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49、新聞に載りました

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橘 信司は困惑していた。
「今日は外に居るお客様が異常に多いですね」
アレスも頷いた。
「ええ、確かに」

信司が店のドアを開け、外をうかがうと長蛇の列が現れた。
「これはいけませんね。先着順で入場券を作って、後は帰って頂きましょう」
そう言うと、信司は店のメモ帳を使って、1から15までの数字を書いた。

「お客様方、本日はご来店ありがとうございます」
信司はドアの外の行列に向かって大声を上げた。
「猫様達の健康のため、先着15名様に限り入店可能とさせて頂きます」
「ええ!?」
アレスとお客さんは驚いて声を上げた。

店の外には60人くらいの人が並んでいたからだ。
「この店は猫様が一番です。お客様は15人でも多いのですが、本日は特別です」
信司の説明に、お客さんの反応は色々だった。
「しょうがないな」
「せっかくならんだのに」
「もう来ない!」
お客さんの多くは帰って行った。

「信司さん、お客様がこんなに居るのに15人しか入れないんですか?」
アレスは信司に戸惑いながら聞いた。
信司は静かに頷いた。
「猫様は大勢の人間が苦手です」

少し不満げなアレスを見て、信司は言葉を続けた。
「いつも頑張って相手をして下さっていますが、15人でも多いくらいです」
「それにしても、どうしてこんな急に人が増えたんでしょう?」
アレスが信司に問いかけると、後ろの方から声がした。

「あれ!? まだお店Closeなの!?」
「……エレナさん、貴方の仕業ですか?」
信司は後ろから歩いてきたエレナに、明らかに不機嫌な顔を向けた。

「おっかない顔しないで下さい!」
エレナはアレスに会釈をしてから話し続けた。
「私だって新聞の記事にするとき店名を伏せたり、店の写真をぼやかしたり気を遣ったんですよ!」
「その結果がこれです。迷惑極まりないです!」
信司は語調を荒げた。

エレナは口を尖らせた。
「お客さん増えてラッキーでしょ?」
信司は冷たく言い放った。
「猫様達の迷惑です」

アレスは二人の間に割って入った。
「とりあえず、お店開けませんか?」
「アレスさん、そうしましょうか」
「ちょっと、私のことは無視!?」

信司とアレスは先頭から15名に入場券を配って、残っていたお客さんにも帰ってもらった。
店の看板はCloseのままにした。
後から来たお客さんが入ってこない様に気を遣ったのだ。

エレナの記事で来たであろうお客さんはすぐに分かった。
猫達をなで回したり、大きな声で可愛いと騒いだり、とにかく賑やかだった。

「明日以降の対策を考えないといけませんね」
「そうですね」
「にゃーん」

信司とアレスは注文を受けたり、料理を作ったり、猫達の世話をしたりでヘトヘトになってしまった。
なにより、常連客が入れないという事態を作ってしまったのが信司は嫌だった。
「まったく、新聞記者という人間は信じられません」
「信司さん、落ち着いて」

憤慨している信司をアレスはなだめた。
お客さんもひとしきり騒いで気が済んだのか、客席が静かになってきた。

「2号店が心配ですね」
アレスがそう言うと、信司も頷いた。
「今はこの店を離れることが出来ません。ロイ君達を信じましょう」
「そうですね」

こうして、いつもより遅い時間に店は閉店した。
猫達も少し、疲れているようだ。
信司は一匹ずつ様子を見て、ため息をついた。
「猫様達にご負担をかけてしまい、申し訳ありませんでした」

アレスが信司に聞いた。
「明日からどうします?」
「明日は12人までの入場制限をかけましょう」

信司はそう言うと、猫達のトイレを掃除し始めた。
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