来次第、私たちも加わります」
ちょうど終わったところらしい。電話を切ってチーム全員を集める。秋と真衣、昭が慎吾のもとへと集合した。すると、すぐに慎吾が話し始める。
「例の事件の新たな被害者の意識が戻ったそうだ。天宮はニュースで見たことないか?」
そう言ってテレビをつけた。しばらく関係のないニュースの後に、今回話題になっている内容が流れ出した。
『――となっています。では続いてのニュースです。一昨日の4月27日、C地区で傷害事件がありました。被害者は三十代後半の男性で、腹部を刃物で刺され、右胸は爪のようなもので刺されていたものの、何とか一命はとりとめ、現在病院で治療中ということです。また、今までの手口と似ていることから、最近相次いでいるクラリスによる無差別殺人とみて調査を進めています。C地区に住んでいる方は十分に注意し、何か情報のある方はクラリス国際警察まで報告するようにしてください。続いては――』
その話題が終わると、慎吾はテレビを消す。秋は初めて聞く内容だった。
「いえ、見たことないです。……テレビはあまりつけないので」
「そうか。これは去年の十二月から始まった連続無差別殺人だ。必ず月に二回のペースで起きている。この五か月で、今回のを含めて十件だ」
「相当な数ですね。何回も起きてるのに、まだ捕まっていないんですか?」
「ああ、現場に捜査に役立つ情報を全く残さないんだ。被害者から探ってみると、誰にも共通点がない。それで今まで捜査が難航していたんだが、今回の被害者は生きている。さらに犯人の姿を見たらしい」
秋以外の二人も表情を変える。相当大きな進展のようだ。
「でも、この人が例の事件の被害者とは限らないんじゃ?」
昭が尋ねる。確かに、今回の物がその連続無差別殺人事件と決めつけるには早い気がした。
「決め手としては、その被害者が見た犯人の腕だ。獣のような腕だったらしい。今までの事件は、狂犬に喰い荒らされたようなものだった。前々から検討していた話だが、恐らく相手は獣の力を使えるようなクラリスだろう。そうなると、今回の腕もそのクラリスの能力だ。同一事件で間違いない」
「なるほど、それなら関係ありそうですね。電話の内容的に、僕らは話を聞きに行くんですか?」
「そうだ、重要な手がかりだから今すぐにでも行きたいんだがどうだ?」
慎吾の問い掛けに、全員が首を縦に振る。秋は本格的な大型の捜査に期待しながら準備を進めた。
病院に到着した。身分証明書を提示すると、病室へと案内される。ドアの先にはスーツ姿の人が二人と、ベッドに横になっている男性がいた。
「おお、佐々木。もう来たのか、早かったな」
スーツ姿の二人のうち、男の方が慎吾に話しかける。慎吾は軽く会釈をした。
男はもう一人の腕を引いて、慎吾とすれ違う時に何やら囁いてから部屋を出ていった。
慎吾の表情の変化に、秋は囁かれた言葉の内容が気になる。
「佐々木さん、何言われたんですか?」
「犯人が予想していた人物で、ほとんど間違いなさそうという内容だ。とりあえず実際に話を聞くぞ」
そう言うと、慎吾は男性に近づく。昭は何故か、秋の方を心配そうに見た。
真衣は病室の外で、入ってくる人を見張ることになり、室内には三人と男性一人になった。
「すみません、KIPの者です。体調は大丈夫ですか?」
慎吾が男性に訪ねると、男性は首を縦に振った。
「そうですか、もう既に一度前の人達に話したかもしれませんが、色々質問させてもらいます。まずは確認から。岩田 幹人さんですね?」
「はい」
「一昨日の夕方頃、C地区東側の路地裏で何者かに襲われたというのは?」
「合ってます」
淡々と質問をしていく慎吾と、確認したことをメモしていく昭の様子を秋はじっと見ていた。初任務は終えているとは言えども、まだ新人のため、まずは見て学ぶところからだ。
「では本題です。犯人について、なにか覚えていることはありますか?」
今回一番の本題に入る。幹人は恨みの篭った目で慎吾を見つめながら、自分が見た容姿を語り出した。
「まず男で、身長は俺と同じくらいだったから、168くらいです。腕は獣のようになってました」
「何か犯人を絞り込むことの出来る特徴はありましたか?」
「……ええ、ありましたよ。特徴的だったので」
「それを教えて貰えますか?」
幹人はしばらく無言になったあと、再び恨みの篭った目で三人を睨めつけた。
「言う代わりに、犯人を捕まえたら俺に一発殴らせてください」
そう言った幹人の手は、固く握られていた。相当相手を憎んでいるようだ。
しかし、当然そんな要求を許可することは出来ない。慎吾は少し悩んでから、予想通りの返事をした。
「……すみませんが、その要求は受け入れることは出来ません。相手が誰であろうと、暴力を許可することは出来ないので。でも、必ず捕まえて然るべき処罰を与えると約束します」
幹人はその返事にため息をついてから、手の力を抜いた。
「まあ、そうですよね。さっきの人にも同じことを言われました。絶対に見つけて捕まえてください。そして九人殺した罰を必ず与えてください」
「もちろんです。それが我々の役割ですので」
「……目の色が両目とも青色でした。外国人でたまにいるような淡い青ではなく、深い綺麗な青色です。あんなのは初めて見たのでしっかりおぼえてます。間違いありません」
「なるほど、他に何かありますか?」
「フードを被っていたので、全体は見えませんでしたが、少なくとも前髪は黒でした」
それを聞いた瞬間、秋は一つの嫌な仮説が思いつく。しかし、ありとあらゆる否定の言葉で何とかそれを誤魔化した。
目の色、髪の色ではまだ分からない。それに彼にできるわけが無い。だって彼は記憶喪失で能力も使えないのだから。
――でも、この条件に合う人物が他にいるのか? 事件は全てC地区内で起きていて、恐らく犯人はC地区内のだれか。C地区は比較的人口の多い地域だ。もう一人くらいいるかもしれない。そうだ、それに犯人が零に擦り付けようとして、姿を変えるクラリスで襲ったんじゃ? いや、クラリスは獣化だ。二つ同時に持つことは前例がない――
悪寒が走る。その後の慎吾たちが話している言葉が耳に入ってこない。呼吸が浅くなり嫌な予想ばかりが頭を埋めつくしていた。
ポンッと肩に手が置かれて我に返った。昭が秋の方を心配そうに見ていた。
「ご協力ありがとうございました。捕まえたら報告します。他に何か思い出したことがあれば、またKIPまでお願いします」
慎吾がお辞儀をして、秋達に声をかける。慎吾に続いて、昭と秋もお辞儀をして病室を出た。
四月も後半に差し掛かり、この路地裏にも小さな花がひっそりと咲いていた。
ふいに携帯に通知音が響く。『相次ぐクラリスによるものと思われる殺人事件』という見出しの物だった。
「殺人事件、ねえ……」
そう呟き、幹人は煙草に火をつけた。それは、去年からずっとテレビを独占している連続殺人事件だった。
死体は狂犬にでも食いちぎられたかのようにボロボロになり、目も当てられないほどの無残な状態。これで九件目だ。すべてこのC地区で起こっているため同一犯とみられているが、被害者には全く共通点がないため無差別殺人と言われている。
さらに残酷なのは、まず刃物などで刺して動けなくしてから荒らしていくところだ。食い荒らされた死体を調べると、必ず少なくとも一か所は刺し傷が残されている。さらにその周辺部だけは肉塊として残っているという。
到底普通の人間ができるような犯行ではないため、クラリスが関係している可能性が高く、現在KIPが必死になって犯人を捜しまわっているところだという。
日も落ちてきて、あたりはすっかり暗くなっていた。
「そろそろ帰らないとな」
幹人はまたゆっくりと歩き始めた。そして少し歩いたところで足を少し早める。
つけられている。後ろから足音がするのだ。この時間にこんなところで全く同じ道を同じペースで歩くなど、明らかにおかしい。
いつまでもついてくる「それ」にしびれを切らし、幹人は後ろを振り返る。そこには一つの人影が闇に紛れて静かに立っていた。
「先ほどから後ろをつけてきて、何か用ですか?」
返事は帰ってこなかった。もう一度声をかけようとしたとき、目の前の影はゆらりと揺れ、気づいたときには目の前に二つの青く光る目があった。それと同時に腹部に鈍い痛みが走る。自分が刺されたということに気が付くのに、あまり時間はかからなかった。
そのまますぐに、もう一度脳天まで鋭い痛みが付き上げる。まるで獣のような腕の、鋭利な爪が幹人の右胸に突き刺さっていた。声にならない悲鳴が出る。
家にいる最愛の娘のことが頭に浮かび、ただこの男への復讐心だけがふつふつと湧き上がっていた。
「まさか、お前が……例の、殺人犯……」
朦朧とする意識の中、幹人は見下ろしてくる男を必死に脳裏に焼き付けた。もし本当にあの連続殺人犯なら切り刻まれて、食い殺されるかもしれない。でも死んでからもずっと探し続ける覚悟で、さらなる追撃を待った。
しかしその追撃はいつまでたっても来ることはなく、代わりに遠くからサイレンと人を呼ぶ声が聞こえた。男は小さく舌打ちすると足早にその場を去っていった。
助かった。その安心からか、じわじわと刺されたところが熱くなり、痛みが襲ってくる。その痛みに身を任せ、娘の姿を思い浮かべて幹人の意識は闇の中へと落ちていった。
新学期が始まり、零は二年生になった。運良くいつもの三人が同じクラスになったと聞く。
瑞希はKIP本部とは逆の方向にある大学に通っているため、もう一緒に歩くことは無いが、家が近いことから相変わらず時間がある時は遊んだりしていた。
四月も後半になり、他の新人が先輩に付いて仕事を見学している中、秋は初任務を終えていた。今は正式に慎吾と昭のチームに加わり、小さな犯罪を解決したり、訓練に力を入れたりしている。
今日もいつも通りに出社した。何やら慌ただしいエントランスホールで、すれ違う人に挨拶をしながら秋は慎吾のもとへと向かう。ドアを開けると、慎吾は誰かと電話をしているところだった。邪魔にならないよう、なるべく静かに入り自分の席に着く。
「……そうですか、では準備が出来次第、私たちも加わります」
ちょうど終わったところらしい。電話を切ってチーム全員を集める。秋と真衣、昭が慎吾のもとへと集合した。すると、すぐに慎吾が話し始める。
「例の事件の新たな被害者の意識が戻ったそうだ。天宮はニュースで見たことないか?」
そう言ってテレビをつけた。しばらく関係のないニュースの後に、今回話題になっている内容が流れ出した。
『――となっています。では続いてのニュースです。一昨日の4月27日、C地区で傷害事件がありました。被害者は三十代後半の男性で、腹部を刃物で刺され、右胸は爪のようなもので刺されていたものの、何とか一命はとりとめ、現在病院で治療中ということです。また、今までの手口と似ていることから、最近相次いでいるクラリスによる無差別殺人とみて調査を進めています。C地区に住んでいる方は十分に注意し、何か情報のある方はクラリス国際警察まで報告するようにしてください。続いては――』
その話題が終わると、慎吾はテレビを消す。秋は初めて聞く内容だった。
「いえ、見たことないです。……テレビはあまりつけないので」
「そうか。これは去年の十二月から始まった連続無差別殺人だ。必ず月に二回のペースで起きている。この五か月で、今回のを含めて十件だ」
「相当な数ですね。何回も起きてるのに、まだ捕まっていないんですか?」
「ああ、現場に捜査に役立つ情報を全く残さないんだ。被害者から探ってみると、誰にも共通点がない。それで今まで捜査が難航していたんだが、今回の被害者は生きている。さらに犯人の姿を見たらしい」
秋以外の二人も表情を変える。相当大きな進展のようだ。
「でも、この人が例の事件の被害者とは限らないんじゃ?」
昭が尋ねる。確かに、今回の物がその連続無差別殺人事件と決めつけるには早い気がした。
「決め手としては、その被害者が見た犯人の腕だ。獣のような腕だったらしい。今までの事件は、狂犬に喰い荒らされたようなものだった。前々から検討していた話だが、恐らく相手は獣の力を使えるようなクラリスだろう。そうなると、今回の腕もそのクラリスの能力だ。同一事件で間違いない」
「なるほど、それなら関係ありそうですね。電話の内容的に、僕らは話を聞きに行くんですか?」
「そうだ、重要な手がかりだから今すぐにでも行きたいんだがどうだ?」
慎吾の問い掛けに、全員が首を縦に振る。秋は本格的な大型の捜査に期待しながら準備を進めた。
病院に到着した。身分証明書を提示すると、病室へと案内される。ドアの先にはスーツ姿の人が二人と、ベッドに横になっている男性がいた。
「おお、佐々木。もう来たのか、早かったな」
スーツ姿の二人のうち、男の方が慎吾に話しかける。慎吾は軽く会釈をした。
男はもう一人の腕を引いて、慎吾とすれ違う時に何やら囁いてから部屋を出ていった。
慎吾の表情の変化に、秋は囁かれた言葉の内容が気になる。
「佐々木さん、何言われたんですか?」
「犯人が予想していた人物で、ほとんど間違いなさそうという内容だ。とりあえず実際に話を聞くぞ」
そう言うと、慎吾は男性に近づく。昭は何故か、秋の方を心配そうに見た。
真衣は病室の外で、入ってくる人を見張ることになり、室内には三人と男性一人になった。
「すみません、KIPの者です。体調は大丈夫ですか?」
慎吾が男性に訪ねると、男性は首を縦に振った。
「そうですか、もう既に一度前の人達に話したかもしれませんが、色々質問させてもらいます。まずは確認から。岩田 幹人さんですね?」
「はい」
「一昨日の夕方頃、C地区東側の路地裏で何者かに襲われたというのは?」
「合ってます」
淡々と質問をしていく慎吾と、確認したことをメモしていく昭の様子を秋はじっと見ていた。初任務は終えているとは言えども、まだ新人のため、まずは見て学ぶところからだ。
「では本題です。犯人について、なにか覚えていることはありますか?」
今回一番の本題に入る。幹人は恨みの篭った目で慎吾を見つめながら、自分が見た容姿を語り出した。
「まず男で、身長は俺と同じくらいだったから、168くらいです。腕は獣のようになってました」
「何か犯人を絞り込むことの出来る特徴はありましたか?」
「……ええ、ありましたよ。特徴的だったので」
「それを教えて貰えますか?」
幹人はしばらく無言になったあと、再び恨みの篭った目で三人を睨めつけた。
「言う代わりに、犯人を捕まえたら俺に一発殴らせてください」
そう言った幹人の手は、固く握られていた。相当相手を憎んでいるようだ。
しかし、当然そんな要求を許可することは出来ない。慎吾は少し悩んでから、予想通りの返事をした。
「……すみませんが、その要求は受け入れることは出来ません。相手が誰であろうと、暴力を許可することは出来ないので。でも、必ず捕まえて然るべき処罰を与えると約束します」
幹人はその返事にため息をついてから、手の力を抜いた。
「まあ、そうですよね。さっきの人にも同じことを言われました。絶対に見つけて捕まえてください。そして九人殺した罰を必ず与えてください」
「もちろんです。それが我々の役割ですので」
「……目の色が両目とも青色でした。外国人でたまにいるような淡い青ではなく、深い綺麗な青色です。あんなのは初めて見たのでしっかりおぼえてます。間違いありません」
「なるほど、他に何かありますか?」
「フードを被っていたので、全体は見えませんでしたが、少なくとも前髪は黒でした」
それを聞いた瞬間、秋は一つの嫌な仮説が思いつく。しかし、ありとあらゆる否定の言葉で何とかそれを誤魔化した。
目の色、髪の色ではまだ分からない。それに彼にできるわけが無い。だって彼は記憶喪失で能力も使えないのだから。
――でも、この条件に合う人物が他にいるのか? 事件は全てC地区内で起きていて、恐らく犯人はC地区内のだれか。C地区は比較的人口の多い地域だ。もう一人くらいいるかもしれない。そうだ、それに犯人が零に擦り付けようとして、姿を変えるクラリスで襲ったんじゃ? いや、クラリスは獣化だ。二つ同時に持つことは前例がない――
悪寒が走る。その後の慎吾たちが話している言葉が耳に入ってこない。呼吸が浅くなり嫌な予想ばかりが頭を埋めつくしていた。
ポンッと肩に手が置かれて我に返った。昭が秋の方を心配そうに見ていた。
「ご協力ありがとうございました。捕まえたら報告します。他に何か思い出したことがあれば、またKIPまでお願いします」
慎吾がお辞儀をして、秋達に声をかける。慎吾に続いて、昭と秋もお辞儀をして病室を出た。
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