ヘルモード・クロニクル

第1話

薄暗い土間で目を覚ました。埃っぽい空気が鼻をつき、体中が痛む。記憶の断片が、まるで劣化したゲームデータのように、断続的に蘇る。山田健一、35歳、サラリーマン。そして、『やり込み好きのあなたへ』という謳い文句のサイト……

何が起きたのか理解するのに時間がかかった。あのサイト、あれは冗談じゃなかったのだ。現実逃避のつもりでクリックしたリンクの先は、異世界への片道切符だった。今、私はアレンという名前の農奴として、この世界の埃っぽい土間で息をしている。

周囲を見渡す。粗末な木造の小屋、土壁にはひび割れが走り、窓枠からは冷たい風が吹き込んでいる。身につけている服は粗雑な麻の着衣、腹は空腹で鳴り響く。まるで、十年前、二十年前のゲームショップの棚に並んでいた、パッケージすら古びたRPGの序盤のような状況だ。あの頃のワクワク感とは全く異なる、生々しい恐怖と絶望が私を襲う。

この世界は、剣と魔法の世界らしい。少なくとも、私の頭の中に残っている断片的な記憶はそう告げている。召喚士によって呼び寄せられた、と。しかし、召喚士が誰なのか、この世界のルールは何か、何も分からない。レベル、ステータス、スキル……そんなゲーム的な概念が、現実として存在するのかすら不明だ。

まずは生き残る事だ。空腹を満たすために、小屋の外に出た。そこは、広大な農地が広がる村だった。人々は、私をまるで空気のように扱った。農奴の私など、取るに足らない存在なのだろう。

日が暮れる頃、やっと一人の老婆が、少しばかりのパンと水を恵んでくれた。老婆は、私のことを憐れむような目で見ていた。その視線に、私は初めて、自分がどれほど無力な存在なのかを痛感した。

数日後、私は農作業に従事させられた。重労働に体は悲鳴を上げる。しかし、文句を言っても、誰も聞いてくれない。この世界では、力こそが全てなのだろう。

ある日、農作業中に、奇妙な石を見つけた。それは、まるでゲームのアイテムのような、不思議な輝きを放っていた。触れてみると、私の頭の中に、大量の情報が流れ込んできた。それは、この世界の歴史、魔法の原理、そして、私の潜在能力に関する情報だった。

どうやら、私は「潜在能力解放」という、非常に稀なスキルを持っていたらしい。そのスキルによって、私は急激に成長できる可能性を秘めていたのだ。しかし、その能力を制御するには、膨大な時間と努力が必要だった。

それからというもの、私は昼は農作業、夜は石から得た知識を元に、魔法の訓練を始めた。最初は全くうまくいかない。何度も失敗し、挫折しそうになった。しかし、私はゲームで培った粘り強さで、諦めなかった。

数ヶ月後、私はある程度魔法を使えるようになった。簡単な回復魔法や、防御魔法を操れるようになったのだ。そして、ある日、村を襲撃してきた盗賊団と遭遇した。彼らは、村人から貴重な物を奪い、暴力を振るっていた。

私は、これまで培ってきた魔法と、潜在能力解放のスキルを使って、盗賊団と戦った。最初は恐怖で体が震えた。しかし、村人たちの悲痛な叫び声を聞くと、不思議な力が湧いてきた。

私は必死に魔法を放ち、盗賊団を撃退した。村人たちは、私の勇姿を驚きと感動の目で見ていた。私はもはや、取るに足らない農奴ではなかった。

この出来事をきっかけに、私の運命は大きく変わり始める。村長は私を高く評価し、私は農奴の身分から解放された。そして、私は冒険者を目指し、この世界を旅立つことを決意した。

ゲームのように、レベルアップ、ステータスアップ、スキル習得……現実の世界ではありえない出来事が、次々と起こる。しかし、それはもはや、恐怖や絶望ではなく、希望に満ちた冒険の始まりだった。

私の旅は、まだ始まったばかりだ。この世界には、まだ多くの謎と危険が潜んでいる。しかし、私はもう怖くない。私は、この世界を生き抜き、自分の道を切り開いていく。それは、まるで、やり込み要素満載の、究極のRPGをプレイしているような感覚だ。そして、私は、このゲームをクリアするまで、決して諦めないだろう。