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本編
彼の本心
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どれだけ辛くて会社に行きたくなくても朝は来る。こんな日に有給を取って休む勇気もない私は、鳴り続いていた目覚ましを止めて起き上がった。三浦くんから一件電話が入っていた。それ以外何もないのが三浦くんらしい。冷たいのか、優しいのか、執着がないだけなのか。よく分からない人。結局私は辛い時に一緒にいてくれた人に寄りかかっていただけなのかもしれない。
ありさからも電話があったけれど、もちろんかけ直さなかった。もう着信拒否したほうが精神衛生的にいいかもしれない。
ノロノロと会社へ行く準備を始める。化粧ノリが悪い。それにまた落ち込んでしまう。今日、普通に三浦くんの顔を見られるだろうか。こんな自分を見られたくないと思う。もうこれ以上、情けないところを見られたくない。
「おはようございます」
「おはようございます」
普通に、普通に。そう自分に言い聞かせる度普通が分からなくなる。一歩一歩会社に近付く度気持ちはフワフワするのに体は重くなる。
一瞬で深呼吸して会社に入る。すぐに目に入るのは見慣れてしまった三浦くんの姿。まず三浦くんを探すから最初にそこを見るのが癖になってしまっている。三浦くんが顔を上げた。目が合う。すぐに逸らした。
「おはようございます」
「おはようございます」
挨拶が普通に出来ただけでも上出来だと思う。
***
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
何とかミスをせずに乗り切れた。三浦くんとは特に何の接触もない。仕事も定時ですぐに帰ってしまったし、昨日のことについて話すこともなさそうだ。これで終わりなのか。短かったな。お互いのこともあまり知らないまま、終わってしまった。
会社を出て、エレベーターに乗る。今日の晩ご飯は何にしよう。ああ、でも何も作る気になれないから、コンビニに寄ろう。いつかまた誰かのためにご飯を作りたいとか、誰かと一緒にご飯を食べたいと思う日が来るのだろうか。この数ヶ月の間に痛すぎる失恋を2回もしてしまった身としては、そんな未来が来るとは到底思えない。
「寂しい人生だな……」
「勝手に寂しくならないでください」
エレベーターを降りたところで突然声が聞こえて腕を引かれた。ひっ、と引き攣った声が出る。引きずられて来たのは人気のない階段だった。目の前にいるのは三浦くんだ。どうしよう。顔を見ただけで色んな感情が溢れてくる。恋しさ、怒り、安心、辛さ。どうしたらいいか分からなくて口元に手を当てる。三浦くんはその手を握った。温かい手だった。
「な、に」
「……」
「昨日、話、終わったでしょ、」
「堀さん……彩葉さん」
今更名前で呼ばないで。手を振り払おうとする。でも三浦くんは決して手を離さなかった。
「はな、して、」
「俺は確かに、彩葉さんを落としたかった」
「っ、もう、ききたくな、」
「彼氏と別れて俺のところに来て欲しいと思った」
「やだ……っ、」
「ずっとあんたを、見てたから」
動きが止まる。今、なんて?
「彩葉さんが泣いて会社に戻ってきた日よりずっと前から、好きだったから」
私の目から、違う涙が溢れた。
ありさからも電話があったけれど、もちろんかけ直さなかった。もう着信拒否したほうが精神衛生的にいいかもしれない。
ノロノロと会社へ行く準備を始める。化粧ノリが悪い。それにまた落ち込んでしまう。今日、普通に三浦くんの顔を見られるだろうか。こんな自分を見られたくないと思う。もうこれ以上、情けないところを見られたくない。
「おはようございます」
「おはようございます」
普通に、普通に。そう自分に言い聞かせる度普通が分からなくなる。一歩一歩会社に近付く度気持ちはフワフワするのに体は重くなる。
一瞬で深呼吸して会社に入る。すぐに目に入るのは見慣れてしまった三浦くんの姿。まず三浦くんを探すから最初にそこを見るのが癖になってしまっている。三浦くんが顔を上げた。目が合う。すぐに逸らした。
「おはようございます」
「おはようございます」
挨拶が普通に出来ただけでも上出来だと思う。
***
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
何とかミスをせずに乗り切れた。三浦くんとは特に何の接触もない。仕事も定時ですぐに帰ってしまったし、昨日のことについて話すこともなさそうだ。これで終わりなのか。短かったな。お互いのこともあまり知らないまま、終わってしまった。
会社を出て、エレベーターに乗る。今日の晩ご飯は何にしよう。ああ、でも何も作る気になれないから、コンビニに寄ろう。いつかまた誰かのためにご飯を作りたいとか、誰かと一緒にご飯を食べたいと思う日が来るのだろうか。この数ヶ月の間に痛すぎる失恋を2回もしてしまった身としては、そんな未来が来るとは到底思えない。
「寂しい人生だな……」
「勝手に寂しくならないでください」
エレベーターを降りたところで突然声が聞こえて腕を引かれた。ひっ、と引き攣った声が出る。引きずられて来たのは人気のない階段だった。目の前にいるのは三浦くんだ。どうしよう。顔を見ただけで色んな感情が溢れてくる。恋しさ、怒り、安心、辛さ。どうしたらいいか分からなくて口元に手を当てる。三浦くんはその手を握った。温かい手だった。
「な、に」
「……」
「昨日、話、終わったでしょ、」
「堀さん……彩葉さん」
今更名前で呼ばないで。手を振り払おうとする。でも三浦くんは決して手を離さなかった。
「はな、して、」
「俺は確かに、彩葉さんを落としたかった」
「っ、もう、ききたくな、」
「彼氏と別れて俺のところに来て欲しいと思った」
「やだ……っ、」
「ずっとあんたを、見てたから」
動きが止まる。今、なんて?
「彩葉さんが泣いて会社に戻ってきた日よりずっと前から、好きだったから」
私の目から、違う涙が溢れた。
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