調律師カノン

茜カナコ

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39.夕食

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「ただいま」
 カノンが家に着いたのは夕暮れ頃だった。

「おかえりカノン。アデルは元気だったかい?」
 父親の問いかけにカノンは目をそらして頷いた。
「……うん」
 カノンは自分の部屋に向かって、とぼとぼと歩いた。

 カノンが部屋に入った時、母親の声が響いた。
「カノン、そろそろ夕食ですよ」
「はい」
 カノンは荷物を部屋に置き食堂に向かった。

 食卓に着き、食前の祈りをささげると父親と母親はパンを口に運んだ。
 カノンはスープを一口のんで、ため息をついた。
「どうした? なんだか元気がないな、カノン」
「なんでもないよ、父さん」

 カノンは口元だけで笑うと、パンをスープにつけて食べた。
「カノン、何かあったんじゃないの?」
 母親が心配そうにカノンを見つめて言った。
「本当に、なんでもないよ」

 カノンは急いで食事を終えると、席を立った。
「ごちそうさま。母さん、とても美味しかったよ」
「良かった」
 笑顔を浮かべた母親と父親に、カノンは微笑み返した。
「今日は疲れちゃった。もう寝るよ」

 カノンは部屋に戻るとベッドにもぐりこんだ。
「……本当の父さんは……デリックさんは……僕を憎んでいた。じゃあ、本当の母さん……ライラさんも僕のことなんて……。僕は捨てられたんだ……」

 カノンはペンダントを握りしめて、涙をこらえた。

 コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
 カノンは慌ててベッドから顔を出し、返事をした。
「はい?」

「あ、俺だ。カノン、何かあったなら父さんでも母さんでも、話を聞くぞ?」
「……ありがとう。大丈夫だよ、父さん」
「そうか? ……おやすみ、カノン」
「おやすみ、父さん」

 足音が遠ざかっていく。

 カノンはドアに手を当てて、静かに微笑んだ。

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