クマと少女の異世界冒険譚

テタの工房

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第1話

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15歳の少女、フィリアは、窓の外を眺めることしかできない日々を送っていた。学校には行かず、VRMMO「アース・オンライン」に没頭する日々。現実逃避の手段として、彼女はゲームの世界に生き、孤独を紛らわせていた。

ある日、「アース・オンライン」に大型アップデートが実施された。キャンペーンとして、抽選で「クマさん装備一式」が当たるという告知に、フィリアは軽い気持ちで応募した。クマの着ぐるみ、クマさんパペット、そしてクマさんの靴。ありえないほど可愛らしい装備に、彼女は少しだけ胸が高鳴った。

そして、奇跡は起こった。フィリアは見事、クマさん装備一式をゲットした。譲渡不可という文字が、彼女の心をさらに躍らせた。アンケートに答えてゲームを再開しようとすると、視界は激しく歪み、激しい眩暈に襲われた。気が付くと、彼女は現実とは全く異なる、緑豊かな森の中にいた。

辺りを見回すと、自分が着ているのは、ゲームで手に入れたばかりのクマの着ぐるみだった。パペットと靴も、ちゃんと装備されている。これは…まさか、ゲームの世界に転移したのか?

混乱するフィリアの前に、小さな妖精のような生き物が現れた。「ようこそ、フィリア様。神託により、あなたはこの世界に召喚されました」

妖精は、神々からのメッセージを伝える役目を担っているらしい。神々から送られてきたメールのようなものを見せてくれた。そこには、彼女が「クマさん装備」を身に付けている限り、この世界でチート能力を発揮できると書かれていた。しかし、装備を外した途端、運動不足の15歳少女に戻ってしまうという、少々皮肉めいた条件も付け加えられていた。

フィリアは、戸惑いながらも、目の前の状況を受け入れることにした。クマの着ぐるみを着たまま、森の中を歩き始めた。

最初は戸惑いもあったが、クマの着ぐるみのおかげで、森の動物たちとも仲良くなれた。小動物たちは、クマの着ぐるみを怖がるどころか、むしろ懐いてくる。フィリアは、彼らと触れ合うことで、少しずつこの世界に慣れていった。

森を進むうちに、彼女は不思議な魔法の力に目覚める。それは、クマの着ぐるみと深く関わっているようだった。クマのぬいぐるみを操り、敵を攻撃したり、森の恵みを集めたりできるのだ。

魔法の力は、想像以上に強力だった。森の奥深くで出会った、強大な魔物さえも、クマのぬいぐるみを操るフィリアの魔法の前に、あっさりと倒れていった。

やがて、フィリアは小さな村にたどり着いた。村人たちは、彼女を「クマの聖女」として歓迎してくれた。フィリアは、村人たちと協力し、魔物から村を守るため、そして、この異世界で平和に暮らすために、魔法の力を使い、日々を過ごしていく。

ある日、フィリアは、この世界に隠された大きな陰謀を知ることになる。それは、神々や妖精たちさえも巻き込んだ、壮大な争いの始まりだった。フィリアは、クマの着ぐるみを着たまま、その争いに巻き込まれていく。

彼女は、仲間たちと協力し、数々の困難を乗り越えていく。時には、命の危険にさらされることもあったが、クマのぬいぐるみと、彼女自身の強い意志が、フィリアを支えた。

そして、フィリアは、この世界の真実、そして、自分自身の存在意義を見つけることになる。クマの着ぐるみを着た少女の、異世界冒険譚は、まだ終わらない。

彼女の冒険は、続く。それは、友情、勇気、そして、少しばかりのユーモアに満ちた、温かい物語だ。  クマの着ぐるみという、一見すると奇妙な装備が、フィリアの心を癒し、そして、強さを与えてくれた。彼女が、この異世界で本当に大切なものを見つけるまで、冒険は続く。  そして、フィリアは、いつしか、クマの着ぐるみを着ている自分自身を、心から愛するようになっていた。
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