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32、ラインとレインが来ました

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橘 信司は忙しかった。
それは、猫カフェの2号店を出すにあたり、猫たちの予防接種やロイの教育をしていたからだった。

「今日も一日頑張りましょう、ロイ君」
「はい、信司さん」
ロイは真面目で素直だった。
店の看板をOPENにする。

しばらくして、新しいお客さんがやって来た。
ロイは、お客さんのあしらいも上手だった。
人間相手の仕事は、信司より上手だと言って良かった。

「よお! また来たぞ!」
「いらっしゃいませ、ライン様、レイン様」
「え!? ライン様とレイン様!??」
ロイが振り返った。

「おお、俺たちを知っているのか。その若い子は何だ?」
ラインとレインは信司に聞いた。信司は答えた。
「2号店の次期店長、ロイ君です」
「はじめまして、ロイと申します」
ロイは、ラインとレインにお辞儀をして話し続けた。

「この国の名誉騎士ライン様とレイン様とお会いできるなんて光栄です」
「おお、やっと俺たちのすごさが分かる奴が来たか」
ラインとレインは嬉しそうだった。
信司がロイに訊ねる。
「そんなにすごいのですか?」
「はい、国のための功績の多さから、騎士の称号を与えられて居るはずです」

「そんなすごい人がいらっしゃるなんて」
ロイは感動していた。
信司はそうなんですか、といつも通りマイペースだった。

「今日は、新メニューがあるな。スープとオムライスを二つずつ頂こう」
「ありがとうございます」
信司はロイと台所に向かった。

「今日はオムライスをロイ君に作って頂きます」
「え、俺ですか?」
「はい、まかないで何回か作りましたよね? 練習したとおりに作れれば完璧です」
ロイは頷くと緊張しながら、卵を割った。

ロイは、前の店では、スープしか作ったことがなかったが、料理のセンスが良かったのかオムライスをすぐにマスターしていた。
最後に似顔絵をケチャップで描いた。

ソードの似顔絵だ。
・・・・・・信司より上手だった。

「おまたせいたしました」
ロイと信司が二人分のスープとオムライスをラインとレインの元に運んだ。
「いつもより、絵が上手いな!」
「ありがとうございます」
ロイは嬉しかった。信司は少し微妙な顔をした。

「いただきます」
「お味はどうですか?」
ロイは不安そうにラインに聞いた。
「美味い! いつも通りの味だ」
ラインはそう言うと豪快に笑った。

「ロイ、お前も猫が好きなのか?」
「はい、信司さんにはかないませんが」
「信司は猫ぐるいだから、相手にしない方が良いぜ」
レインが茶々を入れた。

「猫様たちのために、尽くせる人材です」
そう言って、信司はロイに向かって微笑んだ。
ロイも微笑み返した。

この店では、猫は自由気ままに過ごしていた。
ロイは前の店で、猫たちがお客さんにいじられすぎて疲れているのを見るのが辛かったから、今はとても幸せだった。

「ま、店主の愛想だったら2号店の勝ちかも知れないな!」
「頑張れよ! ロイ!」
「ありがとうございます、ライン様、レイン様」
ロイはラインとレインに頭を下げた。

信司はロイに猫のトイレの片付けをするよう言った。
「いいですか? 前の店では匂いがしていました」
信司は続けて言った。
「そんなトイレでは猫様達が病気になってしまいます」
「はい、信司さん」
ロイは片付けを終え、手をきちんと洗った。

「2号店の開店は、もう少しです。打ち合わせもしていかないといけませんね」
「そうですね。俺一人でも出来るかな?」
不安そうなロイに、信司は言った。
「はい、昔よりお客さんの数を減らします」
信司は笑顔でロイに言った。
「ですから、接客より猫様のお世話中心だと考えて頂ければ良いかと」
「そうですか、良かったです」

信司とロイは、猫たちが楽しそうに遊ぶ様子を静かに見守った。
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