異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

夏柿シン

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3巻

3-2

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 ◆


「フィオナさんが話をしたいと言っている」とコテツから俺、ライルに【念話】が入った。
 どうやら冥府の入口について何か知っている様子らしい。
 コテツが「俺は余計なことは言ってないっすよ」と念を押してくるが、今はそんなことよりも情報が欲しい。
 正直、これからどう動くべきか決めあぐねていたところだ。
 俺たちはエレインのスキルでトレックへと向かうことにした。彼女のスキル――【みずうみ乙女おとめ】は聖獣のほこら付近にある湖と同じ水源の場所に転移することができる。今いる王都の屋敷とトレックの実家には、湖の水をアサギのユニークスキル【絶対零度ぜったいれいど】でこおらせたクリスタルが置いてあるので、トレックまで一瞬で転移することができた。
 俺はアサギたちには実家で待機するよう指示を出し、アモンとノクスを連れて急いでフィオナさんの家に向かった。

「あれ、ライルじゃないか? うちに何か用か?」

 扉をノックしようとしたところ、ちょうど帰ってきたらしいフィオナさんの父、ザックさんに声をかけられた。
 すると窓からフィオナさんが顔を出す。

「お話があると私がお呼びしたんです。お父様も中に入ってください」

 フィオナさんに言われて、家の中に入る。さすがによそ様の家なので、アモンたちには外で待っていてもらうことにした。
 テーブルにはすでにお茶が用意されていて、俺はうながされるままフィオナさんの対面に着座した。
 ザックさんは状況がみ込めていないようで、怪訝けげんな顔をしながらフィオナさんの隣に腰を下ろす。

「一応、ノクスの力で防音の結界を張ってもらっています」

 俺がそう言うと、フィオナさんは柔らかく微笑んだ。

「ありがとうございます。私としても人に聞かれない方がいいお話ですので」

 フィオナさんはお茶を一口飲むと、本題を切り出した。


「まずはじめに、今まで秘密にしていた私の出自についてお話しさせていただきます」
「ちょっと待て!」

 ザックさんが慌てて口を開いた。

「なんで急にそんな話になっている。お前のことを気軽に誰かに話せば――」
「マルコさんが何者かに捕まっているそうです。そして冥府の入口に来るように、ライル様は言われている。でもその場所がわからない。間違いないですか?」

 目配めくばせしてくるフィオナさんに、俺は頷いた。

「えぇ、その通りです」
「まさか! なんであんな場所に……」

 やはり二人は冥府の入口について知っているようだ。
 俺は慌てているザックさんへ話しかける。

「詳しいことはわかりません。でも、もしかしたらマルコさんは俺の友人だから狙われたのかもしれない。俺が巻き込んでしまったのなら、なんとしても助けたいんです」
「いや、だが……」

 フィオナさんが父親に顔を向けた。

「私たちはライル様に救われました。それにマルコさんは、トレックに来た際にいつも私たちを気にかけてくださいます。ですから私はお力になりたいのです」

 ザックさんはその言葉に応えられず固まっている。
 フィオナさんが続けて言った。

「それに時が来れば、聖獣の主人たるライル様には話さなければいけないと思っていました」
「聖獣の主人だって! 本当なのか!?」

 ザックさんが驚いて立ち上がった。いや、驚いているのは俺も同じだ。なぜ彼女がそのことを知っているんだ?

「なぜ私がそれを知っているのか、私が何者なのか、そのことをご説明しなければいけません。よろしいですね? お父様」
「あ、あぁ……」

 ザックさんは動揺したまま、再び椅子に体を預けた。

「まず、私は【読心どくしん】というスキルを所有しております。スキル名の通り相手の心が読める……あまり人からは好まれない力です。このスキルによって、ライル様が聖獣の主人であることを知りました」

 言いながら彼女は少しだけうつむいた。きっとスキルのせいで嫌な思いをしたことがあるのだろう。

「スキルを使ったとしても、全ての人の心が読めるわけではありません。相手がこちらに強い警戒心を持っていたり、目を合わせてもらえなかったりする場合は読めず、力のある方――単純な強さや魔力量ではなく、精神力や胆力たんりょくの強い方の心を読むことも難しいです。それに読めると言ってもあくまでも表層の部分だけです」

 確かに昔からフィオナさんは、こちらが言った覚えのない話を知っていることがあった。
 それがスキルの力だというのなら納得がいく。

「ライル様に関しては心が読めたのは出会ったばかりの数ヵ月だけで、それ以降はほとんど読めなくなっています。ですが、ご心配であれば目を伏せてお話ししていただいて構いません」
「このままでいいです」

 フィオナさんは俺が聖獣の主人だと知っていても、その事実を誰にも明かさなかった。それなら信頼できる。
 何より今フィオナさんを信用しなければ、マルコさん救出の手掛かりを失ってしまう。 

「ありがとうございます。やはりライル様はお優しいですね」

 俺の答えに、ずっと硬かったフィオナさんの表情が少しやわらいだ。
 だがそれはほんの一瞬で、彼女はまた真剣な面持おももちになった。

「私の真の名はフィオナ・フォン・チマージル。かつてはチマージルの王位継承者に名をつらねる者の一人でした」
「お姫様ってことですか?」
「立場的にはそうかもしれませんが、私の継承順位は下位ですから。それにもう死んだことになっているので、あくまでも過去の立場です」
「でも、お二人とも王族であることには変わりないですよね?」

 他国のことはよくわからないが、いくら死んだことになっていても一般人とはわけが違うだろう。

「俺は王族でもなんでもないよ。ただの魔法師団の元団長だ。チマージルは代々女性が君主になっていてな、女王は優秀な子孫を残すために力のある者と子をなすんだ。俺はその中の一人に選ばれたってわけだ」
「そして生まれたのがフィオナさんということですね?」

 ザックさんは「あぁ」とそっけなく言って、お茶をすすった。

「私とお父様との話は長くなりますので、またの機会にさせてください。冥府についても説明すべきことが多いので」

 どうやら場所だけ聞いて行ってきます、という感じではないようだ。

「チマージルは、ここバーシーヌと国境を接し、細長く伸びた形をしていることはご存じですか?」
「えぇ。王立図書館で地図を見たことがあります。あまり詳細は書かれていませんでしたが」

 この世界には人工衛星なんてないんだから、当たり前と言えば当たり前だ。

「国の形がイメージできれば十分です。チマージルの南端からほど近い場所に不死鳥ふしちょうしまと呼ばれる火山島があります。冥府と呼ばれる場所はその地下深くにあります」
「南の火山……! それって瘴気封印の!?」

 俺はその場所に覚えがあった。

「はい。冥府とはこの国でいう混沌こんとんもり。太古に瘴気が封印された地の呼び名です」

 初めてマテウスさんに瘴気の話を聞いた時、世界にはバーシーヌにある混沌こんとんもり以外にあと三ヵ所、瘴気を封印している場所があると知った。
 北の凍土とうど、西の海溝かいこう、南の火山。
 機密情報と言われていたが、実はざっくりとした場所を教わっていた。その一つがチマージルにあったとは。
 でも、だとしたらバーシーヌはどうやって閉鎖した国の情報を得ているというのだろうか……いや、今はそんなことを考えている場合ではないな。
 まずは冥府の入口の場所を把握し、どうやって向かうかを決めなくては。

「冥府の入口は不死鳥の島内にあるってことでいいですか?」
「はい。人が足を踏み入れることのできる最奥。それが冥府の入口です。お父様は行ったことがあるのですよね?」
「あぁ、何度かな。だが……」

 ザックはまゆをひそめて難しい顔をした。

「本当に冥府の入口に来るように言われたのか?」

 俺は改めてチーちゃんが来たことと手紙の内容を伝えた。 
 ザックさんはそれを聞いてなお、に落ちないと言いたげな表情で口を開く。

「ライルの話を疑うわけじゃない。だけど冷静に考えればそれはおかしいんだよ」
「おかしいってどういうことですか?」
「そもそもあそこは人が待てるような場所じゃない。冥府の入口ってのは深い穴の開いた場所で、穴の下には灼熱しゃくねつの溶岩が流れている。当然、付近の空気もすごい温度だ。装備を整えたうえで数時間待つならまだしも、バーシーヌから向かってくる相手を気長に待つなんて考えられない」
「近くで待っていて、僕たちが着いたら合流しようと考えている可能性は……」
「不死鳥様の島は全体が結界におおわれていて、南端のみさきにある神殿からしか行くことはできないんだ。神殿の警備は厳重で簡単に出入りできる場所じゃない」
「何かのわなってことでしょうか?」
「それは……わからない。だけど可能性は低いと思う。チマージルにとって不死鳥様は、この国の聖獣と一緒だ。みんなにあがめられているし、冥府の入口は特別な場所なんだ」
「チマージルの方にとっては、罠に使うなんて考えられないくらい大切な場所なんですね」
「そういうことだ」

 じゃあ相手は一体――
 そこまで話した時、俺がよく知る気配が二つ、この家に向かってくるのを感じた。
 扉がノックされる。
 フィオナさんが扉を開けると、そこにはうちの両親――リナとヒューゴが立っていた。

「あっ、ライル様にお話があって来ていただいていたんです」
「えぇ、そうみたいね。ヒューゴと一緒に帰ったらアサギたちがいたから聞いたの。『ちょっとマリアちゃんのところに用事があるみたい』ってね」
「それでわざわざ迎えに来たの? 話が終わったら僕も帰るから大丈夫だよ」

 俺は部屋の奥から顔だけ覗かせて、母さんたちに帰ってもらうよう促す。

「お前な、それでごまかしたつもりならお母さんをめすぎだぞ」

 父さんが呆れたように言いながら頭をく。
 そして母さんが腰に手を当てて口を開いた。

「ヒューゴはね、さっきまで聖獣の祠にいたのよ。それなのに、普段なら湖に転移して帰ってくるライルたちを見かけなかったってことは、家に置いてあるクリスタルに転移してきたんでしょ? 何かがあって、大慌てで移動してきたのなんてみえみえよ」

 俺はトレックに帰る時は、祠のある湖に転移して、ヴェルデの眷属けんぞくであり祠を守護してくれている精霊――スイに会ってから家に向かうようにしていた。
 だけど今日は早く情報を手に入れたくて、つい家に直接転移してしまったのだ。

「アサギとシオウは必死に平静をよそおっていたけど、コテツなんてずっと庭をウロウロして明らかに様子が変だったし」
「コテツさんは、わかりやすいですからね……」

 母さんの言葉に、フィオナさんが苦笑いした。感情が行動に出やすいコテツは、フィオナさんにとってスキルを使うには持って来いの相手だったんだろう。今回の件は、コテツに【読心】を使用して知ったんだな。
 俺が納得していると、母さんがフィオナさんを問い詰める。

「マリアちゃん。ライルがここに来たってことは、あなたの故郷に関わることなんでしょう? 基本的に事情は詮索せんさくしないと決めたけれど、息子をトラブルに巻き込むつもりであれば話は別よ」
「はい……その通りですね」
「いやいや、ちょっと待って母さん! トラブルに巻き込んでるのは僕だから!」

 俺は慌てて二人の会話をさえぎった。
 どうやら俺の両親は、フィオナさんの複雑な事情に俺が首を突っ込もうとしていると思い、思惑を問いただしに来たらしい。

「とにかく、リナさんもヒューゴも中に入ってくれ。手紙には王家に言うなとしか書いてなかったんだから、二人には話しても大丈夫なんだろう?」
「いや、まぁ、そうですね……」

 ザックさんの言葉に頷いて、父さんたちにも部屋に入ってもらった。


「で? どうやってマルコさんを助けに行くかは決めたの?」

 二人が来る前に話した内容をフィオナさんの本名やこれまでの経緯を含めて一通り説明し、真実を知った父さんたちの動揺も収まったところで、母さんが俺に対して聞いてきた。

「いや、まだ決めてないけど……行ってもいいの?」

 正直、母さんには止められると思っていたから驚いてしまった。

「私がダメって言ってやめてくれるなら助かるけどね……ライルは隠れて行くだけでしょ? だったらちゃんと計画を聞いてから行かせた方がまだマシだわ」
「お前に何かあった時に何も知らなかったんじゃ、それこそ親として恥ずかしいだろ」

 母さんも父さんも、最初から俺の行動を止める気はなかったようだ。
 両親の心配を受けて、俺は改めて告げる。

「リスクがあっても助けに行きたい。マルコさんは僕の最初の友達だから。それに冥府の入口が瘴気封印の地なら、一度見ておきたいってのもある」

 俺の意志が固いことを知って、父さんが頷いた。

「まぁお前がそう言うなら、きっとそれが正解なんだろうな。だけどマルコが捕まるようなやつが相手じゃ、一筋縄ひとすじなわではいかないだろう」
「あぁ。俺もそこが一番憂慮ゆうりょすべき点だと思う。並のチマージルの兵士程度では、彼を生け捕りにするのは至難しなんわざだろうからな」

 ……? 
 父さんとザックさんのやり取りに、俺は首を傾げた。

「チマージルの兵士って、商人のマルコさんより弱いんですか?」
「えっ……」

 ザックさんが結構引いた顔で俺を見ている。
 驚きたいのはむしろ俺の方だ。至難の業とか言い出したのはザックさんなんだから。

「はぁ……やっぱりお前、わかってなかったんだな」

 父さんはため息のあと、右手を額に当てながらなげいた。

「マルコは一つ一つの動きが戦士として洗練せんれんされているんだよ。ただの商人ではありえない」
「あぁ。自然体でありながらすきがない。正直、最初は祖国からの暗殺者かもしれないと警戒していた……というか未だにその可能性を疑っている」
「それはないわよ。あの子、ルイの友達だってフィリップ兄さんが言ってたもの。つまりそういうことでしょ?」

 マルコさんへの三者三様の評価を聞いて、俺にも思い当たることがあった。
 バーシーヌ王国第二王子のルイさんにリーナさんとゼフィアの入れ替わりを知らされた時、俺はどうしてそのことに気付いたのか尋ねた。
 その時のルイさんの回答が、脳内で再生される。


 ――優秀な諜報員ちょうほういんがいるからね。


 優秀な諜報員ってマルコさんのことだったのか。
 父さんが俺を小突きながら言う。

「お前なぁ、その眼――【魔天眼まてんがん】に頼りすぎだぞ。魔力の流れだけじゃなくて、ちゃんと相手の視線や筋肉のわずかな動きも見られるようにしておけよ」
「まぁマルコさんは簡単に見破れるレベルじゃないからな。チマージルでも彼の力を見抜ける者は数えるほどだろう。でもライルほどの実力者が気付いてないとは思ってなかったな」

 そうか。父さんは母さんや第三王子のジーノさんたちと組んだパーティ『瞬刻しゅんこくやいば』の一員で、王都中に名をせた冒険者。俺みたいにたくさんのスキルに頼らずとも、英雄と呼ばれた人なんだ。
 ザックさんだって魔法師団の元団長なんだから、チマージルでは指折りの実力者だったに違いない。
 もしかして――

「……母さんもすぐに正体がわかったの?」
「私は見てわかったわけじゃないけど……あなたが現れるまで彼が最年少従魔師だったのよ。そんな人がこんな田舎へ行商に来てるなんて知ったら、フィリップに探りを入れるくらいはするわよ」
「そうなんだ……」

 俺は軽くショックを受けていた。彼がルイさんの諜報員だったからではなく、その正体に今まで全く気付けなかったからだ。
 父さんの言う通り、俺はなんでも【魔天眼】で判断しすぎていると反省した。

「見る目のない男はモテないわよ。ね?」
「え、いや、えっと、あの……」

 母さんに同意を求められて、フィオナさんがしどろもどろになっていた。
 彼女の様子を見て、俺は恐る恐る質問する。

「え? まさかフィオナさんも知っていたんですか?」
「知っていたわけではないのですが……マルコさんってあんなに優しくて穏やかなのに、私のスキルを使っても感情の揺らぎすら読めないので……ただの商人ではないのかなぁとは」

 どうやら見る目がなかったのは、この中で俺だけだったらしい。


 ◆


 バーシーヌとチマージルの国境となっているルバシマ鉱山。
 かつては魔鉱石の採掘場さいくつじょうとして栄えていたものの現在では資源が枯渇こかつし、人が足を踏み入れなくなった坑道こうどうは魔物の巣窟そうくつと化していた。
 迷路のように張り巡らされた坑道を、俺たちはザックさんの案内で抜けていく。
 坑道を進んでいくのは俺、アモン、ノクスといったいつものメンバーだ。今回はそこに父さん、ザックさん、シルバーウルフの群れを代表してロウガとギンジが加わり、なんとも華のない編制になっている。
 冥府の入口に向かうにあたって、父さんがついてくることは母さんの提示した絶対条件だった。
 つい「なんか課外実習に親がついてくるみたいで恥ずかしい」と俺が不満を言うと、「他国に密入国しようとしているのに、何が課外実習よ!」とガッツリ怒られた。
 ザックさんは自らついていくと言ってきた。
 というのもチマージルの内部に潜入するには、特殊な結界をバレないように突破しなければいけないそうで、それは結界の仕組みを理解していないと難しいらしい。
 もちろんシオウたちも来たがったが、俺が国外に出てしまえば、エレインの【湖の乙女】による移動ができなくなる。
【召喚】という手段もあったが、俺はこれほどの遠距離で【召喚】を使ったことがない。それに【召喚】で俺が従魔たちを呼び出したら、聖獣の森の守りが薄くなってしまう。
 また、王都の警備についても不安があった。あそこにはワイバーンゾンビの事件で怪しい行動をしていた王立学園の先輩、トーマスがいる。聖獣の主人である俺の不在を知れば、彼はなんらかの事件を起こそうとする可能性が高い。
 だから、聖獣の森をシリウスを中心とした銀狼たちとスイ、そしてゼフィア以外の元素精霊に、王都をアサギとシオウ、ヴェルデ、ゼフィアにそれぞれ守護するようお願いしてきたのだ。

「もうすぐ出口だ」

 ギンジにまたがってザックさんが先頭を行く。
 その先に光は見えなかったが、確かに坑道のものとは異なる、冷たく乾いた匂いが鼻を抜けた。


 国境の長い坑道を抜けると砂漠であった。夜の底が黄色くなった。
 なんて言ってみたくなるほど、鉱山の反対側とは別世界だった。
 広大無辺こうだいむへんな砂の海と星空だけがそこにはあった。

「何もないだろ? だから国境つったって、チマージル側には警備もやしないんだよ」

 チマージルは国土の八割が砂漠に覆われていて、特にバーシーヌに近い土地は資源にとぼしい。
 しかも砂漠の中心部にはAランク以上の魔物が多数生息しており、縦断するのには大きな危険が伴う。
 魔物の素材を目当てにしたって、こんな砂漠じゃ補給もできなければ、野営も簡単ではない。
 だからバーシーヌから廃鉱山を抜けて、好き好んで来るようなやつは基本的にいないそうだ。

「夜の方が危険だし、今日はここまでにするぞ」

 父さんに言われ、俺は無属性魔法【亜空間あくうかん】を開いて、中に入る。
 砂漠の真ん中だろうがなんだろうが、俺にはこの魔法と、どんな環境下でも部屋を作れるスキル【シェルター】があるので、野営には全く困らない。

「お疲れ様です。ライル様、お父様、ヒューゴ様」

 シェルターに入った俺たちを出迎えてくれたのは、たくさんの子亀に囲まれたフィオナさんだ。
 ここはトータスが住む空間のため、彼らの生態に合わせて森のように設定していた。
 しかも不思議なことに、外が夜になると、こちらもきちんと夜になるのだ。

「ただいま戻りました。みんなの相手をしてくれてたんですね。大丈夫でしたか?」
「えぇ。みんな小さくて可愛いですし、お話がとっても楽しくて」

 フィオナさんはそう言って微笑みながら子亀たちを見下ろす。

「頑張って【縮小化】を取得した甲斐かいがあったな」

 俺が褒めると、子亀たちが口々に感想を言う。

『うん。弟と妹のために頑張ったんや!』
『あたし可愛いだってー』
『お姉ちゃんのお話もおもろかったで』

 子亀と言っても、本来のサイズはとっくに人間の大人よりも大きい。
 それを【縮小化】のスキルを使って、ハンドボールくらいのサイズになっているのだ。
 このトータスたちの暮らすシェルターは、一見すると本物の森のようにどこまでも広がっているように見えるが、実際にはここから少し進んだ木の向こうには壁があるし、天井もある。
 だから弟たちが生まれても窮屈きゅうくつにならないように、子亀たちは【縮小化】を覚えたのだ。

『みなさん。おいでやす。こんな状態であまりお構いもできませんが、ゆっくりしはってください』

 俺たちの話し声が聞こえたのか、奥から母亀のリルハンが顔を出した。
 見た目ではわからないものの、現在リルハンは出産をひかえている。ある役割のため今回は同行を頼んだが、基本的には戦闘力が低いフィオナさんと共に、安全なシェルターの中にいてもらう手はずとなっている。


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