異世界ファンタジーまとめ3【短編集】

テタの工房

文字の大きさ
74 / 81

偽りの婚約

しおりを挟む
幼い頃から、姉のエルザは私、リリアンの物を奪っていくのが大好きだった。私の可愛いお人形、お気に入りのリボン、そして、一番大切な、父からの愛情まで。いつも笑顔で、まるで無邪気な子供のように、私のものを自分のものにしてしまう。だから、婚約者であるローレンス様がエルザに奪われるかもしれない、と薄々感じていたのだ。

ローレンス様は、近隣の領地の領主の息子さん。優しくて、少し頼りないところもあるけれど、温かくて、一緒にいると安心する素敵な方だった。私たち二人は、幼い頃から婚約者として育てられ、将来を一緒に夢見てきた。父は、リリアンである私を跡取りとして育ててきた。エルザは次女で、結婚して別の領地へ行くのが当然の道だった。

しかし、ある日、父から衝撃的な事実を告げられた。「ローレンス様との婚約を解消する。エルザとローレンス様の婚約を結ぶ。」

その言葉に、私は言葉を失った。頭が真っ白になり、体中の血が一気に引いていくような感覚だった。エルザは、いつものように無邪気な笑顔で、「リリアン、もう心配しなくていいのよ。ローレンス様は、私の方がお似合いだもの」と言った。

「余りもの同士の婚約ね」と、エルザは楽しそうに付け加えた。その言葉が、胸に突き刺さった。確かに、私は跡取りとして育てられたが、それ以外の才能は特になく、どちらかと言えば地味な存在だった。一方、エルザは華やかで社交的で、誰からも好かれる存在だった。エルザにとって、ローレンス様は「余りもの」なのかもしれないが、私だって、ローレンス様を失った今、そう思われているかもしれない。

しかし、私は怒らなかった。悲しかったけれど、怒りは湧いてこなかった。長年、エルザの振る舞いに慣れてしまっていたせいだろうか。ただ、虚しさだけが胸の中に広がっていった。

婚約解消後、私は自分の部屋に閉じこもり、何日も泣いた。しかし、いつまでも悲しんでいられない。私は、父から跡取りとして育てられたのだ。領地を守り、人々を幸せにする責任がある。

そんな時、隣国の領主、アルフレッド様が私を訪ねてきた。アルフレッド様は、ローレンス様よりも年上で、落ち着いていて、物事を冷静に判断する人だった。そして、驚くべきことに、彼は私との婚約を申し込んできたのだ。

アルフレッド様は、エルザとローレンス様の婚約を噂で聞いていた。そして、エルザの性格や、ローレンス様との関係性について、様々な情報を集めていたらしい。その上で、私こそが、彼にとって理想的な相手だと判断したのだという。

アルフレッド様は、エルザが社交的で華やかなのは良いことだが、領地を治めるには、それだけでは不十分だと考えていた。領地を治めるには、冷静な判断力と、人々のために尽力する強い意志が必要だと。そして、それらを兼ね備えているのは、私だと。

最初は戸惑った。ローレンス様を失ったばかりで、新しい恋なんて考えられなかった。しかし、アルフレッド様は、私を優しく包み込み、私の気持ちを理解しようとしてくれた。彼の誠実さと温かさに触れ、私は次第に心を開いていった。

アルフレッド様との婚約は、エルザとローレンス様の婚約とは全く違った。エルザは、華やかで目立つ存在であるローレンス様を手に入れることで、自分の幸福を手に入れたと信じていた。しかし、アルフレッド様との婚約は、私の内面を見て、私の能力を認めてくれた上でのものだった。

結婚式当日、エルザは、予想通り、美しく華やかなドレスを着ていた。しかし、彼女の表情には、どこか不安げな影が見えた。ローレンス様は、エルザの華やかさに惹かれたのかもしれないが、彼女の浅はかな性格に、次第に失望していくのではないだろうか。

一方、私は、落ち着いた色の、しかし品のあるドレスを着ていた。アルフレッド様と並んで立つと、不思議なほどに、心が落ち着き、安心感に包まれた。

式の後、アルフレッド様は私に言った。「リリアン、君こそが、真の跡取りだったんだね。」

エルザが「余りもの同士の婚約」と言った言葉は、皮肉にも、彼女の未来を暗示していたのかもしれない。私は、エルザを責めたり、ざまぁみろと思ったりはしなかった。しかし、結果として、彼女が「余りもの」になってしまったのは、皮肉な巡り合わせだった。

私は、アルフレッド様と幸せな結婚生活を送っている。領地も繁栄し、人々も幸せそうに暮らしている。エルザのことは、もう気にしない。彼女は、彼女の人生を歩むだろう。そして、私は、私の人生を歩む。それが、私にとって一番幸せな道なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...