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8歳
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あの日。
僕がテオ様に出会ったあの日からめちゃくちゃ魔法も剣術も勉学も母様が死ぬ前より頑張り始めた。
だってテオ様は完璧超人な兄が好きなんだもん。それに努力家な人は性格がゴミでも無条件に認めてくれるし。ワンチャンあるかもしれない。
僕は推しに嫌われたくないからね。
嫌われたら自殺できる自信ある。
嫌いで睨まれたのに、私を見てくれた!ってポジティブにはなれない。考えてもみなよ。好きな人にお前、嫌いだわって言われるんだよ?
しかも僕は前世から思い続けて転生までしちゃったんだよ?
そんなこと言われたら本気で来世に期待しかねない。
病みすぎて《また生まれ変わればいいよね?》《やり直せばいいじゃん。》とか思いかねないの。
だから推しに嫌われないようにめちゃくちゃ頑張るの。でも、クラウスは完璧超人だから本気で練習してるところなんて見られたらイメージが崩れる。
この世界を歪めてテオ様に尊敬されなくなったらそれはそれで死にたくなる。
だって今の僕は勝ち馬に乗ってるんだもん。
無条件でテオ様に好かれるクラウスというキャラ。逃すわけないじゃん。そりゃもう必死だよ。
推しに無条件に好かれるなんて夢みたいじゃん。
絶対にこの立場を逃すわけにはいかない。
絶対だ。僕はテオ様を幸せにする義務があるんだから。
「今日もよろしくね、マーティン。」
そうやって余裕のあるように見せかける笑みを顔に乗せた。
魔法の教師であるマーティンも恭しくお辞儀をしてくる。この人、めちゃくちゃ凄腕なんだけど変人すぎて誰も雇ってくれないんだって。だから僕らが雇った。確かに魔法の知識は人一倍ある。でもめっちゃスパルタ。毎回魔力が空になるまで魔法打たされるし。
でも余裕がないクラウスなんて、クラウスじゃない。どんなときも余裕がある。それがテオ様の大好きなクラウスだから。
頑張れ!僕!!!
▽
▽
いつも通り、ヘロヘロになるまで魔法を打たされて少し眠ってから領地の報告書を見る。
母様のおかげで今の各地方を任せてる人達は誠実だ。執事のアルフレートは領主を総入れ替え時の改革に関わってたらしく武勇伝のようによく聞かされる。
母様、様々だな。あの人のおかげで父様に文句を言われず領地を運用できるんだ。
それはそうとまだほかの貴族と比べて僕らシルヴェスター公爵家は貧しい。使用人の給金をギリギリ払えるくらい。贅沢はできない身の上だ。だから金を増やさないといけない。多少あくどい事をやっても生贄にできる人は2人もいるからね。
さてどう使ってやろうか。
まずは公爵夫人の馬鹿さ加減を公にして馬鹿な貴族を釣ってやろうか。
公爵の女好きを生かして情報を集めようか。でもあの人、頭悪そうだから演技できなさそう。
そういや義母は母様の葬儀の後すぐ家に来た。その後、日も空けずにパーティ開いたな。僕も義母のアホさ加減を知らしめられるから許したけどホントに馬鹿だなぁ。
後妻ならもっとしおらしくしとけばいいのに。前妻が死んだあとすぐに来て、すぐに盛大なパーティ。
寝とりましたよ。なんなら殺しましたよ?とでも取られかねない行為。
しかも、僕の母は侯爵家。義母は男爵家。侯爵家を敵に回していいことなんて何も無いのに。
そのおかげで母方のお爺様とお祖母様と接点ができたんだけどね。
心配してくれてたなぁ。母様に兄もいるらしくてその人は直接僕に会いに来てくれた。
義母もイケメンに目がないのか顔をだしてたけど雰囲気に圧倒されて部屋に帰ってった。父様も顔だけはいいから見て癒しにでもしてくれ。
「お久しぶりです。伯父上。」
ニコリと微笑みを作る。鏡の前でクラウス似の顔を練習したからね。きっと作れてるはず…。
「久しぶりだね。クラウス。にしても、公爵様はなにをお考えなんだか。」
「確かに無邪気な女性ですね。ですが、かわいい弟ができたのは喜ばしいことです。お会いになりますか?」
「…いや、今日はクラウスに会いに来たんだ。遠慮しておくよ。」
そうか。残念。
テオ様はとても可愛いんだよ。なんか最近僕に会いによく来てくれる。嬉しい。
とんとんと小さいノックの後にやっと呼び慣れた《兄上》呼びで声をかけてくれるの。
朝食とかは早起きして使用人の代わりに声をかけてくれるの。一緒に朝食食べませんか?って。か、かわいい。もうね、僕毎朝のこれがすごく好きなの。
今度は僕が早起きしてテオ様を起こしに行ってあげたい。
「公爵様の血が繋がった子だからね。忘れないようにしなさい。身内からの助言だ。」
「肝に銘じておきます。」
伯父上はテオ様が公爵家を継ぐことを心配してるらしい。
僕としてはどっちでもいいんだけどね。
テオ様の幸せが僕の幸せだし。テオ様が公爵になりたいって言うなら公爵家なんで喜んであげちゃう。
もしそう言われた時ように、1人になっても生きてけるようにしないとなぁ。
「そういえば伯父上、もうすぐ皇宮主催の魔術大会があると伺いました。」
この言葉だけで全て察したのか伯父上の手の中にあるカップが音を立てた。
流石だ。1で10を知る人なんだろう。手元に置きたい。
闇魔法は空間魔法と影魔法に特化してるから洗脳なんて容易いんだけど…。やったら怒られるよね。
勿体ないなぁ。もっと魔法の腕をあげないと。
「あるが…。まさか、出席したいと?クラウスはまだ8歳だろう?」
「はい。今の実力を知りたいのです。闇魔法も光魔法も教師たちから合格点を貰っているので広めておく良い機会かと。」
「公爵様はなんと言っている?」
「好きにしろと。」
少し。ほんの少しだけ悩んだ様子を見せたけど僕と目を合わすと頷いてくれた。
良かった。僕もこの大会に出ることは譲れないんだよ。
ゲームではクラウスがこの大会に8歳で出場して優勝する。クラウスからしたら父親や義母に対する当てつけと、怒りをぶつける場所が欲しかっただけ。
でも、テオ様はそんなクラウスに憧れ始める。
まだ劣等感とかは感じる前だし、テオ様に好かれるチャンスだから僕が出ない理由はない。
「…分かった。しかし、シルヴェスター公爵家から出席するなど久しいことだ。出席するからにはシルヴェスター公爵家の顔になることを忘れないように。」
「承知しておりますよ。」
それからはただの世間話をして伯父上は帰られた。
いい人ではなさそう。今回来たのもこれからの公爵家を見極めるためだろう。父様が当主になったからには落ちぶれるのは必須とみて、その上で付き合う価値があるのか漁夫の利はあるのかそれを見極めに来たに違いない。
味方にすればいい関係を築ける、でも弱みは見せれない。見せたら骨の髄までしゃぶり尽くされる。
敵になれば利益だけをむしり取って手を離されそう。
妹が嫁いだ家で血の繋がった甥と言えど食い尽くす対象だとは。
あぁ。恐ろし。
向こうがその気なら僕もそうするからなんでもいいけど。
伯父上を乗せた馬車が見えなくなるまで見送り振り返るとテオ様が柱からこちらを覗いてた。隠れてんだか隠れてないんだかわかんないけどそこが可愛い♡♡
ニヤケそうな表情筋を引き締めて、微笑むだけに留めてテオ様を見つめる。
はわぁ。やっぱり可愛い。顔が緩むぞ。
「テオ、そんなところでどうしたの?」
「兄上を見かけたので挨拶に参りました。」
「ふふ。そうなの?可愛い。そういえば、テオはお菓子好き?」
「好きです!」
無表情で眉はキリッと釣り上げて目を輝かせてる。おもしろ。どうやったらあんな顔作れるんだろ。
「ちょうどいいね。お客様用の菓子が残ってるから2人でお茶会でもしようか。」
なんかゲームとは違うテオ様を連れて客室に戻る。あんなオジサンよりテオ様の方が何兆倍もいいわ。可愛いし面白いし、天使だし。
なにか貢いであげたいなぁ。欲しいものないかな。貢ぎたいよ。貢ぐのはオタクの性だよね。
▽
▽
▽
「テオはマナーがいいね。誰から教わったの?」
綺麗にお菓子食べてるテオ様めっちゃ可愛い。甘いもの好きなんだって。可愛いよね。
推しに貢ぎたい。でもこのお菓子は僕が用意したものじゃないし。
早くなにか事業を作り上げたいなぁ。そしたら僕が稼いだお金でいくらでも貢げるし。
「祖父母から教わりました。」
「いい人達だったんだね。どこに出しても恥ずかしくないよ。」
外に出したら連れ去られそう。可愛いし。天使だし仕方ない。
将来は傲慢不遜のテオ様になるけどそれはそれでかっこいいから別にいい。
「兄上は父様から習ったのですか?」
「僕は家庭教師だよ。父様が人に教えられるマナーしてるわけないじゃない。結婚してるのに他の女性と繋がっちゃダメっていう常識すらできないんだから。無理だよ。」
「俺の母が申し訳ありません…。」
あぁ。顔を曇らせちゃった。
別にいいのに。父様が浮気しようと死のうと僕には関係ないし。
あと4年くらい生きててくれたら僕も幼いけれど家督を継げる年齢になるし。
14歳なら完璧大人の仲間入りできるけど12歳でもまぁ許される。
それに4年もあれば裏で色々手は回せるしね。
母の兄である侯爵様も味方になってくれるだろうし。今日の話し合いは手応えあったもん。絶対にあんな有用なパトロンは逃がさない。
僕ってば前世でベットに篭ってゲームか本を読むくらいしかできなかったぶん、知識はいっぱいあるんだ。
この世界の知識はないから死ぬほど勉強してるけどね。
…はぁ。しんどいわ。努力って。
「そんなことより、ここの生活には慣れた?不便なこととかない?」
「はい…良くしてもらってます。」
「そっか。この公爵家を建て直したのは僕の母だから新しい母をどう思うか心配してたんだけど…。問題ないならいいかな。」
常識的な思考の使用人は正直父様よりも母様の方を気に入ってる。
若いくて頭の悪いメイド以外は、だけどね。若いメイドは父様のお手つきだから母様のこと嫌ってる。
いなくなって後釜になれると信じてたのに新しい自分たちより身分の低い奥様がきたからもう大変だ。
僕の選んだメイド長はすごく大変そう。たまに愚痴漏らすからね。完璧なメイド長が愚痴漏らすから裏では相当荒れてるんだろう。
僕の選んだメイド長も執事長も元は母様の使用人だから。
脳の足りないメイドにはよく思われてないらしい。
僕がここの実権を握ったら総入れ替えするつもりだから頑張れとだけ伝えてる。
2年で実権を握って徐々に入れ替えてって4年かな。
飲みかけの紅茶に口をつけて視線を落とす。
テオ様が可愛くてニヤけそう。一緒にお茶を飲むことができるなんて。
テオ様も使用人に色々言われてるはずなのに隠すなんて。可愛いよ。めっちゃ可愛い。守ってあげたい。でもいじめたい。
矛盾してるけどこの感情は同居してるんだよ。可愛いからこそいじめたい。というか虐められたところを助けてあげたい。
テオ様はプライドクソ高男だからね、泣くことも弱音を吐くこともないだろうけどそれを裏で守ってあげたい。
僕にはその機会が沢山ある。んふふふ。想像するだけでにやけちゃう。
そんなだらしない顔は見せられないからまたお茶に口をつけて隠す。なんの話しをしようか。
クラウスお得意の優しげな微笑みを顔に貼り付けてテオ様を見つめる。
はぁ。かっこ可愛い。僕の推しが目の前にいる。無理だァ。可愛いすぎる。
「テオは魔力適性検査したことある?」
「いえ…。あの、母の実家は貧しかったのでしたことはありません。」
貧しかったの?あの父親はいったい何してんだか。
仮にも血の繋がった息子がひもじい思いをさせるなんて…。やっぱりロクデナシだ。
その分僕が貢ぐからね。安心していいよ。
全部最高のもので揃えよ。内緒でお揃いにしたりしてさ。
いいなそれ。そうしよ。
「そっか。じゃあしなきゃね。髪色からして闇魔法の適性があると思うから準備しないと。」
それに…。あとは僕に何ができるかな。
「あとは…そうだ。剣術。剣術も頼まないと。あと家庭教師でしょ。マナーは…どうしよう。テオのマナーは完璧だけど皇帝に会うなら…いや、そこまでできる貴族も少ないし僕が教える方がいい?テオ、どうする?」
「あの、兄上にマナーは教わりたいです。」
可愛いこと言ってくれるじゃん。
僕もテオ様といっぱいお話したいよ。両思いだね。
「そう?じゃあテオとの時間を作るからその時いっぱいお話しようね。」
「はい!」
はぁ♡かわいい…。天使だわ。
あの義母はあまり好きじゃないけどテオ様を産んだことに免じてある程度の自由は許してあげよ。
父様は種になったけど仕事も私生活も役に立たないし、テオ様に貧乏を強いたから絶対に自由を許してあげない。
僕がテオ様に出会ったあの日からめちゃくちゃ魔法も剣術も勉学も母様が死ぬ前より頑張り始めた。
だってテオ様は完璧超人な兄が好きなんだもん。それに努力家な人は性格がゴミでも無条件に認めてくれるし。ワンチャンあるかもしれない。
僕は推しに嫌われたくないからね。
嫌われたら自殺できる自信ある。
嫌いで睨まれたのに、私を見てくれた!ってポジティブにはなれない。考えてもみなよ。好きな人にお前、嫌いだわって言われるんだよ?
しかも僕は前世から思い続けて転生までしちゃったんだよ?
そんなこと言われたら本気で来世に期待しかねない。
病みすぎて《また生まれ変わればいいよね?》《やり直せばいいじゃん。》とか思いかねないの。
だから推しに嫌われないようにめちゃくちゃ頑張るの。でも、クラウスは完璧超人だから本気で練習してるところなんて見られたらイメージが崩れる。
この世界を歪めてテオ様に尊敬されなくなったらそれはそれで死にたくなる。
だって今の僕は勝ち馬に乗ってるんだもん。
無条件でテオ様に好かれるクラウスというキャラ。逃すわけないじゃん。そりゃもう必死だよ。
推しに無条件に好かれるなんて夢みたいじゃん。
絶対にこの立場を逃すわけにはいかない。
絶対だ。僕はテオ様を幸せにする義務があるんだから。
「今日もよろしくね、マーティン。」
そうやって余裕のあるように見せかける笑みを顔に乗せた。
魔法の教師であるマーティンも恭しくお辞儀をしてくる。この人、めちゃくちゃ凄腕なんだけど変人すぎて誰も雇ってくれないんだって。だから僕らが雇った。確かに魔法の知識は人一倍ある。でもめっちゃスパルタ。毎回魔力が空になるまで魔法打たされるし。
でも余裕がないクラウスなんて、クラウスじゃない。どんなときも余裕がある。それがテオ様の大好きなクラウスだから。
頑張れ!僕!!!
▽
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いつも通り、ヘロヘロになるまで魔法を打たされて少し眠ってから領地の報告書を見る。
母様のおかげで今の各地方を任せてる人達は誠実だ。執事のアルフレートは領主を総入れ替え時の改革に関わってたらしく武勇伝のようによく聞かされる。
母様、様々だな。あの人のおかげで父様に文句を言われず領地を運用できるんだ。
それはそうとまだほかの貴族と比べて僕らシルヴェスター公爵家は貧しい。使用人の給金をギリギリ払えるくらい。贅沢はできない身の上だ。だから金を増やさないといけない。多少あくどい事をやっても生贄にできる人は2人もいるからね。
さてどう使ってやろうか。
まずは公爵夫人の馬鹿さ加減を公にして馬鹿な貴族を釣ってやろうか。
公爵の女好きを生かして情報を集めようか。でもあの人、頭悪そうだから演技できなさそう。
そういや義母は母様の葬儀の後すぐ家に来た。その後、日も空けずにパーティ開いたな。僕も義母のアホさ加減を知らしめられるから許したけどホントに馬鹿だなぁ。
後妻ならもっとしおらしくしとけばいいのに。前妻が死んだあとすぐに来て、すぐに盛大なパーティ。
寝とりましたよ。なんなら殺しましたよ?とでも取られかねない行為。
しかも、僕の母は侯爵家。義母は男爵家。侯爵家を敵に回していいことなんて何も無いのに。
そのおかげで母方のお爺様とお祖母様と接点ができたんだけどね。
心配してくれてたなぁ。母様に兄もいるらしくてその人は直接僕に会いに来てくれた。
義母もイケメンに目がないのか顔をだしてたけど雰囲気に圧倒されて部屋に帰ってった。父様も顔だけはいいから見て癒しにでもしてくれ。
「お久しぶりです。伯父上。」
ニコリと微笑みを作る。鏡の前でクラウス似の顔を練習したからね。きっと作れてるはず…。
「久しぶりだね。クラウス。にしても、公爵様はなにをお考えなんだか。」
「確かに無邪気な女性ですね。ですが、かわいい弟ができたのは喜ばしいことです。お会いになりますか?」
「…いや、今日はクラウスに会いに来たんだ。遠慮しておくよ。」
そうか。残念。
テオ様はとても可愛いんだよ。なんか最近僕に会いによく来てくれる。嬉しい。
とんとんと小さいノックの後にやっと呼び慣れた《兄上》呼びで声をかけてくれるの。
朝食とかは早起きして使用人の代わりに声をかけてくれるの。一緒に朝食食べませんか?って。か、かわいい。もうね、僕毎朝のこれがすごく好きなの。
今度は僕が早起きしてテオ様を起こしに行ってあげたい。
「公爵様の血が繋がった子だからね。忘れないようにしなさい。身内からの助言だ。」
「肝に銘じておきます。」
伯父上はテオ様が公爵家を継ぐことを心配してるらしい。
僕としてはどっちでもいいんだけどね。
テオ様の幸せが僕の幸せだし。テオ様が公爵になりたいって言うなら公爵家なんで喜んであげちゃう。
もしそう言われた時ように、1人になっても生きてけるようにしないとなぁ。
「そういえば伯父上、もうすぐ皇宮主催の魔術大会があると伺いました。」
この言葉だけで全て察したのか伯父上の手の中にあるカップが音を立てた。
流石だ。1で10を知る人なんだろう。手元に置きたい。
闇魔法は空間魔法と影魔法に特化してるから洗脳なんて容易いんだけど…。やったら怒られるよね。
勿体ないなぁ。もっと魔法の腕をあげないと。
「あるが…。まさか、出席したいと?クラウスはまだ8歳だろう?」
「はい。今の実力を知りたいのです。闇魔法も光魔法も教師たちから合格点を貰っているので広めておく良い機会かと。」
「公爵様はなんと言っている?」
「好きにしろと。」
少し。ほんの少しだけ悩んだ様子を見せたけど僕と目を合わすと頷いてくれた。
良かった。僕もこの大会に出ることは譲れないんだよ。
ゲームではクラウスがこの大会に8歳で出場して優勝する。クラウスからしたら父親や義母に対する当てつけと、怒りをぶつける場所が欲しかっただけ。
でも、テオ様はそんなクラウスに憧れ始める。
まだ劣等感とかは感じる前だし、テオ様に好かれるチャンスだから僕が出ない理由はない。
「…分かった。しかし、シルヴェスター公爵家から出席するなど久しいことだ。出席するからにはシルヴェスター公爵家の顔になることを忘れないように。」
「承知しておりますよ。」
それからはただの世間話をして伯父上は帰られた。
いい人ではなさそう。今回来たのもこれからの公爵家を見極めるためだろう。父様が当主になったからには落ちぶれるのは必須とみて、その上で付き合う価値があるのか漁夫の利はあるのかそれを見極めに来たに違いない。
味方にすればいい関係を築ける、でも弱みは見せれない。見せたら骨の髄までしゃぶり尽くされる。
敵になれば利益だけをむしり取って手を離されそう。
妹が嫁いだ家で血の繋がった甥と言えど食い尽くす対象だとは。
あぁ。恐ろし。
向こうがその気なら僕もそうするからなんでもいいけど。
伯父上を乗せた馬車が見えなくなるまで見送り振り返るとテオ様が柱からこちらを覗いてた。隠れてんだか隠れてないんだかわかんないけどそこが可愛い♡♡
ニヤケそうな表情筋を引き締めて、微笑むだけに留めてテオ様を見つめる。
はわぁ。やっぱり可愛い。顔が緩むぞ。
「テオ、そんなところでどうしたの?」
「兄上を見かけたので挨拶に参りました。」
「ふふ。そうなの?可愛い。そういえば、テオはお菓子好き?」
「好きです!」
無表情で眉はキリッと釣り上げて目を輝かせてる。おもしろ。どうやったらあんな顔作れるんだろ。
「ちょうどいいね。お客様用の菓子が残ってるから2人でお茶会でもしようか。」
なんかゲームとは違うテオ様を連れて客室に戻る。あんなオジサンよりテオ様の方が何兆倍もいいわ。可愛いし面白いし、天使だし。
なにか貢いであげたいなぁ。欲しいものないかな。貢ぎたいよ。貢ぐのはオタクの性だよね。
▽
▽
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「テオはマナーがいいね。誰から教わったの?」
綺麗にお菓子食べてるテオ様めっちゃ可愛い。甘いもの好きなんだって。可愛いよね。
推しに貢ぎたい。でもこのお菓子は僕が用意したものじゃないし。
早くなにか事業を作り上げたいなぁ。そしたら僕が稼いだお金でいくらでも貢げるし。
「祖父母から教わりました。」
「いい人達だったんだね。どこに出しても恥ずかしくないよ。」
外に出したら連れ去られそう。可愛いし。天使だし仕方ない。
将来は傲慢不遜のテオ様になるけどそれはそれでかっこいいから別にいい。
「兄上は父様から習ったのですか?」
「僕は家庭教師だよ。父様が人に教えられるマナーしてるわけないじゃない。結婚してるのに他の女性と繋がっちゃダメっていう常識すらできないんだから。無理だよ。」
「俺の母が申し訳ありません…。」
あぁ。顔を曇らせちゃった。
別にいいのに。父様が浮気しようと死のうと僕には関係ないし。
あと4年くらい生きててくれたら僕も幼いけれど家督を継げる年齢になるし。
14歳なら完璧大人の仲間入りできるけど12歳でもまぁ許される。
それに4年もあれば裏で色々手は回せるしね。
母の兄である侯爵様も味方になってくれるだろうし。今日の話し合いは手応えあったもん。絶対にあんな有用なパトロンは逃がさない。
僕ってば前世でベットに篭ってゲームか本を読むくらいしかできなかったぶん、知識はいっぱいあるんだ。
この世界の知識はないから死ぬほど勉強してるけどね。
…はぁ。しんどいわ。努力って。
「そんなことより、ここの生活には慣れた?不便なこととかない?」
「はい…良くしてもらってます。」
「そっか。この公爵家を建て直したのは僕の母だから新しい母をどう思うか心配してたんだけど…。問題ないならいいかな。」
常識的な思考の使用人は正直父様よりも母様の方を気に入ってる。
若いくて頭の悪いメイド以外は、だけどね。若いメイドは父様のお手つきだから母様のこと嫌ってる。
いなくなって後釜になれると信じてたのに新しい自分たちより身分の低い奥様がきたからもう大変だ。
僕の選んだメイド長はすごく大変そう。たまに愚痴漏らすからね。完璧なメイド長が愚痴漏らすから裏では相当荒れてるんだろう。
僕の選んだメイド長も執事長も元は母様の使用人だから。
脳の足りないメイドにはよく思われてないらしい。
僕がここの実権を握ったら総入れ替えするつもりだから頑張れとだけ伝えてる。
2年で実権を握って徐々に入れ替えてって4年かな。
飲みかけの紅茶に口をつけて視線を落とす。
テオ様が可愛くてニヤけそう。一緒にお茶を飲むことができるなんて。
テオ様も使用人に色々言われてるはずなのに隠すなんて。可愛いよ。めっちゃ可愛い。守ってあげたい。でもいじめたい。
矛盾してるけどこの感情は同居してるんだよ。可愛いからこそいじめたい。というか虐められたところを助けてあげたい。
テオ様はプライドクソ高男だからね、泣くことも弱音を吐くこともないだろうけどそれを裏で守ってあげたい。
僕にはその機会が沢山ある。んふふふ。想像するだけでにやけちゃう。
そんなだらしない顔は見せられないからまたお茶に口をつけて隠す。なんの話しをしようか。
クラウスお得意の優しげな微笑みを顔に貼り付けてテオ様を見つめる。
はぁ。かっこ可愛い。僕の推しが目の前にいる。無理だァ。可愛いすぎる。
「テオは魔力適性検査したことある?」
「いえ…。あの、母の実家は貧しかったのでしたことはありません。」
貧しかったの?あの父親はいったい何してんだか。
仮にも血の繋がった息子がひもじい思いをさせるなんて…。やっぱりロクデナシだ。
その分僕が貢ぐからね。安心していいよ。
全部最高のもので揃えよ。内緒でお揃いにしたりしてさ。
いいなそれ。そうしよ。
「そっか。じゃあしなきゃね。髪色からして闇魔法の適性があると思うから準備しないと。」
それに…。あとは僕に何ができるかな。
「あとは…そうだ。剣術。剣術も頼まないと。あと家庭教師でしょ。マナーは…どうしよう。テオのマナーは完璧だけど皇帝に会うなら…いや、そこまでできる貴族も少ないし僕が教える方がいい?テオ、どうする?」
「あの、兄上にマナーは教わりたいです。」
可愛いこと言ってくれるじゃん。
僕もテオ様といっぱいお話したいよ。両思いだね。
「そう?じゃあテオとの時間を作るからその時いっぱいお話しようね。」
「はい!」
はぁ♡かわいい…。天使だわ。
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穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
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