異世界ファンタジーまとめ2【短編集】

テタの工房

文字の大きさ
143 / 184

灰燼の恋文

しおりを挟む
焼け焦げる木々の匂いが、風に乗って運ばれてきた。ファンティーヌは、丘の上から、かつて自分の家だった場所を眺めていた。今はもう、灰燼と化した跡地だけが残っている。あの豪邸は、父が築き上げたものだった。きらびやかなシャンデリア、柔らかな絨毯、何百冊もの蔵書…全てが、炎に包まれて消えてしまった。

彼女の胸には、焼け付くような痛みが走った。けれど、涙は出てこなかった。涙を流す余裕すら、もう残っていなかったのだ。大切な人、大切なもの、全てを失った虚無感だけが、彼女の心を覆っていた。

「…大丈夫ですか?」

優しい声が、彼女の耳に届いた。振り返ると、そこに立っていたのは、ギルバートだった。彼女の護衛を務めていた男。あの日、彼女を屋敷から連れ出してくれたのは、彼だった。

ギルバートは、いつも寡黙で、感情を表に出すことは少なかった。強くて、頼りになる男だった。けれど、ファンティーヌは、彼に心を開いたことは一度もなかった。

なぜなら、彼女の心は、ずっと別の男を愛していたからだ。

その男は、貴族の息子だった。容姿端麗で、気品があり、彼女を優しく包み込むような魅力を持っていた。ファンティーヌは、彼に恋をしていた。いつか、彼と結婚して、幸せな家庭を築きたいと願っていた。

しかし、その夢は、灰燼と化した屋敷と共に、消え去ってしまったのだ。

ギルバートは、彼女に静かに近寄り、そっと肩に手を置いた。その触れ合いは、驚くほど温かかった。初めて感じる、彼の優しさだった。

「…もう、大丈夫じゃない。」

ファンティーヌは、呟くように言った。その声は、かすれていて、震えていた。

ギルバートは、何も言わずに、ただ彼女の肩を抱き続けた。彼の温もりは、少しだけ、彼女の心を落ち着かせた。

「…ありがとう、ギルバート。」

彼女は、初めて彼の名前を口にした。

「…ですが、もう…私は…」

彼女は、言葉を詰まらせた。何を伝えたいのか、自分でもよく分からなかった。

「何もいらない。」

彼女は、そう言って、ギルバートの手をそっと払いのけた。

「あなたは…私を助けてくれた。恩がある…でも…」

彼女は、彼の優しさを受け止めきれないでいた。それは、彼女の心の奥底にある、どうしようもない絶望の表れだった。

彼女は、もう、彼に何も与えることができない。焼け落ちた屋敷のように、彼女の心も、何も残っていないのだ。

「あなたは、これから先も、多くの人を守る必要がある。私は…足手まといになるだけ。」

彼女は、ギルバートに、自分の気持ちを伝えようとした。

彼は、彼女の言葉を静かに聞いていた。そして、少しの間、沈黙が続いた。

「…そうかもしれません。」

ギルバートは、ゆっくりと口を開いた。

「でも…私は、あなたを守りたいと思っています。」

彼の言葉には、迷いがなかった。強い意志が、彼の瞳に宿っていた。

ファンティーヌは、彼の言葉を聞いて、驚いた。彼女は、自分の価値がないと思っていた。けれど、彼は、彼女を守りたいと言ったのだ。

「…なぜ?」

彼女は、思わず尋ねた。

「…理由は…よく分かりません。」

ギルバートは、少し照れたように顔を赤らめた。

「でも…あなたと一緒にいたい。それだけですね。」

彼の言葉は、シンプルだった。けれど、その言葉には、深い愛情が込められていた。

ファンティーヌは、彼の言葉に、涙が溢れてきた。それは、悲しみの涙ではなかった。希望の涙だった。

彼女は、ギルバートの胸に飛び込んだ。彼の温かい腕に抱かれながら、彼女は初めて、安心感を覚えた。

全てを失った彼女に、ギルバートという、新たな希望が芽生えた。灰燼と化した過去を背負いながら、彼女は、彼と共に、新たな未来へと歩み始めた。そして、彼女は知ったのだ。本当の愛は、何も持たない彼女にも、優しく手を差し伸べてくれるものだと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...