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壱章 おきつね双子の書店員
壱 3
しおりを挟む私は、白雲さんと一緒に『あやかし書房』と書かれた看板のついたお店へと戻って来た。
店内は天井まである本棚と、梯子もあり所狭しとたくさんの本や書物が並べられている。
店の中央には、大きな洋風のテーブル。
テーブルの上には、卓上のランプの灯りが、その上に並べられている絵本を照らす。
絵本のテーブル前に居るのは、どうも親子連れのようだ。
頭の上に小さな角の二つついた子供の鬼と、その母親らしい鬼が本を買いに来ていた。
「おや、どうも。今日は何をお求めですか?」
よそいきの声を出す、白雲に私は少し目をまるくする。
「あら、店主。今日はこの子に絵の多い本を見繕ってもらっているんですよ」
そういう母親の鬼がにっこりと笑みを浮かべた。
するとすぐに、こぎつねたちが何冊か絵本を持って奥から現れる。
「たくさんあるから、好きなのをどうぞですぅ」
「こちらが昔からあるもので、こちらが新しい絵本です。図鑑もありますよ」
五、六冊の絵本が小鬼の前に並べられ、小鬼は母鬼と一緒にその中の一冊手に取ると、真剣なまなざしで表紙を確認し始めた。
そして、すぐにまた別の鬼のお客がやってきて、本棚をまじまじと見つめては、ゆっくりと店の奥へと移動していく。
大きな背丈の鬼の男性が本棚の上の方へと手を伸ばし、分厚い本を取り出した。
「お前さんは奥へ行ってな」
白雲がそう言うので、そのお客さんの後ろをそっと通り過ぎて、私は言われた通り奥の部屋へと戻ることにする。
(鬼がいっぱいいるのね……街には他にもいたけど……)
思い返すと書房の外では、様々な容姿のもののけたちが歩いていた。
その中でも、人とあまり変わらない姿だが角が生えた鬼たちが多いようにうかがえた。
童話の中のイメージだと皮膚が赤や青だけれど、ここにいるのは至って人間のような容姿で……違うのは頭に角があることくらい。
「かくりよの京の都って、本当に人の世界ではないのね」
とポツリ呟くと、私の袖を引っ張る人がいる。
いや、厳密には人ではない。
ふと見ると先ほどの小鬼がにっこりと笑って私を見上げていた。
「おねえちゃん、可愛いね。でも、どうして角がないの?」
私が、可愛い? 思い返すと今朝、私は可愛らしい少女の姿だったことを思い出す。
「あ、ありがとう……角は元々生えてないのよ」
「へぇ。じゃあ鬼じゃないんだね。何ていうあやかしなの?」
そこへ、慌てて母鬼がやってくる。
「こら、おねえさんにそういうことを聞いてはいけません。ごめんなさいね」
「あ、いえ……」
「ボク、喜助だよ。おねえさんは?」
「これ!」
「あ、いいんです。喜助くん、はじめまして。私は春しおりっていうのよ」
私が今知っている唯一と言っていいほどの個人情報。
「しおりちゃんっていうんだぁ。かわいいねぇ」
にっこりを通り越すほどにかわいい笑顔の喜助くん。
私の方まで笑顔になってしまった。
「しおりちゃんは、どれがいいと思う? ボクね、これとこれとこれで、迷ってるんだ」
喜助くんが並べた三冊の絵本。
一冊は動物の絵が描いてあり、もう一冊は小さな小鬼の男の子の話のようだ。
そして、もう一冊はお花の図鑑。図鑑といっても、子供用のものだ。
「今、一番読みたいのはどれかな? もしかして、お母さんと読む?」
「うーん……」
「これは内緒だけどね、一番最初のページを見てワクワクする本を私は選ぶの。喜助くんもやってみる?」
「うん!」
それから、喜助くんはお花の図鑑を選ぶと、何度も何度も振り返り、大きく手を振りながら母鬼と帰っていった。
「しおりちゃん、またね~!」
私も店の前から、お辞儀をして手を振り返し見送った。
「しおり殿、初仕事しましたね」
「ほんに初仕事ですね」
右近と左近も何だか嬉しそう。
ふりかえると白雲はもう一人のお客様、大きな鬼の男性に本の説明をしているところだった。
「これは八乙女幸次郎の新作ですが、同じ題材で万葉寿の作もあります。これは好みだと思うんですが、どうですかね……私の予想ですと、万葉寿先生は筆が早いので次回作に取り掛かっていると聞いています。続編はお待たせしないかと」
「そうかい。なら……万葉先生の方から読んでみようかな」
へぇ、すごい。
作家先生のことまで熟知しているなんて。
大きな鬼の男性は会計を済ませ、白雲のすすめた本を持っていた風呂敷に入れると「また来るよ」と帰っていった。
その後も、様々なお客さんがやってくる。
ひとり一人が嬉しそうに本を抱えて出て行くのを見ると、私も自然に笑顔になっていた。
本を選んであげたり、紹介したりしているここの書店員のこぎつねたちと白雲。
常連客も多いようでそのやりとりを見ていると、『あやかし書房』はこの街の憩いの場所なんだなと思った。
「さて、今日の当番は右近だな」
「はいな」
「当番?」
目を丸くする私に、左近が教えてくれる。
「ええ、ごはんの当番ですよ」
私も料理ぐらいはできる……気がして右近と台所にやって来た。
昔ながらと思っていたが、意外と便利そうな台所だ。
ガスは供給されているという。
夜の街もガス灯が灯るのだそうだ。
「本当にごはんを作れるのですか?」
右近の疑わしき眼差しが私をとらえた。
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