黄昏一番星

更科二八

文字の大きさ
344 / 539
3章 バーンデッドディザスター

341話 ワーカー復帰

家具類が取り払われてだだっ広くなった自宅の自室の床で目を覚ました。
飲みに行った日の翌日、昨日は1日自宅を片付けた。
家具類はほぼ全滅だったので、気疲れしてしまった。

家宅捜査の現場には何度も入ったがここまでの壊されようはなかなか無い。
俺が聖女殺しの共犯だから信者の兵士たちに手酷くやられたんだろう。
冤罪だし腹が立つが、こんな場合でも補償などはなく泣き寝入りするしかないことも知っているから余計に虚しくなる。
部屋を放置すると何度も腹が立ち精神的に良くないから昨日1日で片付けてしまったのだった。

「仕事行くか」

昨日片付けている中で前だけ向いていこうと決めた。
修行で魔物退治だけは上手くなったと思うが、ワーカーとしてのブランクはそれだけでは埋まらない。
モーガンやガグはもう仕事をしているらしいから俺も今日からコツコツと始めていこうと思う。

外に出ると少し涼しさを感じるが、まだまだ強い日差しを感じる。
9月は葡萄の収穫期が始まる頃。
ランダバウト領はさまざまな酒の産地であり、葡萄もまた多く栽培されている。
収穫の手伝いや、葡萄を狙う魔物の討伐などでワーカーたちも忙しい時期になる。

「まあ最初は解体だな」

ワーカーをやっていた15年前にはなかったが、今の解体場には風呂があるらしい。
エドガーから聞いて気になっていたのだ。
だから最初は解体の仕事を受けようと決めていた。

ギルド自体は兵士の仕事をしていた時も何度も来ていたので特に懐かしさはないのだが、ワーカーとして依頼掲示板の前に立つと急に懐かしくなった。

「解体の掲示板は相変わらずだな」

朝の騒々しいギルドの中でも解体の掲示板はそれほど賑わいはない。
掲示板には15年前と同じように1枚の紙が貼られて今日解体する予定の魔物が書かれていた。

「初日だしなDランクぐらいにしとくか」

そう思いDランクに指定されたダビーという蛇の魔物の解体を選んだ。
仕事の受注を終えて解体場へ移動すると見知った顔に挨拶をする。

「ようバート世話になるぜ」
「ガルシア?今日は兵士団の用事なんて入ってたか?」
「ワーカーに戻ったんだ、普通にここの仕事だぜ」
「マジ!?兵長やってた方が儲かるだろ。何やってんだ」
「子育ても済んだしもっかい冒険者目指してみようと思ってな」
「熱心さは変わってねえなー。おめえなら安心して任せられるし歓迎するぜ!」

解体場の主任のバートは俺よりも3つほど年上だが、ワーカー時代に何度も一緒に仕事をしたことのある仲だ。
お互いワーカーから身を引いた後も仕事上の付き合いはあった。

「おめえの獲物はダビーか、悪いが建物の裏で捌いてもらってもいいか」
「まあしょうがねえよな」
「鼻と口は布で覆っとけよ」
「あいよー」

ダビーという蛇の魔物は、育てば体長10メートルほどになる大型の蛇だが、頭や胴体は細く一見大きさを感じにくい。
生命力が非常に強く頭と胴体を切り離しても頭の方は生き続けてまた体を生やす。
体の全体から揮発性の毒を発して多く吸い込めば体が性的な興奮状態となり錯乱する。
強力な精力剤の原料となる魔物でもあり全身から血に至るまで活用できる。
解体する場合も血が体に付着するだけでも精力が高まる効果があり長時間触れると心臓に負担がかかり危険とされる。
血は飛沫になって飛び散る可能性もあるので隔離して解体するのはもっともな事だ。

通常の解体と違い癖の強い獲物ではあるのだが、今の俺は何もしなくても常時回復魔法が発動してるような状態になってしまっている。
しかも即死級ダメージでも即回復するレベルの超強力なやつが。
当然解毒効果もある。
なので俺自身はダビーという魔物相手になにも問題がない。
それに今は力を押さえているが、それをやめれば周辺の生き物にも全て同じような回復効果がある。
魂の覚醒の効果という事だが、そんな異常な力を俺は身につけてしまっている。
そいえばスキルも身につけられるんだったな。
それはまた今度。

バートの説明を受けながら解体の準備を進めて、滞りなく解体を進めて夕方前には2匹の解体を終えた。
本来1匹予定だったが、もう1匹解体する人員が揃わなかったので俺が解体した。

作業場を片付けてから解体場の屋内に入ると、男たちはみな前屈みになっている。
若干いたはずの女性の姿はない。
股間のテントを張り上げて呆けていたバートの元へと行き事情を聞いた。

「ダビーの血を小瓶に移し替える作業をうちの職員にやらせてたんだが、1本ぶちまけちまってなー。みんなこの有様よ。おめえはなんで何ともなさそうなんだ?目立たないだけか?」
「俺は回復術師だぜ、解毒してんだよ!勃てばおめぇよりめだつわ!」
「言うじゃねえかよ!それよりここの奴らの解毒も頼んでもいいか?」
「もうしたぜ、そのうち治るだろ」
「なんもしてなくないか?」
「なんもしてないようでしてんだよ。報告書頼むわ」
「ああ、ちょっと待ってろ」

バートは近くの執務机から手早くギルドに提出する書類を準備して渡してきた。

「今ので鎮まった。すげえなおまえ!」
「だろ、回復魔法なら聖女にだって負けねえぜ」
「そんなにか、ちょっと1人見てもらいたい奴がいるんだがよ、いいか?」
「別に構わねえよ」
「おーい、リーガル!ちょっときてくれー」

バートが大きな声で名前を呼ぶと、解体場の隅で1人デスゴートを解体していたリザードマン風の大男がこちらへとやってきた。
その男の名前と風貌には凄く心当たりがあった。

「あー成程、ちょっと人のいない場所でいいか?」
「知り合いか?」

リーガルと呼ばれた男は首を傾げている。

「一方的にな」
「そうか、個室で話すか」
そう言ってバートは個室に案内してくれた。

「すまんな、変な噂たつと困るだろうからな。リーガルさんよ、俺はガルシアってもんだ。こないだまで兵士だったもんで立場上おめぇさんのことも知ってる。俺ならおめぇの喉や角、羽まで治してやれると思うがどうする?
つってもいっぺんには答えられねえか、先ずは喉から、治すか?」

リーガルは驚いた様子を見せた後、こくこくと何度も頷いた。

「マジで治せるのか!」
「やってみるまでさ、いくぞ」

意識を集中して治癒魔法を発動。本来ならば正常な状態を肉体から導き出してそれを基に治癒を行うのだが、古い傷はその状態が正常と固定化してしまっているので治癒魔法での治療が困難だ。
だが正常な状態を導き出す精度を極限まで突き詰めていけば古傷を治すことも可能となる。
リーガルの首元から氣で内部まで観察して捉えた印象を魔法へと落とし込む。そしてしっかりと声を発する部位を再現できるイメージを導き出して治癒を発動。
ゆっくりと時間をかけて癒す。
数十分時間をかけて魔力を注ぎ込み、無事に喉の修復を終えた。

「どうだ?」
「あ、ああ・・!・・・こ・・え・・・で・・・る!!」

かすかすでとても小さなこえだがリーガルは確かに声を取り戻し話すことができた。
それは相当嬉しかったようでリーガルの目からは涙がボロボロとこぼれてきた。

「良かったな」
「よ・・かっ・・・た!あり・・・・が・・とう」
「無理せずに練習すればもっとよくなるだろうよ」

リーガルは泣きながらうんうんと頷いた。
リーガルという竜人族の男のことは立場上報告を受けて知っていた。
タイガが教皇と共に捕まえてきた教会の奴隷。
竜人族としての特徴である角や羽が切り取られており、声を出すこともできない状態だった。
文字を書くこともできず、取り調べは困難を極めていたが、鑑定や根気強い聞き取り、仲間の証言などで犯罪歴は無いとされてそのうち釈放になると決まっていた。

これまでの境遇がどうだったかは知らないが、決して良いものではないのは確かだ。
俺の治癒魔法が1人の人生の助けになれたのならばとても嬉しい事だ。
修行前にはこんな事は出来なかったから早速役に立った。

「角と羽はどうするよ。正直なところ、この国もそこまで安全ではないから人攫いなんかを気にすると種族隠してた方が安心ではあるぞ」

珍しい種族なんかは物好きな金持ちを相手にする人攫いの標的になりやすい。
子供の行方不明率なんかもかなり高い。大人であっても然り。
奴隷印の犯罪も時々あることを知っている。

やっと自由の身となったこいつが、珍しい種族ゆえまた人攫いの被害に遭う可能性を考えると、考えなしに欠損の修復は憚られた。

「・・いま・・・は・・・じゅう・・・ぶ・・ん・・・だ」
「そうかい、必要ならまた協力してやるよ」

リーガルは大きな尻尾をブンブンと振り、笑顔で大きく頷いた。
犬みたいでちょっと愛嬌がある。

「そんならバートのやつにも声治った報告するか」

バートは治療を行っている間に仕事に戻ってしまっていた。
リーガルもうんうんと嬉しそうに頷く。
感情をいっぱいに表現していてなんか楽しいやつだ。
感想 2

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果

景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。 ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。 「俺……ステラと離れたくない」 そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。 「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」 そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。 それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。 勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。 戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──? 誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

一妻多夫の獣人世界でマッチングアプリします♡

具なっしー
恋愛
前世の記憶を持つソフィアは、綿菓子のような虹色の髪を持つオコジョ獣人の令嬢。 この世界では男女比が極端に偏っており、女性が複数の夫を持つ「一妻多夫制」が当たり前。でも、前世日本人だったソフィアには、一人の人を愛する感覚しかなくて……。 そんな私に、20人の父様たちは「施設(強制繁殖システム)送り」を避けるため、マッチングアプリを始めさせた。 最初は戸惑いながらも、出会った男性たちはみんな魅力的で、優しくて、一途で――。 ■ 大人の余裕とちょっと意地悪な研究者 ■ 不器用だけど一途な騎士 ■ ぶっきらぼうだけど優しい元義賊 ■ 完璧主義だけど私にだけ甘えん坊な商人 ■ 超ピュアなジムインストラクター ■ コミュ力高めで超甘々なパティシエ ■ 私に一生懸命な天才年下魔法学者 気づけば7人全員と婚約していた!? 「私達はきっと良い家族になれます!」 これは、一人の少女と七人(…)の婚約者たちが、愛と絆を育んでいく、ちょっと甘くて笑える逆ハーレム・ラブコメディ。 という異世界×獣人×一妻多夫×マッチングアプリの、設定盛りだくさんな話。超ご都合主義なので苦手な人は注意! ※表紙はAIです

【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
 大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。  うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。  まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。  真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる! 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。