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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族と少女の覚醒14
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縦軸、作子、キナの3名は廃墟の一室にいた。それなりの量の塵が舞っていることと壁や天井が一部崩れていることを除けば特に居心地は悪くない。建物自体が崩れはしないのかと縦軸は不安がったが、キナは自分がいるから問題無いと言い放った。何故か作子も彼女の言葉を信じた様子だったので縦軸も流れに身を任せることにした。
「あの人ずっと猫と話してるんだけど。別の場所でゆっくり話そうって言って僕たちをここまで連れて来たのあの人だよな?」
「まあいいんじゃない? エーレがこっち来るの待ってもらうって言ってたし。ていうかエーレ足止めしてくれるなら私は何でもいい」
作子は酷く怯えた様子だった。さっき食べた串焼き肉をそのまま吐き戻してしまいそうなくらい顔色が悪い。
縦軸も流石に心配になってしまった。
「大丈夫そう?」
「一応……」
「作子ってエーレが苦手なのか?」
「ちょっとね。色々あんのよ」
「ふーん。ていうかあの人ってエーレと知り合いだったんだ。姉さんを襲った犯人って聞いてたんだけど」
「……」
仄かにエーレへの警戒心を強める縦軸に、作子は何も答えなかった。
キナはしばらく廃墟にやって来た野良猫に向かって話しかけていたが、やがて猫が帰っていくとようやく縦軸と作子に注意を向けた。
「おまたせー。エーレちゃんしばらく待ってくれるって」
「感謝するよ。ありがとうキナさん」
「いいのよこれぐらい」
空気が重くなる。キナが刀を握った。
「さて、本題に移りましょうか」
「縦軸の身柄だろ。悪いけど魔王側に渡す気は無い」
「その言葉そっくりそのままお返しするわ」
「喧嘩でもする気?」
相手は高い戦闘能力を有した人外だ。魔法も魔物も存在しない世界の平凡な英語教師が物理的に争って勝てる筈が無い。それなのに、縦軸の目に映る作子は死ぬ気も負ける気も微塵も無い様子だった。
「いや、喧嘩はできれば避けたいわ。彼はこちらで保護できなくてもあなたたちから逃がすことができればそれでいいって言われてる。身柄についてはその子自身に決めさせるなりジャンケンするなりで済ませましょう」
「じゃあ何しに来たのあんた?」
「監視役」
キナは刀を抜き、作子にその刃を向けた。
「あなたがタテジク君に変なことしないように、私があなたたちを見張ってる」
「そっか。了解」
その時、遠くで爆発音がした。
「え、何?」
「おーやってるねえ」
「あらあら。あなたのお仲間さん?」
キナの刀が作子の喉元に迫った。しかし作子は怯える様子も無く語り始める。
「縦軸、さっき話しただろ。私らはリリィの仲間を殺すつもりって。それがあれ。1人になった隙を突いて各個撃破してんのよ。取り敢えずリリィの父ちゃん、カールって小僧、イデシメちゃん、それとあのワンちゃんは死ぬかな」
明日の天気を話すように気軽な言い草だった。
「坊や、その人きっと本気よ」
キナに言われるまでもなく縦軸は信じた。縦軸自身にも原因は分からなかったが、この時作子が言ったことは嘘や冗談の類はではないと脳が覚えていたからだ。
そして同時に思い出した。イデシメも、カールも、別々にどこかへ出かけていたことを。おそらくリリィの親も同じだろう。作子の話が本当ならば、彼女の仲間には少なくともイデシメたちが3人と1匹がかりで挑んでも勝てなかったスライムとエルフの少年がいる。4対2で勝てなかった相手に、1対1で襲われたらどうなるか。
「不安要素はセシリアとリリィかな。空間魔法の転移で全員集められたら計画が台無しだから。セシリアの方にはロウソクが向かったっぽいからいいとして――」
作子が縦軸に目をやる。
「リリィは今どうしてんの?」
縦軸は顔を青くした。リリィは来ない。他でもない縦軸自身が魔力を吸収するための杭を彼女に使い、魔力切れで気絶させてしまったからだ。目が覚めるまでどれくらいかかるだろうか? おそらく自分よりも遥かに時間がかかるに違いない。
自分のせいで、助かる筈だった命が犠牲になってしまう。
「その様子じゃ来れないみたいだね。じゃあ安心だ」
「黙れ」
「あ、リリィとセシリアは殺すなって言ってるから。あんたのお姉ちゃんは助かるよ」
「黙れ」
「それとていりちゃんたちのことも殺さないよう言ってるから心配しなくて大丈夫だよ。生徒を守るのは先生の役目だからね」
「黙れ黙れ黙れ! キレてるの分かんねえのか!」
縦軸は作子の髪を掴んでその顔を睨みつけた。しかし作子は全く意に介さない。
「当ててやろうか。あんたの馬鹿みたいな量の魔力を目立たなくする道具をエーレに作ってもらったんだろ。顔に貼っついてるその札と違って実際に吸収して量減らすやつだ。
んでもってそいつをリリィに使った。1人になりたいのにあいつが鬱陶しく付きまとおうとしたからだ。当然リリィは魔力切れを起こして気絶。しばらく助けに来れない」
作子はニヤリと笑った。
「言っとくが魔法は使ってないぜ? あんたの思考もエーレ一家の家庭事情も、私はよぉく知ってんだ。あんたも薄々分かってるだろ。あの子に何が起きてるのか」
作子の髪を掴んでいた縦軸の手から、徐々に力が失われていく。段々乱暴でなくなってゆく。
縦軸は手を離して項垂れた。
作子はそんな彼を優しく包み込むように抱き寄せ、頭を優しく撫でた。
「分かるよ。あんたの気持ち。情が湧いたんだよね。だから死ぬのが悲しい。会えなくなるのが悲しい。生きてたらどんなに離れ離れになってもいつかまた会えるかもしれないけど、死んだらまた会う機会はやって来ない。それがたまらなく嫌なんだよね」
「やめろ……」
「安心して。連中が死んだって事実も、それを手助けしたっていうあんたの罪悪感も、全部私が忘れさせてあげる」
抵抗しようとしても、体に力が入らない。思うように動かせない。
「あんたの仕事は1つだけ。大人しく私に捕まること。黙って私についてくればいいの。それだけ」
作子から、逃れられない。しかし――
「ちょっといいかしら?」
キナの言葉が空気を破った。
「あの人ずっと猫と話してるんだけど。別の場所でゆっくり話そうって言って僕たちをここまで連れて来たのあの人だよな?」
「まあいいんじゃない? エーレがこっち来るの待ってもらうって言ってたし。ていうかエーレ足止めしてくれるなら私は何でもいい」
作子は酷く怯えた様子だった。さっき食べた串焼き肉をそのまま吐き戻してしまいそうなくらい顔色が悪い。
縦軸も流石に心配になってしまった。
「大丈夫そう?」
「一応……」
「作子ってエーレが苦手なのか?」
「ちょっとね。色々あんのよ」
「ふーん。ていうかあの人ってエーレと知り合いだったんだ。姉さんを襲った犯人って聞いてたんだけど」
「……」
仄かにエーレへの警戒心を強める縦軸に、作子は何も答えなかった。
キナはしばらく廃墟にやって来た野良猫に向かって話しかけていたが、やがて猫が帰っていくとようやく縦軸と作子に注意を向けた。
「おまたせー。エーレちゃんしばらく待ってくれるって」
「感謝するよ。ありがとうキナさん」
「いいのよこれぐらい」
空気が重くなる。キナが刀を握った。
「さて、本題に移りましょうか」
「縦軸の身柄だろ。悪いけど魔王側に渡す気は無い」
「その言葉そっくりそのままお返しするわ」
「喧嘩でもする気?」
相手は高い戦闘能力を有した人外だ。魔法も魔物も存在しない世界の平凡な英語教師が物理的に争って勝てる筈が無い。それなのに、縦軸の目に映る作子は死ぬ気も負ける気も微塵も無い様子だった。
「いや、喧嘩はできれば避けたいわ。彼はこちらで保護できなくてもあなたたちから逃がすことができればそれでいいって言われてる。身柄についてはその子自身に決めさせるなりジャンケンするなりで済ませましょう」
「じゃあ何しに来たのあんた?」
「監視役」
キナは刀を抜き、作子にその刃を向けた。
「あなたがタテジク君に変なことしないように、私があなたたちを見張ってる」
「そっか。了解」
その時、遠くで爆発音がした。
「え、何?」
「おーやってるねえ」
「あらあら。あなたのお仲間さん?」
キナの刀が作子の喉元に迫った。しかし作子は怯える様子も無く語り始める。
「縦軸、さっき話しただろ。私らはリリィの仲間を殺すつもりって。それがあれ。1人になった隙を突いて各個撃破してんのよ。取り敢えずリリィの父ちゃん、カールって小僧、イデシメちゃん、それとあのワンちゃんは死ぬかな」
明日の天気を話すように気軽な言い草だった。
「坊や、その人きっと本気よ」
キナに言われるまでもなく縦軸は信じた。縦軸自身にも原因は分からなかったが、この時作子が言ったことは嘘や冗談の類はではないと脳が覚えていたからだ。
そして同時に思い出した。イデシメも、カールも、別々にどこかへ出かけていたことを。おそらくリリィの親も同じだろう。作子の話が本当ならば、彼女の仲間には少なくともイデシメたちが3人と1匹がかりで挑んでも勝てなかったスライムとエルフの少年がいる。4対2で勝てなかった相手に、1対1で襲われたらどうなるか。
「不安要素はセシリアとリリィかな。空間魔法の転移で全員集められたら計画が台無しだから。セシリアの方にはロウソクが向かったっぽいからいいとして――」
作子が縦軸に目をやる。
「リリィは今どうしてんの?」
縦軸は顔を青くした。リリィは来ない。他でもない縦軸自身が魔力を吸収するための杭を彼女に使い、魔力切れで気絶させてしまったからだ。目が覚めるまでどれくらいかかるだろうか? おそらく自分よりも遥かに時間がかかるに違いない。
自分のせいで、助かる筈だった命が犠牲になってしまう。
「その様子じゃ来れないみたいだね。じゃあ安心だ」
「黙れ」
「あ、リリィとセシリアは殺すなって言ってるから。あんたのお姉ちゃんは助かるよ」
「黙れ」
「それとていりちゃんたちのことも殺さないよう言ってるから心配しなくて大丈夫だよ。生徒を守るのは先生の役目だからね」
「黙れ黙れ黙れ! キレてるの分かんねえのか!」
縦軸は作子の髪を掴んでその顔を睨みつけた。しかし作子は全く意に介さない。
「当ててやろうか。あんたの馬鹿みたいな量の魔力を目立たなくする道具をエーレに作ってもらったんだろ。顔に貼っついてるその札と違って実際に吸収して量減らすやつだ。
んでもってそいつをリリィに使った。1人になりたいのにあいつが鬱陶しく付きまとおうとしたからだ。当然リリィは魔力切れを起こして気絶。しばらく助けに来れない」
作子はニヤリと笑った。
「言っとくが魔法は使ってないぜ? あんたの思考もエーレ一家の家庭事情も、私はよぉく知ってんだ。あんたも薄々分かってるだろ。あの子に何が起きてるのか」
作子の髪を掴んでいた縦軸の手から、徐々に力が失われていく。段々乱暴でなくなってゆく。
縦軸は手を離して項垂れた。
作子はそんな彼を優しく包み込むように抱き寄せ、頭を優しく撫でた。
「分かるよ。あんたの気持ち。情が湧いたんだよね。だから死ぬのが悲しい。会えなくなるのが悲しい。生きてたらどんなに離れ離れになってもいつかまた会えるかもしれないけど、死んだらまた会う機会はやって来ない。それがたまらなく嫌なんだよね」
「やめろ……」
「安心して。連中が死んだって事実も、それを手助けしたっていうあんたの罪悪感も、全部私が忘れさせてあげる」
抵抗しようとしても、体に力が入らない。思うように動かせない。
「あんたの仕事は1つだけ。大人しく私に捕まること。黙って私についてくればいいの。それだけ」
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