京都かくりよあやかし書房

西門 檀

文字の大きさ
5 / 31
壱章 おきつね双子の書店員

壱 3

しおりを挟む
 
 私は、白雲さんと一緒に『あやかし書房』と書かれた看板のついたお店へと戻って来た。
 店内は天井まである本棚と、梯子もあり所狭しとたくさんの本や書物が並べられている。
 店の中央には、大きな洋風のテーブル。
 テーブルの上には、卓上のランプの灯りが、その上に並べられている絵本を照らす。
 絵本のテーブル前に居るのは、どうも親子連れのようだ。
 頭の上に小さな角の二つついた子供の鬼と、その母親らしい鬼が本を買いに来ていた。

「おや、どうも。今日は何をお求めですか?」
 よそいきの声を出す、白雲に私は少し目をまるくする。
「あら、店主。今日はこの子に絵の多い本を見繕ってもらっているんですよ」
 そういう母親の鬼がにっこりと笑みを浮かべた。
 するとすぐに、こぎつねたちが何冊か絵本を持って奥から現れる。

「たくさんあるから、好きなのをどうぞですぅ」
「こちらが昔からあるもので、こちらが新しい絵本です。図鑑もありますよ」
 五、六冊の絵本が小鬼の前に並べられ、小鬼は母鬼と一緒にその中の一冊手に取ると、真剣なまなざしで表紙を確認し始めた。

 そして、すぐにまた別の鬼のお客がやってきて、本棚をまじまじと見つめては、ゆっくりと店の奥へと移動していく。
 大きな背丈の鬼の男性が本棚の上の方へと手を伸ばし、分厚い本を取り出した。

「お前さんは奥へ行ってな」
 白雲がそう言うので、そのお客さんの後ろをそっと通り過ぎて、私は言われた通り奥の部屋へと戻ることにする。

(鬼がいっぱいいるのね……街には他にもいたけど……)
 思い返すと書房の外では、様々な容姿のもののけたちが歩いていた。
 その中でも、人とあまり変わらない姿だが角が生えた鬼たちが多いようにうかがえた。
 童話の中のイメージだと皮膚が赤や青だけれど、ここにいるのは至って人間のような容姿で……違うのは頭に角があることくらい。
「かくりよの京の都って、本当に人の世界ではないのね」
 とポツリ呟くと、私の袖を引っ張る人がいる。

 いや、厳密には人ではない。
 ふと見ると先ほどの小鬼がにっこりと笑って私を見上げていた。
「おねえちゃん、可愛いね。でも、どうして角がないの?」
 私が、可愛い? 思い返すと今朝、私は可愛らしい少女の姿だったことを思い出す。
「あ、ありがとう……角は元々生えてないのよ」
「へぇ。じゃあ鬼じゃないんだね。何ていうあやかしなの?」
 そこへ、慌てて母鬼がやってくる。
「こら、おねえさんにそういうことを聞いてはいけません。ごめんなさいね」
「あ、いえ……」
「ボク、喜助だよ。おねえさんは?」
「これ!」
「あ、いいんです。喜助くん、はじめまして。私は春しおりっていうのよ」
 私が今知っている唯一と言っていいほどの個人情報。
「しおりちゃんっていうんだぁ。かわいいねぇ」
 にっこりを通り越すほどにかわいい笑顔の喜助くん。
 私の方まで笑顔になってしまった。
「しおりちゃんは、どれがいいと思う? ボクね、これとこれとこれで、迷ってるんだ」
 喜助くんが並べた三冊の絵本。
 一冊は動物の絵が描いてあり、もう一冊は小さな小鬼の男の子の話のようだ。
 そして、もう一冊はお花の図鑑。図鑑といっても、子供用のものだ。
「今、一番読みたいのはどれかな? もしかして、お母さんと読む?」
「うーん……」
「これは内緒だけどね、一番最初のページを見てワクワクする本を私は選ぶの。喜助くんもやってみる?」
「うん!」


 それから、喜助くんはお花の図鑑を選ぶと、何度も何度も振り返り、大きく手を振りながら母鬼と帰っていった。
「しおりちゃん、またね~!」
 私も店の前から、お辞儀をして手を振り返し見送った。
「しおり殿、初仕事しましたね」
「ほんに初仕事ですね」
 右近と左近も何だか嬉しそう。
 
 ふりかえると白雲はもう一人のお客様、大きな鬼の男性に本の説明をしているところだった。
「これは八乙女幸次郎の新作ですが、同じ題材で万葉寿の作もあります。これは好みだと思うんですが、どうですかね……私の予想ですと、万葉寿先生は筆が早いので次回作に取り掛かっていると聞いています。続編はお待たせしないかと」
「そうかい。なら……万葉先生の方から読んでみようかな」
 へぇ、すごい。
 作家先生のことまで熟知しているなんて。
 大きな鬼の男性は会計を済ませ、白雲のすすめた本を持っていた風呂敷に入れると「また来るよ」と帰っていった。

 その後も、様々なお客さんがやってくる。
 ひとり一人が嬉しそうに本を抱えて出て行くのを見ると、私も自然に笑顔になっていた。
 本を選んであげたり、紹介したりしているここの書店員のこぎつねたちと白雲。
 常連客も多いようでそのやりとりを見ていると、『あやかし書房』はこの街の憩いの場所なんだなと思った。

「さて、今日の当番は右近だな」
「はいな」
「当番?」
 目を丸くする私に、左近が教えてくれる。
「ええ、ごはんの当番ですよ」

 
 私も料理ぐらいはできる……気がして右近と台所にやって来た。
 昔ながらと思っていたが、意外と便利そうな台所だ。
 ガスは供給されているという。
 夜の街もガス灯が灯るのだそうだ。
「本当にごはんを作れるのですか?」
 右近の疑わしき眼差しが私をとらえた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...