短くて怖い話1【短編集】

テタの工房

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水底の鏡

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あの夏、僕は15歳だった。夏休みも半分過ぎ、セミの声がうるさいほどに響き渡る毎日。近所の廃墟となった遊園地「ドリームランド」に、友達の翔太と涼太と三人で忍び込んだのが、全ての始まりだった。

ドリームランドは、十年以上前に閉鎖されたらしい。朽ちかけた観覧車、錆び付いたメリーゴーラウンド、雑草が生い茂るジェットコースター……見るもの全てが、かつての賑やかさを嘲笑っているようだった。一番奥にある、巨大な鏡の迷路に、僕たちは足を踏み入れた。

入り口は薄暗く、湿った空気が鼻をつく。鏡はところどころ割れ、埃をかぶっていた。歪んだ鏡面に、僕たちの顔が不気味に映る。涼太が、ふざけて鏡に顔を近づけた。

「うわっ!」

涼太が悲鳴を上げた。鏡に映る彼の顔が、一瞬、ぐにゃりと歪み、まるで何かを飲み込んだかのように、元の形に戻ったのだ。僕たちは、ただただ固まった。

「冗談だろ…?」翔太は震える声で言った。

僕は、自分の顔を見つめた。鏡の僕の顔は、いつもの僕と変わらない。いや、違う。少し…暗い。目の奥が、深く暗い。

迷路の中を進んでいくと、鏡の数がどんどん増えていく。それぞれの鏡に映る僕たちは、少しずつ違っていた。一つは、髪が伸びて、顔色が青白い。一つは、目が真っ黒で、笑っていない。一つは、顔が半分溶けているように歪んでいる。

「怖い…もう出ようよ」涼太は泣きそうな顔をしていた。

しかし、出口は見つからない。迷路は、複雑怪奇で、同じような通路が延々と続いていた。鏡に映る僕たちは、どんどん異様な姿になっていく。そして、ある鏡に映った僕には、何かが憑依しているように見えた。

それは、黒い影のようなもので、僕の顔の後ろに蠢いていた。まるで、鏡の中の世界から、何かが僕を侵食しようとしているかのようだ。

突然、涼太が叫んだ。

「あ、あそこに何かいる!」

涼太が指さす先に、鏡の奥に、黒い影のようなものが漂っていた。それは、ゆっくりと、僕たちに近づいてくる。

「逃げろ!」翔太が叫び、僕たちは迷路の中を走り回った。しかし、どこにも出口は見つからない。そして、黒い影は、どんどん近づいてくる。

その時、僕は一つの鏡に気づいた。他の鏡とは違い、この鏡は、完璧に磨かれていて、曇り一つなかった。その鏡に映る僕は、いつもの僕だった。まるで、この迷路に迷い込んだ前の、本当の僕だった。

「もしかして…」

僕は、その鏡に触れた。すると、不思議な感覚が全身を駆け巡った。まるで、何かが僕の中から抜け出ていくような、そんな感覚だ。

次の瞬間、僕は、迷路の外にいた。翔太と涼太の姿はなかった。ドリームランドの入り口には、夕日が沈みかけていた。

僕は、一人、静かに、ドリームランドを後にした。

それからというもの、僕は奇妙な夢を見るようになった。ドリームランドの鏡の中で見た、異様な姿の僕たちの夢だ。そして、時折、自分の顔に、あの黒い影のようなものが、ほんの一瞬だけ、見えることがある。

あの夏の出来事は、僕の中に、深い闇を残した。水底に沈んだ鏡のように、決して、表面には現れない闇を。そして、僕は今でも、あの鏡の迷路に閉じ込められたままなのかもしれない、と、時々思う。あの、水のように冷たい、暗い迷路に。

あの夏、ドリームランドで、僕たちは何かを、失った。そして、何かを、手に入れたのかもしれない。それは、決して、僕たちが望んだものではなかった。

あの日、鏡に映った僕たちは、本当に僕たちだったのだろうか?それとも、鏡の中に潜む、何か別の存在だったのだろうか?

その答えは、今も、僕の心の奥底、水底に沈んだ鏡のように、深く、静かに、眠っている。
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