異世界ファンタジーまとめ2【短編集】

テタの工房

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断罪の血染め婚礼

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冷たい雨は、石畳を濡らし、埃を洗い流すどころか、かえって泥濘と化していた。シャルル皇子は、その泥濘を踏みしめながら、婚約者だったガブリエルの屋敷へと向かった。

内心は焦燥感に苛まれていた。ガブリエルが姿を消したのだ。それも、婚約破棄の申し入れの後、である。彼の軽率な行動、貴族令嬢への恋慕、そして、ガブリエルへの冷淡な態度。全てが、この結果を招いたとシャルルは理解していた。

屋敷の門は、重々しく閉ざされていた。執事の老人は、やつれた顔でシャルルを迎えた。「殿下…ガブリエル様は…お留守でございます」震える声だった。

「どこに?一体どこに消えたんだ!」シャルルは、普段の優雅さを失い、声を荒げた。老執事は、何も答えることができなかった。ただ、地面を見つめ、沈黙を貫いていた。

シャルルは、屋敷の中を調べ始めた。ガブリエルの部屋は、まるで彼女が突然姿を消したかのように、そのままの状態だった。散らかった書物、半分書きかけの手紙、そして、鏡台の上には、一本の銀色の櫛。ガブリエルがいつも使っていたものだ。

その櫛に触れた時、シャルルは、初めてガブリエルの気持ちを理解した気がした。彼女の静かな優しさ、彼の冷淡な態度にも耐え続けた忍耐。それは、決して弱さではなく、強い意志の表れだったのだ。そして、その意志は、ついに限界を迎えた。

屋敷の裏庭に出ると、血の臭いが鼻をついた。シャルルは、吐き気を催しそうになりながら、その臭いの元へと近づいた。そこには、小さな井戸があった。井戸の周りには、血痕が散乱し、地面は赤く染まっていた。

井戸の中を覗き込むと、何かが動いた。シャルルは、恐る恐る井戸の縁に腰掛け、ロープを下ろした。

引き上げられたのは、ガブリエルのドレスだった。鮮血で染まり、破れ、泥まみれになっていた。しかし、ガブリエルの姿はなかった。

シャルルは、絶望に打ちひしがれた。彼は、ガブリエルを殺したのではない。しかし、間接的に彼女を死へと追いやったのだ。その罪悪感は、彼の心を深くえぐり、決して癒えることのない傷として残るだろう。

その日の夜、シャルルは、ガブリエルの父、公爵に呼ばれた。公爵の屋敷は、いつもの豪華さとは対照的に、暗く、重苦しい空気に包まれていた。公爵は、シャルルを冷淡な目で睨みつけた。

「殿下。私の娘はどこにいますか?」公爵の声は、静かだが、その中に秘められた怒りは、シャルルを凍りつかせた。

シャルルは、真実を話すことができなかった。ガブリエルの死を告げる言葉は、彼の喉を通り越さなかった。代わりに、彼は、自分が犯した過ちを、言葉を選びながら説明した。

公爵は、シャルルの言葉を黙って聞いていた。そして、最後には、ゆっくりと口を開いた。「あなたには、私の娘を殺す資格はありません。しかし、あなた自身を裁く資格はあります」

公爵の言葉は、シャルルにとって、死刑宣告よりも重く響いた。それは、社会的な罰ではなく、自責の念による永遠の断罪だった。

それから数日後、シャルルは、王宮を去った。彼は、どこにも行くあてがなく、ただ、ガブリエルの面影を追い求めながら、彷徨っていた。

ある日、彼は、森の中で、一人の少女に出会った。少女は、ガブリエルにそっくりだった。しかし、少女の目は、ガブリエルの優しさとは全く異なる、冷酷さで輝いていた。

少女は、シャルルをじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。「あなたは、私の姉を殺した。その罪を償う時が来た」

少女の手には、小さなナイフが握られていた。それは、ガブリエルがいつも持っていた、銀色の櫛と同じ形をしていた。

シャルルは、何も抵抗しなかった。彼は、少女の復讐を、そして、自分の断罪を、静かに受け入れた。

血の雨は、再び降り始めた。シャルルの血が、森の地面を赤く染めた。彼の悲鳴は、森の奥深くへと消えていった。そして、誰も彼のことを覚えていないだろう遠い未来、その森には、血染めの花が咲くことだろう。それは、ガブリエルの、そして、シャルルの、永遠の墓標となる。
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