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51、レイナはお嬢様でした

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「レイナ様!」
「セバスチャン、どうしてここに!?」
ロイはレイナの声に振り返った。
レイナと話していたのは、初老の男性だった。

ロイは慌てて、入り口の方に移動して声をかけた。
「こんにちは、此所の店主をしているロイと申します」
「あ、失礼致しました。私デューク家の執事のセバスチャンと申します」
「どうしましたか? レイナさん?」
ロイはレイナに尋ねた。

レイナは観念したような表情で言った。
「私、家に秘密にして此所で働いていたのです」
レイナの言葉にロイは驚いた。
「ええ!? そうなんですか?」

セバスチャンは言った。
「はい、由緒正しいデューク家のお嬢様がこのような場末の店で働いているとは」
「場末なんて、言わないで下さい。ここは良いお店です」
レイナはそう言って、ロイに頭を下げた。

「秘密にしていて申し訳ありません」
「信司さんはこのことを知っているんですか?」
ロイの問いかけにレイナは首を振った。

「それじゃ、今日の午後は店を休みにしてロイさんのお話を聞いてみましょう」
「はい、わかりました」
レイナは俯いた。

セバスチャンは言った。
「それでは、私も話し合いについて行かせてください」
ロイはセバスチャンのことを見て、頷いた。
「わかりました」

ロイは午前中に入ったお客さんが帰ると、お店の看板をCloseにした。
三人は1号店に移動した。

「ここが1号店です」
ロイとレイナは、セバスチャンに言った。
「こんにちは、信司さん」
「こんにちは、ロイ君、レイナさん、どうしました?」
信司はふと、二人の後ろのセバスチャンを見つけるとロイに聞いた。

「そちらの方は?」
「セバスチャンと申します。レイナ様がお世話になっております」
セバスチャンは信司に頭を下げた。
「私の家の執事です」
「そうですか。 初めまして、橘信司と申します」

「唐突ですが、レイナ様はこのような店で働いている身分ではないのです」
セバスチャンはめがねを指でくいっとあげると、信司を見据えた。
信司はとまどいながらも、店の中にセバスチャンを案内した。

「あの、それでレイナさんの身分とは?」
「デューク家の跡取りとして、英才教育を受けております」
セバスチャンの言葉に、レイナは気まずそうに俯いている。
「私、座学だけでは足りないと思って、社会に出たんです」
レイナはセバスチャンに言った。

「それでは、経歴を詐称していたという事ですね」
信司は、困った顔でレイナとセバスチャンを見比べた。
「はい」
レイナは観念した表情で、頷いた。

「困りましたね。私としては家の了承を得ているという前提で働いて頂いてるので」
信司はそう言ってから、セバスチャンに問いかけた。
「レイナさんは今、2号店でよく働いて頂いてます。猫様達との相性もよいので、できれば働き続けて頂けると助かるのですが」

セバスチャンは言った。
「私にはお嬢様が働くことを決める権限がありません。デューク家で一度話し合いをしてもよろしいでしょうか?」
「はい、私も確認が足りず申し訳ありませんでした」
信司がセバスチャンに頭を下げるとレイナが言葉を挟んだ。
「信司さんは謝ることありません。私が嘘をついたのがいけないんです」

「それでは今夜、話し合いの機会を設けます」
セバスチャンがそう言うと、レイナは立ち上がって言った。
「セバスチャン、私は此所で働きたいです」
「それは旦那様と奥様にお伝え下さい」
セバスチャンとレイナのやりとりを信司は見ていた。
「レイナさん、ご家族の了承をとってきて下さい」

「……はい」
信司の言葉に、レイナは素直に頷いた。
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