短くて怖い話2【短編集】

テタの工房

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幽明の彼岸花

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夏の蝉しぐれが、アスファルトを照りつける。鏡玲一は、事務所の薄汚れた窓から、汗ばんだ顔を拭った。彼の事務所「幽明探偵事務所」は、築50年近い古民家を改装したもので、薄暗く、湿気がこもっていた。

「またかよ…」

玲一はため息をついた。机の上には、依頼書が山積みだ。どれもこれも、霊に関するものばかり。幽霊、妖怪、呪い… 玲一は自称心霊探偵だが、助手である紫苑悠里は、彼の能力を完全に疑っている。

悠里は、高校生の女の子。黒髪ロングヘアに、大きな瞳。霊感はないと言い張る、現実主義者だ。玲一の能力を「インチキ」呼ばわりすることも珍しくない。

「玲一さん、また変な依頼だよ。今回は…『狐憑き』だって」

悠里は、新しい依頼書を玲一の目の前に突きつけた。依頼主は、近所の神社の宮司。娘が狐に憑依されたらしい。

「狐憑き… 珍しいな」

玲一は、依頼書に書かれた住所を確認した。神社は、少し離れた山の中腹にあった。

「行こうか、悠里」

「はぁ… また山の中かよ。虫が怖いんだけど…」

悠里は、ぶつぶつ文句を言いながらも、玲一の後をついてきた。

神社は、古びたながらも荘厳な雰囲気を持っていた。宮司は、心配そうな顔で二人を出迎えた。

「娘の、咲良が… 狐に憑依されてしまって…」

宮司は、涙声で説明した。咲良は、17歳の少女。数日前から、様子がおかしくなり、狐のような声で話し、奇妙な行動をとるようになったという。

玲一と悠里は、咲良の部屋に案内された。咲良は、ベッドに横たわり、目を閉じている。静かに、しかし確実に、彼女の胸は激しく動いていた。

「…感じるか?」

玲一は、咲良の傍らに近づき、目を閉じた。悠里は、玲一の肩越しに咲良の様子を伺っていた。

「…何も感じないよ。ただの病気じゃないの?」

悠里は、相変わらず懐疑的だ。しかし、咲良の異様な様子は、悠里にも不気味に映っていた。

玲一は、咲良の額に手を当てた。すると、彼の顔色が変わった。

「…これは… 普通の狐憑きじゃない」

玲一の口調は、真剣だった。咲良の体の中には、狐の霊ではなく、何か別の、恐ろしい存在が宿っているようだった。

その夜、咲良は、激しい苦しみの中で、豹変した。彼女の目は、真っ赤に輝き、鋭い爪が伸びた。彼女は、まるで野獣のように、部屋の中を走り回った。

「これは… 呪いだ!」

玲一は、そう断言した。咲良の体に宿っているのは、怨念に満ちた、強力な呪いの霊だった。その呪いは、代々受け継がれてきた、恐ろしいものだった。

玲一は、必死に呪いを解こうとした。彼は、古文書を調べ、様々な儀式を行った。悠里は、玲一の傍らで、彼の行動を記録し、サポートした。

呪いの力は、想像以上に強かった。何度も、玲一は、呪いの霊に襲われた。しかし、彼は、決して諦めなかった。悠里も、最初は玲一の能力を疑っていたが、彼の真剣な姿を見て、徐々に彼を信じ始めていた。

そして、三日目の夜。

玲一は、ついに、呪いを解くことに成功した。咲良は、静かに眠りについた。彼女の顔には、安らぎの表情が戻っていた。

朝焼けが、神社を照らしていた。玲一と悠里は、疲れ果てた体で、事務所へと戻った。

「…終わったな」

玲一は、静かに言った。悠里は、玲一の言葉に、初めて、彼の能力を認めた気がした。

「…うん。終わったね」

悠里は、玲一の肩に、そっと手を置いた。夏の蝉しぐれが、静かに、二人の疲労を癒していた。  その日以来、悠里は玲一の「インチキ」呼ばわりをやめ、心霊探偵としての彼の能力を認めるようになった。  しかし、二人は決して、あの夜の恐怖を忘れることはなかった。それは、二人の間で、永遠に共有される、特別な記憶として。
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