ワイルド・ソルジャー

アサシン工房

文字の大きさ
11 / 44
第2章 軍の任務

第9話 燃え盛る戦場

しおりを挟む
 部下を全滅させられ、頼みの綱が無くなった放火魔ビリー。
 しかし、彼の表情からは追い詰められたような様子は感じられず、屈強な軍人2人を目の前にしても余裕の表情を見せていた。

「そろそろ俺も本気モードで行くぜ! 俺だって伊達に放火団の隊長やってるわけじゃねーんだよ!」

 ビリーは背中のジェット機を稼働させてホバリングし、こちらに前進しながら火炎放射を放つ。
 マティアスは炎を避け、ハンニバルは炎を気にせずビリーに向かって高くジャンプするが、ビリーは上方向に上昇して軽々とかわした。

「バーカ! 俺に近接攻撃は当たらねーよ! これでもくらいな!」

 ビリーは空中でウォーターガンを取り出し、ジャンプ攻撃に失敗して大きく隙が出来たハンニバルに向かって黒いオイルを噴射する。
 ハンニバルはオイル塗れになり、体が滑りやすくなってしまった。

「くそっ! 気持ち悪いもんぶっ掛けてきやがって! 撃ち落としたらたっぷりお仕置きしてやるぜ!」

 ハンニバルはバズーカを構えてビリーに狙いを定めようとするが、足元が滑って体勢を立て直すこともままならなかった。
 その直後、ビリーは持ち物を火炎放射器に切り替え、ハンニバルに向かって発射した。

「汚物は消毒だ~! いくら人間兵器でもオイル塗れの状態で消毒されたらたまらないだろぉ~?」
「ぐああああああ!!」
「ハンニバル! 大丈夫か!?」

 ハンニバルの体は激しく燃え盛り、彼の体力を削っていった。それでもハンニバルは熱さに耐えつつバズーカで砲撃を放つ。
 しかし、炎とオイルのせいで狙いが定まらない上に、敵はジェット機で素早く移動しているので命中させることが出来なかった。
 
「ヒャーッハッハッ! アメリカ軍最高傑作の人間兵器が手も足も出ないなんて笑っちまうぜ!」

 ビリーはホバリングしながら勝ち誇ったかのように高笑いしていた。
 マティアスは炎上しているハンニバルの身を案じて彼に接近し、ビリーに聞こえぬように小声で話しかける。

「私があいつの気を引く。その間に体を洗い流して来い」

 マティアスがそう言うと、ハンニバルは燃えた状態のまま無言でうなずき、水が出そうな場所へ走って行った。
 まだ破壊されていない場所があれば体の炎を消せるかも知れない。

「おい、待て! 逃げんじゃねーよ!」

 ビリーはハンニバルを追いかけようとするが、その直後にマティアスがビリーの頬に銃弾を命中させた。
 ビリーは空中で停止し、撃たれた頬を抑えつつマティアスの方を見つめる。

「お前の相手はこの私だ。掛かって来い」
「痛ぇ! やりやがったなてめぇ! もう許さねえからなぁ?」

 ビリーは再びウォーターガンを取り出し、今度はマティアスに向けて噴射した。マティアスは回避に専念しつつ隙を伺う。
 しかし、このままでは足場がオイル塗れになり、時間が経つにつれて不利になるのは明らかだ。
 そして足場のオイルの範囲が広くなったところでビリーは火炎放射を放ち、辺り一面を炎上させた。
 マティアスは広範囲に燃え盛る炎を回避したが、ここにはもはや足場が無い為、少し離れた隣の場所へビリーを誘導する。

「逃げたって無駄だぜ? いずれこの街は完全に焼け野原になるんだからよぉ。あの人間兵器の野郎も今頃どこかで黒焦げになって死んでんじゃねーの? ヒャーッハッハッ!」
「ハンニバルはあの程度で死にはしない。……ところで貴様らはなぜ街を焼き払う? 貴様らのやっていることは生きるために略奪をする賊以下だ!」

 マティアスがビリーに放火の理由を問いかけると、ビリーは一旦武器を下ろし、得意げな表情で語り始める。

「そんなに知りたいなら冥土の土産に教えてやるよ。簡単に言うと証拠隠滅よ。存分に略奪した後、市民どもが戦争に巻き込まれて死んだことにして焼き払うのさ! てめーも軍人ならそれくらい経験してるだろ? そして何よりも汚物を消毒するのが最高に心地良いからだぜ!」
「……そうか。貴様の言う通りだ」
「だろ? てめーは真面目な面してるくせに結局俺たちと変わんねーんだな! ヒャーッハッハッ!」
「……汚物は消毒せねばな!」

 その瞬間、遠くから砲弾が発射され、ビリーに直撃して吹っ飛ばした。
 ビリーが地面に転がり落ちたところをマティアスは素早く飛び掛かって押さえつける。
 マティアスがビリーに放火の理由を問いかけたのは、ハンニバルが帰ってくるまでの時間稼ぎの為だったのだ。

「待たせたな、マティアス! あっちにまだ生きてる噴水があったおかげで助かったぜ!」

 ハンニバルが体の炎とオイルを洗い落とした状態で戻って来た。噴水に飛び込んでなんとか一命を取り留めたようだ。
 
「ちくしょう! 何であいつら全部焼き払わなかったんだよ!」

 悔しそうに叫ぶビリー。マティアスはそんなビリーに馬乗りになって押さえつけている。
 必死に抵抗するビリーだが、マティアスはついに両手でビリーの両腕をへし折った。

「ぎゃあああああ!!」

 痛みのあまり悲鳴をあげるビリー。その隙にマティアスはビリーからウォーターガンを奪い取る。
 そして、立ち上がってビリーの腹を踏みつけながら、オイルをビリーの全身に噴射した。
 今まで硬い表情でいることが多かったマティアスが、珍しく楽しそうな表情でウォーターガンを発射している。

「ふざけんな! てめぇ……う……うもう……」

 ビリーは怒りの声を上げようとしたが、その瞬間顔面にオイルを噴射されてまともに喋ることも出来なかった。
 やがてハンニバルがビリーに近づき、火炎放射器を奪い取った。

「どうだ? これから消毒される気分は?」

 ハンニバルはサディスティックな表情でビリーに声を掛け、火炎放射器の銃口をビリーに向ける。
 その表情はまるで長年の恨みを晴らす時が来たような、狂気に満ちた表情だ。
 ハンニバルはビリーのせいで危うく大やけどをするところだったので当然だろう。

「嫌だ……! 死にたくない……!」
「この俺にこれだけのことをしたからには、当然やられる覚悟はあるよなぁ?」
「ハンニバル、後は好きにしろ」

 マティアスはビリーから離れ、ハンニバルに後処理を任せた。

「ハッハッハッ! 汚物は消毒だー!!」

 ハンニバルはビリーがよく口にしていた台詞と共に、ビリーに向けて火炎放射を放つ。
 ビリーの体は一瞬で炎上し、体を数秒バタバタさせた後に息絶えた。
 無抵抗の市民を「汚物」と呼び焼き殺していた男が、同じ方法で"消毒"されるという哀れな最期だった。
 気がつくとハンニバルの焼けた皮膚が元に戻りかけていた。この回復の早さも改造人間故なのだろう。

「ハンニバル、無事で良かった。お前、もう皮膚が治りかけてるんだな」
「いやー、オイル塗られて燃やされるとさすがにキツいぜ。俺は生まれつき治りが早いから良いんだが、もしマティアスが同じ目に合ってたらと思うとゾっとするぜ。今回はお前が大活躍だったな!」

 2人が互いの無事を喜んでいたその時、空から雨が降り始めた。この雨のおかげで街の炎は消えるだろう。

「今頃雨が降って来たな。もっと早く降ってくれれば楽に戦えたってのによ」
「まぁ任務は成功したから良いじゃないか。さて、軍事基地へ帰ろうか」

 2人は最初に入って来た出入口に戻り、軍用車に乗って軍事基地へ帰還した。
 軍事基地へ到着すると2人は真っ先に司令室へ向かい、任務の報告をする。

「ウィリアム司令官、街を燃やしている奴らは全員始末したぜ。そしてこれは敵の隊長が持ってた火炎放射器だぜ!」

 ハンニバルはビリーから奪い取った火炎放射器を嬉しそうに見せびらかしながら言った。

「よくやった、諸君。2人とも無事で何よりだ。マティアス、初めての任務はいかがだったかな?」
「厳しい戦いでしたが、なんとか任務を達成できました。次の任務も精一杯頑張ります」

 マティアスは任務を達成出来たことで自分に自信を持つことが出来た。
 自分は軍人として十分通用する力を持っていた、そして何よりもハンニバルの命を助けることが出来たのだと。

「これが今回の報酬だ。次の任務は2日後に説明する。それまではゆっくり休んでくれたまえ」

 ウィリアム司令官が2人に報酬を渡すと、2人は敬礼をし、その後司令室を後にした。
 そして次の任務までの間、2人はゆっくり休息を取った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...