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わたし
しおりを挟むもしもあの時違う道を通っていたなら…
そんな後悔をしてももう遅い。
あの日、私の人生は一変した。
あの日は、人生で初めてブレザーの制服に
袖を通した日。
左胸には花が添えられている。
この制服に憧れて受験を頑張ったので、
やっと着られた嬉しさからか
入学式が終わり、帰宅しても
着替えたくはなかった。
折角の初制服なのに、じっと家にいるのも
勿体なく思い、座ってみるも落ち着かず。
暗くなればこの気持ちも治まるだろうと、
行き先も決めずに自転車を漕いだ。
春の夕陽が、今でいう夢かわいい色をしていて、
雲はレースのように連なる。
私は漕いでいた自転車を降り、空を眺めた。
この景色を目の記憶だけで残すのは
勿体ないと思い、首にかけた
ポラロイドカメラを空へ向けたその時。
よそ見をしていた車が私を目がけて
突っ込んできたのだ。
驚きと初めて感じる身体の違和感で
訳が分からず、空を仰いでいた。
どんどん人が近寄ってくるのが
耳から伝わってきたが、
次第に意識は遠のいていき、
目が覚めたら病室だった。
幸い一命は取り留めたが、
後遺症が残り自力では何もできず
病室から窓の景色を眺める日々だ。
あの日が痛みと後悔の記念日になっては、
無事だったのに悲しくなると思い、
せめてあの空を撮っていた事は
間違っていなかったと
自分を正当化したくて、写真を病室に飾った。
あの空の写真を眺めていると、
毎日窓際に止まる小鳥がこっちを見て鳴いた。
まるで同情されているようで、情けなくなる。
天気以外に何の代り映えもしない風景に
飽き飽きしていた。
せめてあの木が紅葉したり
花を咲かせてくれたらな…
あの木は何ていう名前なんだろう。
そんな事を考えながら季節は流れ、秋に。
その木はオレンジ色の細々とした沢山の花を
身にまとった。
距離が遠くて木の種類がわからなかったが、
あの木の正体は金木犀だったのだ。
私はあの香りに惹きつけられたくて、
看護師さんに窓を開けてもらった。
その香りは懐かしく、鼻を通りぬけた瞬間、
まるで空と木々だけの風景が一瞬で
七色になったような感覚だった。
何にもない日々に楽しみができ、
私は毎日窓を開けて金木犀を受け入れた。
もしもあの時事故にあっていなかったら
今頃高校1年の秋。
進路と好きな人のことなんて考えながら
あの木の下を散歩でもしていたのかな。
貴重な10代、青春真っ盛りの時期を
病室で過ごすなんて。
今更友達も出来ないだろうし、
好きな人も…いたら楽しいんだろうな。
私はどんな人と恋していたのかな。
どこか別の所で咲く金木犀の木の下に、
そんな人が居ればいいのに。
想像を膨らませてまだ経験したことのない
ときめきに胸を躍らせていたのも束の間。
空が暗くなっていく姿を見て我に返り、
深いため息をついた。
するといつも来ている小鳥が病室に入ってきて、ベッドの柵に止まった。
「入ってきちゃったの?真っ白で綺麗な子だね」
そう声をかけると白い鳥は2.3回柵の上を
ホッピングした。
「そうだな…この花瓶に飾られているカスミソウみたいな色だから、君の名前はカスミね!」
カスミは首を傾げながらあの空の写真の端に
移動した。
「はは。名前が不満なの?でももう決まりだよ、カスミ。その写真が、気に入ってくれたの?」
カスミは私の問いに鳴いて返答してくれた。
「綺麗でしょ。そんなに気に入ってくれたなら誰かに届けてきてよ。もっと見てほしいんだ、いろんな人に」
その声を聞いたカスミは写真の角を咥え、
窓を出て行ってしまった。
「え?本当に持って行った…言葉がわかるみたいじゃん。どこかに落とさないでよね」
どうせならかっこいい人のところへ
届けてほしいなと、
淡い期待をしながら目を閉じ眠りについた。
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