異世界ファンタジーまとめ2【短編集】

テタの工房

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砕かれた黄金の契約

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ヴィクトリアは、庭のバラを無心に摘んでいた。真紅の花びらは、彼女の怒りとは裏腹に、美しく艶やかだった。  婚約破棄の知らせを受けたのは、昨日のこと。  夕暮れ時の冷たさが、今なお彼女の肌に残っている気がした。

「アルバート様…どうして…」

呟いた言葉は、風に散って消えた。  アルバート。  彼女の婚約者。  生まれたときから病弱で、魔法の力でしか生きられない、ガラス細工のように繊細な青年だった。  ヴィクトリアは、ゴールドウェル侯爵家の娘として、類まれな魔力を持って生まれた。  その魔力は、アルバートの命を繋ぐためにあると、彼女は信じていた。

二人の婚約は、政治的な駆け引きではなく、純粋にアルバートの治療を目的として結ばれたものだった。  侯爵家と、アルバートの伯爵家。  互いに利害関係を抜きにして、ただ、彼が生き続けるためだけの契約。  ヴィクトリアは、その契約に、彼女の全てを捧げてきた。

彼女の魔法は、アルバートの命の源だった。  毎朝、彼の為に魔法の薬を作り、毎晩、彼の傍らで魔力による治療を行ってきた。  それは、決して楽な仕事ではなかった。  莫大な魔力を使うため、彼女はいつも疲労困憊だった。  それでも、アルバートの笑顔が見られるなら、彼女は喜んですべてを捧げられた。

しかし、その契約は、あっけなく破棄された。

「アニエス嬢の方が、アルバート様の治療に適している」

侯爵家の執事、老練なアーサーが、冷酷な表情で告げた言葉を、ヴィクトリアは今でも鮮明に覚えている。  アニエス。  伯爵家の令嬢で、アルバートとは面識すらないらしい。  一体、何が彼女を、アルバートの治療に適していると言わせるのだろう?

ヴィクトリアは、真実を探ることにした。  彼女は、侯爵家と伯爵家の陰謀を疑っていた。  もしかしたら、アルバートの治療は、単なる口実で、本当はもっと恐ろしい何かが隠されているのかもしれない。

彼女は、まずアーサーに話を聞いた。  しかし、老執事は口を閉ざしたままだった。  次に、アルバートの病状について、王立魔法病院の医師たちに聞き込みをした。  そこで分かったのは、アルバートの病は、魔法の力でしか治療できない、非常に珍しい病気であるということ。  そして、アニエスが持つ魔法の才能について、医師たちは何も知らなかった。

ヴィクトリアは、一人で伯爵家の屋敷へ向かった。  夜陰に紛れて、彼女は屋敷の庭に忍び込んだ。  そこには、驚くべき光景が広がっていた。  アニエスは、アルバートに魔法をかけていた。  しかし、それは治療魔法ではなかった。  彼女は、アルバートから魔力を吸い取ろうとしていたのだ。

その魔力は、恐ろしいほど強力だった。  ヴィクトリアは、アニエスの魔法を止めるために、自らの魔力を全て解放した。  激しい魔法のぶつかり合い。  庭には、凄まじい光と音が渦巻いた。

アニエスは、アルバートの命を奪おうとしていた。  彼女が、アルバートの治療に適している理由とは、彼の魔力を吸収し、自分自身の魔力に転換するためだったのだ。  アニエスは、生まれつき魔力を持たない人間であり、アルバートの魔力を得ることで、最強の魔法使いになろうとしていた。

激しい魔法の戦いの末、ヴィクトリアは勝利した。  しかし、その代償は大きかった。  彼女は、全ての魔力を使い果たし、魔力のない普通の少女になってしまった。  アルバートは、アニエスの魔法から解放されたが、彼の命は、もはや風前の灯火だった。

ヴィクトリアは、アルバートの傍らに寄り添った。  彼女は、もう彼の命を救うことはできない。  しかし、彼の最期まで、共に過ごしたいと願っていた。  彼女の愛は、魔法の力とは異なる、もっと強い力だった。  それは、どんな魔法にも決して勝てない、人間の愛だった。

夜空には、満月が輝いていた。  砕かれた黄金の契約。  それは、ヴィクトリアの涙と共に、静かに夜空に消えていった。  そして、彼女の心には、新たな誓いが芽生え始めていた。  いつか、この世界に平和をもたらすと。  魔法の力ではなく、人間の愛と勇気を持って。
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