黄昏一番星

更科二八

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3章 バーンデッドディザスター

521話 恐怖をばら撒く者

(リーガル視点)

もう暫く陽の光は見ていない。
ガルシアがバーリの騎士団に連れて行かれて以降俺はずっと影の中にいた。
ガルシアが大公の所有物となり、宮殿で暮らしだしてからも、ガルシアに姿を見せる為に外に出る事すらなかった。
一応俺の存在は知らせはしたのだが、宮殿内は常に人の人数や位置が把握され、会話も聞かれる可能性がある為外に出る事はなく、ガルシアの部屋での手紙だけのやり取りに止めている。文字を教えてもらっていて良かった。

早くガルシアを取り戻して抱きしめたい。その一心で今夜も行動を起こす。
夜の俺は自由だ。空間と闇属性の固有魔法で作り出した影の世界が広がり、宮殿の暗がりを自由に動き回れる。闇があれば誰の影にも入り込める。

闇魔法にはいくつか特徴的な能力がある。
まずは影を操ったり干渉したりできること。
影は当たり前だが本体と完全に同期した存在だ。
影を拘束するとその相手は動けなくなり、攻撃すれば体にもダメージがある。
本体の氣が強すぎる場合影にも干渉できない場合もあるが、それ以外ほぼほぼ防ぎようもない。
俺は入り込んだ影をキツく拘束し痛みを与えながら影に囁く。「ガルシアを追い出せ」と。
更には闇魔法の別の能力で精神干渉をして悪夢を植え付ける。
トラウマを呼び起こさせたり、魔物にじっくり食わせてみたり、そして悪夢の最後にはまた同じように
「ガルシアを追い出せ、さもなくば悪夢は永遠に続く」と認識させた。

本当はこれをするにも気が引けた。
恐怖は長く心に染みつく。
俺はいまだに奴隷だった頃の辛かった事を夢に見て怖くなる。それがとても辛い事を知っているのに。
自分が辛いと思う事を他人を巻き込んでやるのは嫌だ。
ガルシアに対しても悪い印象を与える事をしているのも嫌だった。
だが宮殿からガルシアを助け出すためには宮殿内においてガルシアはいない方がいい、という雰囲気で、大公もガルシアを手放したくなるような状況を作り上げなければいけない。

ガルシアを宮殿の外に逃すのは簡単だ。
俺の空間魔法を使えば結界の外にも出られる。
でもそうすると大公から逃げたという罪を負うことになる。
その結果ガルシアだけでなく、ガルシアの親族すらも刑罰の対象となってしまう。
なので前述したとおり、大公自らガルシアを手放させる必要があるのだ。
こうした理由で俺は宮殿内に恐怖をばら撒き続けた。

当然そんな事をしていると大公や宮殿内の偉ぶっている奴らは原因調査や排除のために人を寄越す。
騎士の精鋭や貴族に顔を効かせた冒険者たちだ。
その者たちの調べで、この現象は闇属性を持つものだと特定はされるが、それでも俺を見つける事は叶わない。
影の中に入り込むには空間属性も必要で、空間属性の魔力を持つものはかなり貴重で情報も少なく、闇属性との複合で影に忍び込める魔法というのは基本的には知られていることではない。

俺は調べにきたものたちに対しては俺は更に強い恐怖を与えた。
影を乗っ取り宮殿内の人を襲わせたり、体の自由を効かせないまま屋根の上に登らせて縁に立たせたり。
宮殿内ではかなり悪どい事をしているものもいる。
その現場に騎士や冒険者を連れて行ったりもした。

大きな混乱と恐怖を齎し続けた結果、1月半ばも過ぎた頃に大公はガルシアを呼び寄せ、宮殿内に住まうものたちを集めた場で処刑した。
処刑人の一撃でガルシアの首は落とされた。誰しもがその光景を見て死を確信しただろう。
だが次の瞬間にはガルシアの首は元の場所に戻っている。首が元に戻る瞬間は誰にも認識する事はできない。実際には首が繋がるという事象すら起きていないのだろう。
ガルシアは不死だ。死なない事は分かっていたのだが、死んでも生き返る、死の概念がない。
だから致命症は無かったことになる。

全員が唖然とした。大公は何度も何度も気が済むまで処刑を命じるが何も起きない。
宮殿内の人々や大公は次々にガルシアを化け物と罵った。腹が立つが俺もそう思う。
騒然とした広間でガルシアは立ち上がり大公へと向けて一言放った。

「処刑してくれてありがとよ!クソ野郎!」

次の瞬間ガルシアは広間から消えた。
俺は影の世界でガルシアを抱きしめた。
処刑、つまり大公はガルシアを手放したのだ。

「もう離さないからな!どこにも行くな!」
「悪いな、面倒かけた」
ガルシアも抱き返してくれて、俺たちは気が済むまで長い間抱きしめあった。
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