36 / 44
第4章 取り戻した平穏
第34話 共同生活の始まり
しおりを挟む
マティアスはハンニバルを連れて軍事基地に帰った後、一旦ハンニバルを彼の部屋に移動させてから司令室へ向かった。
正気に戻って間もないハンニバルは精神的に不安定で、休息が必要だ。
マティアスは1人でウィリアム司令官と対面し、任務の報告をする。
ハンニバルが無茶な肉体改造を施されて暴走してしまったこと、オスカーが先日のハンバーガー工場乗っ取り事件とハンニバルの暴走の元凶であることを全て話した。
「そうか……辛い戦いだったな。私がもっと早くオスカーの野望に気づいていれば、ハンニバルはああならずに済んだのに……」
「ウィリアム司令官、あなたは何も悪くありません。どうか、ハンニバルを軍から追放しないで下さい! お願いします!」
マティアスは必死にウィリアム司令官に訴えかける。もしもハンニバルが軍から追放されるならば、自分も軍を抜ける覚悟をしていた。
「心配することは無い。ハンニバルは私にとっても大切な仲間だ。今回の生物兵器研究所襲撃事件は、オスカーが作り出した巨大生物兵器によって引き起こされたことにしておこう」
「なるほど、それならハンニバルの名誉も守られるということですね」
「その通りだ。だが、話によるとハンニバルは精神的に不安定なようだな? 諸君に数ヶ月の休暇を与えるから、しばらくの間ハンニバルの面倒を見てくれないか」
「えぇ、ハンニバルが復帰出来るように、私が責任をもって面倒を見ます」
マティアスはウィリアム司令官からハンニバルの部屋の合鍵をもらい、司令室を後にした。どうやらハンニバルに付きっきりで面倒を見ろということらしい。
マティアスはハンニバルの部屋に向かう前に、まずは自室に戻った。
戦いで血塗れになった体を洗い流す為に入浴と着替えを済ませた後、隣のハンニバルの部屋を訪れた。
マティアスはハンニバルの部屋の扉をノックしたが、返事は無い。鍵も掛かっている。
(合鍵をもらったのは良いが、本人の許可無く勝手に部屋に入るのも気が引けるな……。だが、ウィリアム司令官に命じられたことなら仕方あるまい)
マティアスは合鍵を使ってハンニバルの部屋に入った。部屋に明かりはついているが、ハンニバルの姿が見当たらない。
そう思っていたその時、ハンニバルが浴室から上半身裸の下着姿で現れた。ハンニバルもちょうど風呂上がりだったようだ。
「マティアス!? 何でいつのまに俺の部屋に入ってんだ!?」
「勝手に入ってすまんな。実はウィリアム司令官からこの部屋の合鍵を渡されてな。私達に数ヶ月の休暇を与える代わりに、お前の面倒を見て欲しいと言われたんだ」
「何だ、そういうことかよ。俺のことは心配いらねぇってのに、あの司令官も世話焼きだなぁ。……でも、お前と一緒にいる時間が増えるなら嬉しいぜ」
ハンニバルは事情を知ると、照れながら返事をした。数か月間の休暇をマティアスと一緒に過ごせるのが何よりも嬉しかったのだ。
ハンニバルは私服に着替えると、キッチンへ向かって料理の準備をし始める。
「今日の夕飯は俺がご馳走してやるぜ。マティアスには迷惑かけちまったからな。お前はそこでゆっくり休んでいてくれ」
「良いのか? ではお言葉に甘えてゆっくりさせてもらうよ」
(今のハンニバルはだいぶ精神的に落ち着いてきたみたいだな。わざわざ私が数ヶ月も付きっきりで面倒を見る必要は無さそうだ)
マティアスはハンニバルの様子を見て安心しながらソファの上で横になる。
ハンニバルとの戦いで疲労が溜まっていたせいか、マティアスはいつのまにか眠りについていた。
「マティアスの奴、寝ちまったな。俺も疲れたから、飯食ったらさっさと寝るか」
ハンニバルは眠気を我慢しつつ、冷蔵庫から食材を取り出す。目の前の生肉を包丁でカットし、フライパンで焼いていた。
実はハンニバルは料理が得意なのだ。特に彼が作る肉料理は絶品で、休暇中はマティアスを部屋に招いて料理を振る舞うことが多かった。
ハンニバルはステーキと炒め野菜を添えた料理2人分をテーブルに並べると、寝ているマティアスを起こしにいった。
「マティアス、飯が出来たぞ。起きろー」
「……ん、もう出来たのか」
ハンニバルがマティアスの体をさすって起こすと、マティアスは眠そうな表情をしながらも美味しそうな匂いに釣られて起き上がる。
2人とも激戦の後でとてもお腹を空かせていた。2人は席に着くと、目の前の肉料理を美味しそうに食べ始める。
料理は少し多めに作ったつもりだが、2人ともすぐに平らげてしまった。
「ご馳走様。やはりハンニバルの料理は絶品だな」
「そうか? そう言ってくれると嬉しいぜ! オスカーの死体でも持ち帰って、人肉料理も作ってみたかったなぁ!」
「いや、それは勘弁してくれ! 人肉なんて食べたら体に悪いぞ! お前はともかく、私はそっちの趣味は無い!」
「あー、分かったよ! お前がそこまで言うなら人肉は控えるぜ」
マティアスは慌てた様子で人肉料理を拒否した。
実はハンニバルは完全に元通りの人格に戻ったわけでは無い。殺戮衝動は消えたが、ウルリッヒと同じ人肉嗜食は引き継いだままだ。
マティアスの前では落ち着いているように見えるが、凶暴性も肉体改造前と比べて少なからず増している。
ハンニバルがうっかり他の人間に危害を加えないように、マティアスによる監視が必要な状態だ。
食事を終え、マティアスが自室に帰る準備をすると、ハンニバルはマティアスを引き留めた。
「マティアス、今日はずっとここに居てくれねぇか?」
「急にどうしたんだ? ハンニバル」
「いや、その……たまには一緒に寝るのも良いだろ?」
「なっ……!?」
突然のハンニバルの要求にマティアスは戸惑いを見せる。
実はハンニバルは人狼の血の影響に加え、マティアスが彼に打った注射で別の副作用を引き起こしてしまっていた。
その影響でハンニバルは猫のように甘えん坊になってしまったのだ。
ハンニバルに注入した薬は所詮試作品だったので、何があっても不思議では無かった。
「なんだよ、その目は。お前だってさっき俺が着替えてる時チラチラ見てただろ」
「そ、それは……お前が以前よりも随分筋肉がついたなと思って見ていただけだ。……まぁ、お前が望むなら私はいくらでも付き合ってやるぞ」
「本当か!? やったぜ!」
2人は歯磨きをして寝る準備を済ませると、ベッドに一緒に寝転んだ。
ハンニバルの部屋のベッドはとても大きく、通常のダブルベッド以上のサイズはあった。それでも大柄な男2人が寝るには少し狭いが。
2人は戦いの疲れもあって、ベッドに入って早々眠りについた。こうしてハンニバルとの共同生活が始まったのであった。
正気に戻って間もないハンニバルは精神的に不安定で、休息が必要だ。
マティアスは1人でウィリアム司令官と対面し、任務の報告をする。
ハンニバルが無茶な肉体改造を施されて暴走してしまったこと、オスカーが先日のハンバーガー工場乗っ取り事件とハンニバルの暴走の元凶であることを全て話した。
「そうか……辛い戦いだったな。私がもっと早くオスカーの野望に気づいていれば、ハンニバルはああならずに済んだのに……」
「ウィリアム司令官、あなたは何も悪くありません。どうか、ハンニバルを軍から追放しないで下さい! お願いします!」
マティアスは必死にウィリアム司令官に訴えかける。もしもハンニバルが軍から追放されるならば、自分も軍を抜ける覚悟をしていた。
「心配することは無い。ハンニバルは私にとっても大切な仲間だ。今回の生物兵器研究所襲撃事件は、オスカーが作り出した巨大生物兵器によって引き起こされたことにしておこう」
「なるほど、それならハンニバルの名誉も守られるということですね」
「その通りだ。だが、話によるとハンニバルは精神的に不安定なようだな? 諸君に数ヶ月の休暇を与えるから、しばらくの間ハンニバルの面倒を見てくれないか」
「えぇ、ハンニバルが復帰出来るように、私が責任をもって面倒を見ます」
マティアスはウィリアム司令官からハンニバルの部屋の合鍵をもらい、司令室を後にした。どうやらハンニバルに付きっきりで面倒を見ろということらしい。
マティアスはハンニバルの部屋に向かう前に、まずは自室に戻った。
戦いで血塗れになった体を洗い流す為に入浴と着替えを済ませた後、隣のハンニバルの部屋を訪れた。
マティアスはハンニバルの部屋の扉をノックしたが、返事は無い。鍵も掛かっている。
(合鍵をもらったのは良いが、本人の許可無く勝手に部屋に入るのも気が引けるな……。だが、ウィリアム司令官に命じられたことなら仕方あるまい)
マティアスは合鍵を使ってハンニバルの部屋に入った。部屋に明かりはついているが、ハンニバルの姿が見当たらない。
そう思っていたその時、ハンニバルが浴室から上半身裸の下着姿で現れた。ハンニバルもちょうど風呂上がりだったようだ。
「マティアス!? 何でいつのまに俺の部屋に入ってんだ!?」
「勝手に入ってすまんな。実はウィリアム司令官からこの部屋の合鍵を渡されてな。私達に数ヶ月の休暇を与える代わりに、お前の面倒を見て欲しいと言われたんだ」
「何だ、そういうことかよ。俺のことは心配いらねぇってのに、あの司令官も世話焼きだなぁ。……でも、お前と一緒にいる時間が増えるなら嬉しいぜ」
ハンニバルは事情を知ると、照れながら返事をした。数か月間の休暇をマティアスと一緒に過ごせるのが何よりも嬉しかったのだ。
ハンニバルは私服に着替えると、キッチンへ向かって料理の準備をし始める。
「今日の夕飯は俺がご馳走してやるぜ。マティアスには迷惑かけちまったからな。お前はそこでゆっくり休んでいてくれ」
「良いのか? ではお言葉に甘えてゆっくりさせてもらうよ」
(今のハンニバルはだいぶ精神的に落ち着いてきたみたいだな。わざわざ私が数ヶ月も付きっきりで面倒を見る必要は無さそうだ)
マティアスはハンニバルの様子を見て安心しながらソファの上で横になる。
ハンニバルとの戦いで疲労が溜まっていたせいか、マティアスはいつのまにか眠りについていた。
「マティアスの奴、寝ちまったな。俺も疲れたから、飯食ったらさっさと寝るか」
ハンニバルは眠気を我慢しつつ、冷蔵庫から食材を取り出す。目の前の生肉を包丁でカットし、フライパンで焼いていた。
実はハンニバルは料理が得意なのだ。特に彼が作る肉料理は絶品で、休暇中はマティアスを部屋に招いて料理を振る舞うことが多かった。
ハンニバルはステーキと炒め野菜を添えた料理2人分をテーブルに並べると、寝ているマティアスを起こしにいった。
「マティアス、飯が出来たぞ。起きろー」
「……ん、もう出来たのか」
ハンニバルがマティアスの体をさすって起こすと、マティアスは眠そうな表情をしながらも美味しそうな匂いに釣られて起き上がる。
2人とも激戦の後でとてもお腹を空かせていた。2人は席に着くと、目の前の肉料理を美味しそうに食べ始める。
料理は少し多めに作ったつもりだが、2人ともすぐに平らげてしまった。
「ご馳走様。やはりハンニバルの料理は絶品だな」
「そうか? そう言ってくれると嬉しいぜ! オスカーの死体でも持ち帰って、人肉料理も作ってみたかったなぁ!」
「いや、それは勘弁してくれ! 人肉なんて食べたら体に悪いぞ! お前はともかく、私はそっちの趣味は無い!」
「あー、分かったよ! お前がそこまで言うなら人肉は控えるぜ」
マティアスは慌てた様子で人肉料理を拒否した。
実はハンニバルは完全に元通りの人格に戻ったわけでは無い。殺戮衝動は消えたが、ウルリッヒと同じ人肉嗜食は引き継いだままだ。
マティアスの前では落ち着いているように見えるが、凶暴性も肉体改造前と比べて少なからず増している。
ハンニバルがうっかり他の人間に危害を加えないように、マティアスによる監視が必要な状態だ。
食事を終え、マティアスが自室に帰る準備をすると、ハンニバルはマティアスを引き留めた。
「マティアス、今日はずっとここに居てくれねぇか?」
「急にどうしたんだ? ハンニバル」
「いや、その……たまには一緒に寝るのも良いだろ?」
「なっ……!?」
突然のハンニバルの要求にマティアスは戸惑いを見せる。
実はハンニバルは人狼の血の影響に加え、マティアスが彼に打った注射で別の副作用を引き起こしてしまっていた。
その影響でハンニバルは猫のように甘えん坊になってしまったのだ。
ハンニバルに注入した薬は所詮試作品だったので、何があっても不思議では無かった。
「なんだよ、その目は。お前だってさっき俺が着替えてる時チラチラ見てただろ」
「そ、それは……お前が以前よりも随分筋肉がついたなと思って見ていただけだ。……まぁ、お前が望むなら私はいくらでも付き合ってやるぞ」
「本当か!? やったぜ!」
2人は歯磨きをして寝る準備を済ませると、ベッドに一緒に寝転んだ。
ハンニバルの部屋のベッドはとても大きく、通常のダブルベッド以上のサイズはあった。それでも大柄な男2人が寝るには少し狭いが。
2人は戦いの疲れもあって、ベッドに入って早々眠りについた。こうしてハンニバルとの共同生活が始まったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる