ワイルド・ソルジャー

アサシン工房

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第3章 研究所の陰謀

第32話 決戦のワイルド・ソルジャー 前編

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 マティアスが研究所の外に出ると、広々とした場所でハンニバルが待ち受けていた。

「ハンニバル、決着を付けに来たぞ」
「やっと来たか、マティアス。あまりにも来るのが遅ぇから、俺にビビって建物の中に籠ってるんじゃないかと思ってたところだぜ」
「待たせて悪かったな。探し物と後始末をしていたんだ。それと、戦う前に聞きたいことがある。お前は私を倒せば満足なのか? 仮に私を倒せたら、その後はどうするつもりなんだ?」

 マティアスはハンニバルと冷静に向き合おうとする。
 ハンニバルが豹変してしまったのも、元を辿れば先日のハンニバルとの手合わせで彼に勝ってしまった自分のせいであると、マティアスは責任を感じていた。
 マティアスは自分が犠牲になることでハンニバルの暴走が止まるならそれで構わないと思っていた。

「俺はお前をぶっ倒した後は、あの司令官と、そして研究所と深く関わってる奴らをぶっ殺しに行くぜ。ついでに俺に逆らう奴らもな。奴らをぶっ殺した後は俺が軍のトップになってやる!」

 ハンニバルは今までお世話になっていたウィリアム司令官までも殺そうとしていた。それどころか、力づくで軍のトップの座を乗っ取ろうとしている。
 正義感が強く、軍の為に尽くしてきたハンニバルはもういない。彼は性格も思考も変わり果ててしまっていたのだ。
 
「ハンニバル、お前なら将来の軍のトップとしてふさわしい男だと私は思っていた。……だが、それはであればだ。今のお前では無い!」

 マティアスは変わり果てたハンニバルに失望し、やはりここで決着をつけなければならないと決心する。
 肉体強化を施された今のハンニバルに勝てる自信は無いが、彼を止められるのは自分しかいないと責任を感じていた。
 今ここでハンニバルを止めなければ、更に大量の犠牲者を出してしまうことになるだろう。

「いい加減うざったくなってきたぜ。マティアス、そろそろケリを付けようぜ!」
「来い! 私の手で引導を渡してやる!」

 マティアスとハンニバルは互いにバズーカを構え、戦闘体勢に入る。ついに最高傑作の人間兵器同士の戦いが幕を上げた。
 ハンニバルはマティアス目掛けて炎のレーザーを放った。一方、マティアスは氷のレーザーを放って対抗する。
 威力はハンニバルが扱っているバズーカの方が上だが、ハンニバルは炎属性の砲撃しか扱うことが出来ない。
 マティアスはそれを分かった上で、氷属性のレーザーでハンニバルの砲撃を受け止める。
 炎と氷のレーザーがぶつかり合うと、互いの目の前に氷の壁が出来上がった。互いに前方が良く見えず、相手の位置が分からない状態だ。
 その時、ハンニバルはバズーカから砲撃を放ったまま、マティアスの元へ走って行く。
 マティアスは前方の視界不良のせいでハンニバルの接近に気づかなかったが、氷の壁が少しずつ自分の方へ押し出されていることは把握していた。

(やはり威力はあっちが上か? それとも……)

 マティアスは少しずつ後退しながら氷のレーザーを撃ち続ける。
 ハンニバルがマティアスに接近したその時、ハンニバルは前方の氷の壁をパンチでぶち破り、マティアスに向かって素早く飛び蹴りをかましてきた。

(早い……! これも肉体改造された影響か!?)

 ハンニバルは前回のマティアスとの一騎打ちの時と比べて大幅にスピードが上がっていた。
 攻撃を回避出来ないと判断したマティアスは、左腕でハンニバルの蹴りを受け止める。
 攻撃をガードすると同時にマティアスの腕からは骨が砕ける音が聞こえ、彼は強く吹っ飛んで背後にある研究所に激突した。その衝撃で建物は少しずつ崩壊しかけていく。

「これが生まれ変わった俺の力だ! いくらお前でも腕が壊れた状態じゃ戦えねぇだろ?」
(まずいな……。腕が回復するまでは回避に専念しよう)

 左腕を骨折したマティアスは改造人間としての再生力に委ねつつ、すぐに立ち上がって相手の出方をうかがう。
 ハンニバルがマティアスに向けて炎のレーザーで追撃を仕掛けると、マティアスはそれを避け、炎のレーザーは後ろにある研究所に命中した。
 研究所は瞬く間に火の海となり、建物は崩壊してガレキの山となった。
 マティアスは左腕が回復するまでの間、炎とガレキの山の中に身を潜めることにした。ハンニバルは少しずつガレキの山に近づいて行く。

「隠れてたって無駄だぜ。そのガレキごと一掃してやるからよ」

 ハンニバルは再び炎のレーザーで周辺を一掃するつもりだ。その時、ようやくマティアスの左腕が回復した。
 マティアスはガレキの裏から姿を現し、まだこちらに気づいていないハンニバルに向けて氷のレーザーを放つ。
 氷のレーザーはハンニバルに命中し、彼は腕でガードしつつも痛そうな顔をしている。

「ちっ……コソコソしやがって!」

 さすがにハンバーガー工場のテロリストのように氷漬けにはならなかったが、ダメージはそこそこ通っているようだ。
 ハンニバルは急いで暖を取るように燃え盛る炎の中に入っていく。
 ハンニバルは過去の戦いを見ても分かる通り、炎に強い男だ。炎の中に入ってもダメージはほぼ無かった。
 そこでマティアスは気づいた。ハンニバルは炎には強いが、冷気に弱いのではないかということを。

「……ったく、複数の属性を使えるというのも厄介なもんだな。次は派手に遊んでやるぜ!」

 ハンニバルはガレキに手を当てると、雄叫びを上げながら巨大なガレキを片手で持ち上げた。そのガレキの大きさは大型トラックをも超えるほどだ。
 ハンニバルはその巨大なガレキをマティアス目掛けてぶん投げた。

「この馬鹿力め。だが、強くなったのはお前だけじゃないぞ」

 マティアスは自分に向かって飛んできた巨大なガレキを難無く蹴り返した。もはや2人とも化け物と言える強さだ。
 巨大なガレキがハンニバルのところへ跳ね返って来た瞬間、ハンニバルは前方にジャンプしながら飛び蹴りでガレキを粉砕した。
 ハンニバルはジャンプしながらそのままマティアスに突っ込み、パンチを繰り出した。マティアスもすぐにパンチで対抗し、互いの拳が激しくぶつかり合う。
 その衝撃で互いの拳に大きなダメージが入ったが、パワー差がある分、受けたダメージはマティアスの方が大きいようだ。
 それでもマティアスは拳が砕けそうになっても怯むことは無く、直後に素早い回し蹴りでハンニバルの顔面を攻撃する。
 回し蹴りが見事ハンニバルの顔面に命中したかと思いきや、ハンニバルはマティアスの足首を口でくわえて受け止めた。
 この時、マティアスはもう一つ、肉体改造後のハンニバルの体に起こった変化に気づく。
 マティアスの足首に食い込んでいるのは、もはや人間の歯では無く、猛獣のように鋭い牙であることを。
 マティアスよりも人狼ウェアウルフの血を多めに投与されたハンニバルは、身体的特徴も人狼ウェアウルフに近づいていたのだ。

「やっと捕まえたぜ。近接戦で今の俺に勝てるわけねーだろ? その足を噛み砕いてやるぜ!」

 ハンニバルはマティアスの足首を口でくわえながら言った。この時、マティアスは大きな失敗をしてしまったことに気づく。
 ハンニバルは持ち前の怪力を駆使した近接戦闘を得意とする男だ。その上、今のハンニバルは肉体強化の影響で以前よりも遥かに強くなっている。
 そんなハンニバルに近接戦闘を持ち込むのは自殺行為と言えるものだった。

(私としたことが……! ここは一刻も早く振りほどかなければ!)

 マティアスはこの状況を打破する方法を急いで考えた。ただ闇雲に殴って抵抗しても返り討ちに合うのは明らかだ。
 ハンニバルは噛む力を強め、鋭い牙でマティアスの足を噛み砕こうとした。マティアスの片足からは血が流れ、激痛が走る。
 このまま足を破壊されてしまったら、ハンニバルの拘束から抜け出すことが出来なくなってしまうだろう。
 マティアスは痛めた拳に鞭打ちつつ、急いでバズーカを構え、至近距離で氷のレーザーをハンニバルに放つ。

「ぐああああっ!」

 この距離だと砲撃の威力が増したのか、ハンニバルは悲鳴を上げてマティアスの足を放した。
 マティアスは自由に動ける身になったところで、ようやく対ハンニバルの正しい立ち回りをひらめいた。
 ハンニバルは砲撃戦になっても幾度となく近接戦闘に持ち込んでいた。
 なぜならハンニバルよりもスピードと武器の扱いに長けており、複数の属性の砲撃を使い分けられるマティアスの方が砲撃戦では有利だと、ハンニバル自身も分かっているからだ。
 ならば、あえて近接戦闘に持ち込ませて、相手の攻撃を避けつつ砲撃で反撃する戦い方が有効なのではないかと、マティアスは考えた。
 だが、今のマティアスは拳の傷は回復したものの、片足は負傷して血を流している状態だ。足の傷が回復するまでは思うように動けない。
 そして、傷ついた体を再生する能力を持っているのはハンニバルも同じだ。むしろハンニバルの方が再生能力が高いと言える。
 この戦闘でハンニバルに勝つには、彼の再生能力を上回るダメージを与え続けなければならない。マティアスには攻撃の手を止める選択肢は無かった。
 マティアスは怯んでいるハンニバルにひたすら氷のレーザーを撃ち続ける。
 すると、ハンニバルは再度燃え盛る炎の中に逃げていき、炎のレーザーを放つ。
 それはマティアスに向けてでは無く、周辺を炎で覆いつくす為の砲撃だった。
 研究所周辺どころか、更に広範囲が炎で覆いつくされ、辺りは凄まじい熱気が漂っている。

「俺は寒いのが大嫌いなんでな。これくらい温かい方が戦いやすいだろ? 第2ラウンドと行こうぜ!」

 ハンニバルは自分に有利なフィールドを作り上げたところで、まるで勝利を確信したかのように高笑いしていた。
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