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58.売り上げ
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俺たちは冒険者の館に行った。朝早いせいか、あまり人は多くない。
大翔がレンに「ジーンさんいますか?」とたずねると、レンは「ちょっと待っててね」と言って、俺たちを空いているテーブル席に座るように促した。
少しすると、ジーンがやってきた。
「なんか用か?」
俺たちが立ち上がり頭を下げると、ジーンはきょとんとしている。
大翔が口を開いた。
「あの、今日はありがとうございました。きちんとお礼をしたくって」
「礼なんていらないよ。ああいう、もめごとの対応代も込みで市場の使用料をもらってるんだから。ほら、座れって」
俺たちが座ると、ジーンはニッと笑って胸を張った。
「明日からも頑張れよ、坊主。あ、そうだ、大事なことを言い忘れてた。市場の使用料は、毎日銅貨50枚をポールからもらうことにしようと思うんだが、それで大丈夫か?」
「毎日?」
ポールが怪訝そうな顔でジーンに言った。
「ああ。本当は市場の使用料は月払いだが、子どもが大金を持ち歩くのは危ないだろう?」
「……分かった」
ポールが頷いた。
「よし、契約成立だ。今日は開店祝いってことで、ポールたちの使用料は次の営業日からでいいぜ」
ジーンはそう言ってポールの頭を軽くたたいた。
「ありがとう」
お礼を言ったポールにジーンは微笑んだ。
「じゃ、俺はこれで。また来週」
ジーンは右手を上げて俺たちに別れを告げた。
「そろそろ宿に帰ろうか」
俺が言うと、大翔も頷く。
「そうだね。もう帰らないと。お店の準備もあるし」
俺が席を立つと、大翔とポール、ステラも立ち上がった。
俺たちは冒険者の館を出て、宿に向かった。
宿に着くと、ポールは売り上げの入った袋を机の上に置いた。
「今日の売り上げだ。大翔、いくら渡せばいい?」
「え? 僕たちにお金を払う必要はないよ?」
大翔は俺の方を見て、もう一度ポールを見た。ポールは真剣な顔で大翔を見つめている。
「だけど、世話になってるし……、礼はしないと……」
ステラも、うんうん、と頷いている。
「それじゃあ……これからは、ポール君たちの作ったパンケーキを二つもらうっていうのはどうかな?」
大翔がそう言って俺の方を見た。俺は腕組みをしたまま、軽く頷いた。
「毎日じゃなくていいから、ポール君たちが余分に作れるときはお願いするね。パンケーキをもらえれば、お昼ごはん作らなくて済むし。ね、健?」
「ああ、ポールたちが良ければ、それで良いんじゃないか」
ポールは大翔と俺を交互に見た後、静かに頷いた。
「分かった。それじゃあ、そうする。……毎日同じ味のパンケーキじゃ飽きちゃうだろうから、俺、工夫する」
「ありがとう、ポール君」
大翔はキッチンに行くと、朝食用に避けておいたおむすびを四つ持って来た。
「はい、ポール君、ステラちゃん。朝ごはんにしよう」
「ありがとう。でも……」
「でも?」
「これからは、食事も自分たちで家に帰って用意する。母さんもいるし」
「そっか。気が付かなくてごめんね」
大翔がポールに言うと、ポールは自分の手を見つめたままつぶやくように言った。
「だから、大翔と健の家に来るのは今日で最後にしようと思う」
「……ポール君……」
大翔はじっと耳を澄ませている。
「これ以上、世話になるわけにはいかない」
ポールは机の上に置いた両手をきつく握りしめた。
「……分かったよ。でも、来たくなったらいつでも来てね」
大翔は握りしめているポールの手に、優しく手を重ねた。
「客として来てもいいんだぞ、母親と一緒に」
俺が言うと、ポールはハッとした表情で俺を見上げた。
「……うん。母さんの具合がよくなったら、絶対に三人で食事しに来るよ!」
ポールとステラが目を輝かせて俺たちに言った。
「これ、持って帰っていいかな? 母さんに食べさせたいんだ」
ポールはおむすびを見つめている。
「いいよ。これも持って行って」
大翔は自分の分のおむすびもポールに渡した。
「え? でも……」
「まだあるから大丈夫。さあ、お金をしまって。お母さんが待ってるんでしょ?」
「……うん」
「それじゃ、気をつけて帰ってね。また、市場で会おうね」
「ありがとう、大翔、健」
「ありがとう」
ポールとステラは宿を出ると、走って行った。
「ポール君たち、上手くいくよね」
大翔が小さくなっていく二人を見つめて言った。
「だと良いな。大翔、食事にするぞ」
「うん」
俺は席に着くとおむすびを割って、半分を大翔に渡した。
「あ……」
「余分なんてないのに、自分の分を渡したりして……。大翔らしいけどな」
俺がため息交じりに言うと、大翔は得意げに微笑んだ。
「……健なら、こうしてくれると思ってたから」
大翔は上目遣いで俺を見上げて、おむすびにかじりついた。
「ったく」
俺は大翔のおでこを人差し指で軽くはじいた。
大翔がレンに「ジーンさんいますか?」とたずねると、レンは「ちょっと待っててね」と言って、俺たちを空いているテーブル席に座るように促した。
少しすると、ジーンがやってきた。
「なんか用か?」
俺たちが立ち上がり頭を下げると、ジーンはきょとんとしている。
大翔が口を開いた。
「あの、今日はありがとうございました。きちんとお礼をしたくって」
「礼なんていらないよ。ああいう、もめごとの対応代も込みで市場の使用料をもらってるんだから。ほら、座れって」
俺たちが座ると、ジーンはニッと笑って胸を張った。
「明日からも頑張れよ、坊主。あ、そうだ、大事なことを言い忘れてた。市場の使用料は、毎日銅貨50枚をポールからもらうことにしようと思うんだが、それで大丈夫か?」
「毎日?」
ポールが怪訝そうな顔でジーンに言った。
「ああ。本当は市場の使用料は月払いだが、子どもが大金を持ち歩くのは危ないだろう?」
「……分かった」
ポールが頷いた。
「よし、契約成立だ。今日は開店祝いってことで、ポールたちの使用料は次の営業日からでいいぜ」
ジーンはそう言ってポールの頭を軽くたたいた。
「ありがとう」
お礼を言ったポールにジーンは微笑んだ。
「じゃ、俺はこれで。また来週」
ジーンは右手を上げて俺たちに別れを告げた。
「そろそろ宿に帰ろうか」
俺が言うと、大翔も頷く。
「そうだね。もう帰らないと。お店の準備もあるし」
俺が席を立つと、大翔とポール、ステラも立ち上がった。
俺たちは冒険者の館を出て、宿に向かった。
宿に着くと、ポールは売り上げの入った袋を机の上に置いた。
「今日の売り上げだ。大翔、いくら渡せばいい?」
「え? 僕たちにお金を払う必要はないよ?」
大翔は俺の方を見て、もう一度ポールを見た。ポールは真剣な顔で大翔を見つめている。
「だけど、世話になってるし……、礼はしないと……」
ステラも、うんうん、と頷いている。
「それじゃあ……これからは、ポール君たちの作ったパンケーキを二つもらうっていうのはどうかな?」
大翔がそう言って俺の方を見た。俺は腕組みをしたまま、軽く頷いた。
「毎日じゃなくていいから、ポール君たちが余分に作れるときはお願いするね。パンケーキをもらえれば、お昼ごはん作らなくて済むし。ね、健?」
「ああ、ポールたちが良ければ、それで良いんじゃないか」
ポールは大翔と俺を交互に見た後、静かに頷いた。
「分かった。それじゃあ、そうする。……毎日同じ味のパンケーキじゃ飽きちゃうだろうから、俺、工夫する」
「ありがとう、ポール君」
大翔はキッチンに行くと、朝食用に避けておいたおむすびを四つ持って来た。
「はい、ポール君、ステラちゃん。朝ごはんにしよう」
「ありがとう。でも……」
「でも?」
「これからは、食事も自分たちで家に帰って用意する。母さんもいるし」
「そっか。気が付かなくてごめんね」
大翔がポールに言うと、ポールは自分の手を見つめたままつぶやくように言った。
「だから、大翔と健の家に来るのは今日で最後にしようと思う」
「……ポール君……」
大翔はじっと耳を澄ませている。
「これ以上、世話になるわけにはいかない」
ポールは机の上に置いた両手をきつく握りしめた。
「……分かったよ。でも、来たくなったらいつでも来てね」
大翔は握りしめているポールの手に、優しく手を重ねた。
「客として来てもいいんだぞ、母親と一緒に」
俺が言うと、ポールはハッとした表情で俺を見上げた。
「……うん。母さんの具合がよくなったら、絶対に三人で食事しに来るよ!」
ポールとステラが目を輝かせて俺たちに言った。
「これ、持って帰っていいかな? 母さんに食べさせたいんだ」
ポールはおむすびを見つめている。
「いいよ。これも持って行って」
大翔は自分の分のおむすびもポールに渡した。
「え? でも……」
「まだあるから大丈夫。さあ、お金をしまって。お母さんが待ってるんでしょ?」
「……うん」
「それじゃ、気をつけて帰ってね。また、市場で会おうね」
「ありがとう、大翔、健」
「ありがとう」
ポールとステラは宿を出ると、走って行った。
「ポール君たち、上手くいくよね」
大翔が小さくなっていく二人を見つめて言った。
「だと良いな。大翔、食事にするぞ」
「うん」
俺は席に着くとおむすびを割って、半分を大翔に渡した。
「あ……」
「余分なんてないのに、自分の分を渡したりして……。大翔らしいけどな」
俺がため息交じりに言うと、大翔は得意げに微笑んだ。
「……健なら、こうしてくれると思ってたから」
大翔は上目遣いで俺を見上げて、おむすびにかじりついた。
「ったく」
俺は大翔のおでこを人差し指で軽くはじいた。
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