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15、ピクニック

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 舞踏会から数週間後。
 ベティはクライドに誘われて、湖までピクニックに出かけることにした。
「お昼は、サンドウィッチにスコーンがあれば十分かしら? あとは紅茶を水筒に入れておきましょう」
 ベティが二人分の昼食をかごに詰め込んだ時、玄関に馬車が止まった。

「ベティ様、こんにちは」
「こんにちは、クライド様」
 クライドはベティの手を取り、馬車に乗せた。

 馬車は軽やかに走って行く。
 湖に着くと、気持ちの良い風が吹いていた。
「この辺りで、のんびりしませんか?」
 ベティが言うと、クライドは頷いた。

「ベティ様、この前の舞踏会で気にしていたカール様のことですが、彼は改心したのかは分かりかねますが農民の税を軽くしたようです。我が家に逃げてきた農民も、カール様の敷地に帰っていきました」
 クライドは事務的な口調でベティに報告した。

「まあ、良かったですわ。農民達も一息つけるでしょう」
 ベティは微笑んだ。
 クライドはそれを見て、眉間に皺を寄せた。

「ベティ様は人が良すぎます。そんなことだから、カール様に軽く扱われてしまったのですよ?」
「でも、私は関わった方はすべて幸せになって欲しいと願ってますわ」
 ベティは小首をかしげて、クライドの顔をのぞき込んだ。

「そんなことより、これからの話をしませんか? ベティ様」
「これから?」
 クライドは真面目な顔でベティを見つめた。

「ベティ様は他人に甘すぎます」
 クライドは湖に視線を移して言った。
「まあ、それをいうならクライド様はもう少し笑った方が良いですわ。社交界でも、不機嫌なクライド様と有名ですもの」
 ベティは困った表情でクライドに言った。

「そんな率直な言葉を私に投げかけるのはベティ様くらいです」
 クライドは参ったというように両手を挙げた。
「……不機嫌ですか。そういう訳ではないのですが」

 クライドはベティを見つめてから、ぎこちなく微笑んだ。
「笑顔は難しい……」
「うふふ」

 ベティは不器用な笑顔を浮かべるクライドを見て、吹き出してしまった。
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