蜘蛛ですが、それでも生き延びます

テタの工房

文字の大きさ
1 / 1

第1話

しおりを挟む
薄暗い森の、朽ちかけた木の根元に、小さな蜘蛛がいた。体長はわずか数センチ、まだ幼体で、糸を吐くのもままならない。名前は、エルマ。かつては、とある高校の落ちこぼれ生徒だった。勇者と魔王の最後の決戦、世界を揺るがす魔法の爆発に巻き込まれ、気が付いたらこの姿だった。

転生したと知った時の衝撃は、確かにあった。だが、エルマはすぐにそれを受け入れた。クラスでも常に最下位、友達も少なく、存在感の薄い少女だった彼女にとって、蜘蛛になること、異世界に転生すること、それらはさほど大きな変化ではなかったのかもしれない。むしろ、誰にも邪魔されない自由を手に入れた、とすら感じていた。

周りの蜘蛛たちは、弱肉強食の世界で必死に生きていた。エルマは彼らを観察しながら、独自の生存戦略を練り始めた。彼女の武器は、驚くべき精神力と、前世で培った知略だった。オリハルコンと形容されるほどの精神力は、絶望的な状況でも冷静さを保たせ、どんな困難にも屈しない強靭さを与えていた。

最初は、小さな虫を捕食するのに精一杯だった。しかし、エルマは着実に成長していった。彼女は、他の蜘蛛が気づかないような、小さな隙を突いて狩りをし、効率的にエサを確保した。そして、他の蜘蛛が避けるような危険な場所にも果敢に挑み、より大きな獲物を手に入れた。

ある日、エルマは巨大なゴキブリを発見した。他の蜘蛛たちには手が出せないほどの大きさだ。だが、エルマは怯まなかった。彼女は、糸を巧みに操り、ゴキブリを罠にかけ、捕食に成功した。その経験は、彼女の自信をさらに高めた。

成長するにつれて、エルマは自身の能力に気づき始めた。他の蜘蛛にはない、異常なほどの学習能力と適応能力。そして、驚くべき再生能力。傷を負っても、すぐに回復する。これは、前世の記憶と、この世界の魔力、そしてエルマ自身の強い意志が融合した結果だったのかもしれない。

彼女は、森の奥深くへと進み、より大きな獲物を求めて狩りを続けた。そこで出会ったのは、他の魔物たちだった。弱小な魔物から、強力な魔物まで、様々な魔物と戦い、生き残ってきた。エルマは、常に冷静に状況を判断し、最適な戦術を選択した。そして、彼女の驚異的な再生能力は、どんな傷も容易に癒した。

ある時、エルマは一人の人間に出会った。それは、人間の冒険者だった。エルマは、彼の武器や装備、そして戦い方を見て、人間の文明の進歩に驚愕した。同時に、彼らと共存する可能性、そして新たな進化の可能性を感じ取った。

冒険者は、エルマの異常な能力に気づき、彼女を捕獲しようとした。しかし、エルマは、その機敏さと巧みな糸の操りによって、彼を翻弄した。そして、最終的に、冒険者を打ち負かした。

エルマは、冒険者の装備を奪い、それを利用して自身の能力をさらに強化した。彼女は、人間社会に潜入し、人間の知識や技術を吸収していった。同時に、自身の能力を隠しながら、森で独自の勢力を築き上げていった。

彼女は、多くの魔物や人間と戦い、時に協力し、時に裏切り、生き延びてきた。エルマは、もはや小さな蜘蛛ではない。彼女は、この異世界で、独自の進化を遂げた、ある意味最強の蜘蛛となっていた。

ある日、エルマは、かつてのクラスメイトの魂の一部を感知した。彼らも、この世界で転生していたのだ。だが、彼らは、エルマのように蜘蛛になることはなかった。勇者や魔王、あるいは、人間の貴族や戦士として、それぞれの運命を歩んでいた。

エルマは、彼らの運命を遠くから見守りながら、自身の道を歩み続ける。彼女は、蜘蛛として、そして、かつての人間として、この異世界で生き抜くことを誓った。それは、決して楽な道ではない。だが、エルマには、オリハルコンのような強靭な精神力があった。そして、彼女は、どんな困難にも立ち向かう覚悟を持っていた。

彼女の物語は、まだ終わらない。蜘蛛として、異世界で生き延びる、エルマの壮大なサバイバルは、これからも続いていく。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...