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第3章 研究所の陰謀
第30話 惨劇の始まり
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研究室にはオスカーとハンニバルだけが残っていた。
「ハンニバル、お前はマティアスとの勝負に負けた。そのことについてどう思う?」
「確かに俺は負けたが、おかげで俺は更に自分を鍛えようって気になれたぜ」
ハンニバルの答えは意外と前向きだ。しかし、オスカーはその返答に納得いかないようだ。
「お前は最高傑作の人間兵器だった。だが、最近改造人間になったばかりのマティアスにその座を奪われてしまったんだぞ。悔しいと思わないのか?」
「そりゃあちょっとは悔しいが……。だから俺はその悔しさをバネに自分を鍛えるって言ってるじゃねーか」
「いや、今のお前ではどうあがいてもマティアスを超えることは出来ない」
悔しさを見せつつも前向きにいこうとするハンニバルを、オスカーは真っ向から否定した。オスカーの表情からは不敵な笑みが浮かび上がっている。
「だが、お前が更なる肉体改造を受け入れればマティアスを超えることは可能だ」
「更なる肉体改造って……マティアスみたいに人狼の血を投与するってことか!?」
ハンニバルの表情からは好奇心が溢れていた。マティアスは人狼の血で驚異的な身体能力を手に入れた。
だから自分も人狼の血を投与されればもっと強くなるのではないかと自信が湧いてきたのだ。
「その通りだ。しかも意外なことに、お前とウルリッヒが遺伝子的に近いことが明らかになった。ウルリッヒと遺伝子がかけ離れたマティアスは僅かな量しか人狼の血を投与出来なかった。だがお前なら人狼の血の恩恵をより多く受けられるということだ。お前ならマティアスどころかウルリッヒすらも超えることが出来るかもしれん」
「俺があの化け物よりも強くなれるのか? 確かにそうなれるならそうしたいけどよ……改造手術って精神に大きなダメージを受けるんだろ?」
ハンニバルは改造手術を喜んで引き受けようとしたが、同時に改造手術による精神への弊害のリスクのことを思い出した。
万が一人格が壊れてしまったり、理性を失ってしまった場合のことを考えると、安易に改造手術を引き受けるのは危険だ。
「改造手術で元の人格を保てるかはお前次第だ。精神力が強い人間ならマティアスのように元の人格を保つことが出来る。あと、人狼の血を投与されたからって銀が弱点になることは無いから安心しろ。どうだ、肉体改造で更なる高みを目指してみないか?」
精神が崩壊した改造人間、普通の人間と人格がほぼ変わらない改造人間、ハンニバルは今までに多くの彼らを見てきた。
もしかして自分なら大丈夫なんじゃないかと、心が揺らいできた。
「あぁ、そこまで言うなら改造手術を引き受けるぜ。さらに強くなった俺とマティアスがいれば鬼に金棒だな!」
「よし、決まりだ。では手術室に向かうぞ。お前には最高傑作の人間兵器でい続けてもらわないとな」
ハンニバルは改造手術に承諾し、ハンニバルとオスカーは手術室へ向かう。そして、オスカーによってハンニバルの肉体強化手術が始まったのであった……。
翌日、マティアスの元に司令室から連絡があった。
マティアスは司令室へ向かう前にハンニバルの部屋に寄っていた。だがハンニバルはまだ部屋に帰って来ておらず、携帯電話での連絡もつかない状態だ。
マティアスは1人で司令室へ向かい、ウィリアム司令官と対面した。
「マティアス、よく来てくれた。ハンニバルはどうした?」
「おはようございます、ウィリアム司令官。ハンニバルは昨日からまだ部屋に戻っておらず、おそらくまだ研究所にいるかと思われます」
マティアスはハンニバルのことがとても気がかりだった。研究所から戻っていないにしても、連絡がつかないのは不自然だ。
「実はな、生物兵器研究所から突如SOSの連絡が入ったのだ。研究所を破壊する者が現れた、と。研究所にハンニバルがいるなら、彼がその敵をなんとかしてくれるはずなんだがな……。だが、ハンニバル1人では敵わない強大な敵が現れた可能性も有り得る。マティアスも研究所へ向かってくれ」
「了解しました。必ずハンニバルと一緒に帰ってきます!」
マティアスはウィリアム司令官からの任務を引き受けると、司令室を後にした。
マティアスは自分が懸念していることを、あえてウィリアム司令官に話さなかった。
外部からの強大な敵よりも、もっと深刻な出来事が研究所で起きているのではないかと感じていたからだ。
マティアスは外に出て軍用車に乗り込むと、急いで生物兵器研究所へ向かった。この日の天気は今ひとつで曇り空が広がっている。
マティアスが研究所の中に入ると、建物の壁はあちこちに亀裂が走っており、不穏な空気が漂っている。
マティアスは慎重に通路を進んでいくと、壁や床に血痕が付いているのが見えてきた。
更に先へ進むと、そこには白衣を着た研究員達の無残な死体があちこちに転がっていた。欠損死体や内臓が飛び出した死体ばかりだ。
マティアスは死体を見慣れているとはいえ鳥肌が立っていた。この先にどんな化け物がいるのか、それよりもハンニバルは無事なのか、とても不安だった。
(この光景、どこかで見たような気がするな……)
マティアスはバズーカを構えながらゆっくりと先へ進む。
奥に進むと、なんとそこには大量の返り血を浴びた状態で、研究員達の体をバラバラにしているハンニバルの姿があった。
瞳からは赤い眼光を放っており、その表情は狂気に満ちていた。
その姿はもはやマティアスの知っているハンニバルでは無かった。目の前にいるのは殺戮を楽しんでいる殺人鬼だ。
「嘘……だろ? ハンニバル、目を覚ましてくれ!」
マティアスは気を乱しながら叫ぶ。
(くそっ……私としたことが! あの時、無理やりでもハンニバルを連れて帰っていれば……!)
マティアスはハンニバルを助けられなかったことを後悔し、悲しみに満ちた表情でその場にひざまづいていた。ハンニバルはそんなマティアスに目を向ける。
「よぉ、マティアス。周りを見てみろよ。人間がゴミのようだ。この研究所の奴らは俺が一匹残らずぶっ殺してやったぜ!」
ハンニバルは狂ったように高笑いしている。明らかに正気を失っているが、理性と記憶が残っているだけでも不幸中の幸いだった。
「ハンニバル、なぜこんなことをした!? 私の知っているハンニバルは無抵抗の人間を殺すような奴じゃない!」
「あぁ? 俺は戦争に終止符を打っただけだぞ? この研究所の奴らがいる限り、戦争は起き続けるからな。オスカーの野郎を問い詰めたらあっさり吐きやがったぜ。『テロリストどもにハンバーガー工場を乗っ取らせたのは俺だ』とな。奴から真実を聞き出した後は、二度と研究が出来ない体にしてやったがな!」
「なんだと!? あの事件はオスカーが仕組んだものだったのか!?」
マティアスは先日の事件の真相を聞かされて愕然とする。
ハンバーガー工場乗っ取り事件も、マティアスとハンニバルを戦わせたのも、オスカーが"最高傑作の人間兵器"を作るためのきっかけに過ぎなかった。
「オスカーの野郎も最後の最後で良い仕事をしてくれたぜ。今度こそお前に勝って、俺が最高傑作の人間兵器であることを証明してやる!」
「やめろ、ハンニバル! 私はお前と戦いたくない! これ以上の殺戮はやめてくれ!」
マティアスは今のハンニバルと勝負しても勝ち目がないことを本能的に感じ取っていた。
元々強かったハンニバルが、人狼の血で更に強くなったからだ。
マティアスはどうにかしてハンニバルを説得しようとするが、ハンニバルはどうしてもマティアスとやり合う気だ。
「ここじゃ狭いだろ? 外に出てケリをつけようぜ! 俺は先に行ってるからな」
ハンニバルはそう言い残して研究所を去って行く。かつての親友からの突然の宣戦布告を受けたマティアスは、どうすれば良いのか分からず気が動転していた。
(私はどうすれば良い? ハンニバルは私に勝って満足すれば手を止めてくれるのだろうか? とにかくハンニバルを正気に戻す方法を見つけなければ……!)
マティアスは研究所の外へ出る前に、まずは研究所の中からハンニバルを元に戻す手がかりを探すことにした。
「ハンニバル、お前はマティアスとの勝負に負けた。そのことについてどう思う?」
「確かに俺は負けたが、おかげで俺は更に自分を鍛えようって気になれたぜ」
ハンニバルの答えは意外と前向きだ。しかし、オスカーはその返答に納得いかないようだ。
「お前は最高傑作の人間兵器だった。だが、最近改造人間になったばかりのマティアスにその座を奪われてしまったんだぞ。悔しいと思わないのか?」
「そりゃあちょっとは悔しいが……。だから俺はその悔しさをバネに自分を鍛えるって言ってるじゃねーか」
「いや、今のお前ではどうあがいてもマティアスを超えることは出来ない」
悔しさを見せつつも前向きにいこうとするハンニバルを、オスカーは真っ向から否定した。オスカーの表情からは不敵な笑みが浮かび上がっている。
「だが、お前が更なる肉体改造を受け入れればマティアスを超えることは可能だ」
「更なる肉体改造って……マティアスみたいに人狼の血を投与するってことか!?」
ハンニバルの表情からは好奇心が溢れていた。マティアスは人狼の血で驚異的な身体能力を手に入れた。
だから自分も人狼の血を投与されればもっと強くなるのではないかと自信が湧いてきたのだ。
「その通りだ。しかも意外なことに、お前とウルリッヒが遺伝子的に近いことが明らかになった。ウルリッヒと遺伝子がかけ離れたマティアスは僅かな量しか人狼の血を投与出来なかった。だがお前なら人狼の血の恩恵をより多く受けられるということだ。お前ならマティアスどころかウルリッヒすらも超えることが出来るかもしれん」
「俺があの化け物よりも強くなれるのか? 確かにそうなれるならそうしたいけどよ……改造手術って精神に大きなダメージを受けるんだろ?」
ハンニバルは改造手術を喜んで引き受けようとしたが、同時に改造手術による精神への弊害のリスクのことを思い出した。
万が一人格が壊れてしまったり、理性を失ってしまった場合のことを考えると、安易に改造手術を引き受けるのは危険だ。
「改造手術で元の人格を保てるかはお前次第だ。精神力が強い人間ならマティアスのように元の人格を保つことが出来る。あと、人狼の血を投与されたからって銀が弱点になることは無いから安心しろ。どうだ、肉体改造で更なる高みを目指してみないか?」
精神が崩壊した改造人間、普通の人間と人格がほぼ変わらない改造人間、ハンニバルは今までに多くの彼らを見てきた。
もしかして自分なら大丈夫なんじゃないかと、心が揺らいできた。
「あぁ、そこまで言うなら改造手術を引き受けるぜ。さらに強くなった俺とマティアスがいれば鬼に金棒だな!」
「よし、決まりだ。では手術室に向かうぞ。お前には最高傑作の人間兵器でい続けてもらわないとな」
ハンニバルは改造手術に承諾し、ハンニバルとオスカーは手術室へ向かう。そして、オスカーによってハンニバルの肉体強化手術が始まったのであった……。
翌日、マティアスの元に司令室から連絡があった。
マティアスは司令室へ向かう前にハンニバルの部屋に寄っていた。だがハンニバルはまだ部屋に帰って来ておらず、携帯電話での連絡もつかない状態だ。
マティアスは1人で司令室へ向かい、ウィリアム司令官と対面した。
「マティアス、よく来てくれた。ハンニバルはどうした?」
「おはようございます、ウィリアム司令官。ハンニバルは昨日からまだ部屋に戻っておらず、おそらくまだ研究所にいるかと思われます」
マティアスはハンニバルのことがとても気がかりだった。研究所から戻っていないにしても、連絡がつかないのは不自然だ。
「実はな、生物兵器研究所から突如SOSの連絡が入ったのだ。研究所を破壊する者が現れた、と。研究所にハンニバルがいるなら、彼がその敵をなんとかしてくれるはずなんだがな……。だが、ハンニバル1人では敵わない強大な敵が現れた可能性も有り得る。マティアスも研究所へ向かってくれ」
「了解しました。必ずハンニバルと一緒に帰ってきます!」
マティアスはウィリアム司令官からの任務を引き受けると、司令室を後にした。
マティアスは自分が懸念していることを、あえてウィリアム司令官に話さなかった。
外部からの強大な敵よりも、もっと深刻な出来事が研究所で起きているのではないかと感じていたからだ。
マティアスは外に出て軍用車に乗り込むと、急いで生物兵器研究所へ向かった。この日の天気は今ひとつで曇り空が広がっている。
マティアスが研究所の中に入ると、建物の壁はあちこちに亀裂が走っており、不穏な空気が漂っている。
マティアスは慎重に通路を進んでいくと、壁や床に血痕が付いているのが見えてきた。
更に先へ進むと、そこには白衣を着た研究員達の無残な死体があちこちに転がっていた。欠損死体や内臓が飛び出した死体ばかりだ。
マティアスは死体を見慣れているとはいえ鳥肌が立っていた。この先にどんな化け物がいるのか、それよりもハンニバルは無事なのか、とても不安だった。
(この光景、どこかで見たような気がするな……)
マティアスはバズーカを構えながらゆっくりと先へ進む。
奥に進むと、なんとそこには大量の返り血を浴びた状態で、研究員達の体をバラバラにしているハンニバルの姿があった。
瞳からは赤い眼光を放っており、その表情は狂気に満ちていた。
その姿はもはやマティアスの知っているハンニバルでは無かった。目の前にいるのは殺戮を楽しんでいる殺人鬼だ。
「嘘……だろ? ハンニバル、目を覚ましてくれ!」
マティアスは気を乱しながら叫ぶ。
(くそっ……私としたことが! あの時、無理やりでもハンニバルを連れて帰っていれば……!)
マティアスはハンニバルを助けられなかったことを後悔し、悲しみに満ちた表情でその場にひざまづいていた。ハンニバルはそんなマティアスに目を向ける。
「よぉ、マティアス。周りを見てみろよ。人間がゴミのようだ。この研究所の奴らは俺が一匹残らずぶっ殺してやったぜ!」
ハンニバルは狂ったように高笑いしている。明らかに正気を失っているが、理性と記憶が残っているだけでも不幸中の幸いだった。
「ハンニバル、なぜこんなことをした!? 私の知っているハンニバルは無抵抗の人間を殺すような奴じゃない!」
「あぁ? 俺は戦争に終止符を打っただけだぞ? この研究所の奴らがいる限り、戦争は起き続けるからな。オスカーの野郎を問い詰めたらあっさり吐きやがったぜ。『テロリストどもにハンバーガー工場を乗っ取らせたのは俺だ』とな。奴から真実を聞き出した後は、二度と研究が出来ない体にしてやったがな!」
「なんだと!? あの事件はオスカーが仕組んだものだったのか!?」
マティアスは先日の事件の真相を聞かされて愕然とする。
ハンバーガー工場乗っ取り事件も、マティアスとハンニバルを戦わせたのも、オスカーが"最高傑作の人間兵器"を作るためのきっかけに過ぎなかった。
「オスカーの野郎も最後の最後で良い仕事をしてくれたぜ。今度こそお前に勝って、俺が最高傑作の人間兵器であることを証明してやる!」
「やめろ、ハンニバル! 私はお前と戦いたくない! これ以上の殺戮はやめてくれ!」
マティアスは今のハンニバルと勝負しても勝ち目がないことを本能的に感じ取っていた。
元々強かったハンニバルが、人狼の血で更に強くなったからだ。
マティアスはどうにかしてハンニバルを説得しようとするが、ハンニバルはどうしてもマティアスとやり合う気だ。
「ここじゃ狭いだろ? 外に出てケリをつけようぜ! 俺は先に行ってるからな」
ハンニバルはそう言い残して研究所を去って行く。かつての親友からの突然の宣戦布告を受けたマティアスは、どうすれば良いのか分からず気が動転していた。
(私はどうすれば良い? ハンニバルは私に勝って満足すれば手を止めてくれるのだろうか? とにかくハンニバルを正気に戻す方法を見つけなければ……!)
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