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第一章
【次は誰かな 02】
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「い、いなくなった? 本当に!?」
「はい。イストさんが持っていた鍵の束もお借りしています。上の階に戻りませんか?」
手首に下げた鍵の束を見せると、若子はさらに驚いた。
「ま、待って下さい。上に行くのは危険です、イスト様と鉢合わせしたら……!」
「あの人、もういませんよ」
「で、でも、他の人に見つかったら連れ戻されるかもしれないし……! あの、もう一つ、出入り口がある筈なんです! 廊下の先に……!」
「え、そうなんですか?」
若子があまりにも一生懸命止めようとするので、恋唯はその案に乗ることにした。
「あたしよりも前からここにいた女の子がいて、その、少し前に、死んで……。遺体がそこから出された筈なんです。だから、もし逃げるなら、そこから行けるんじゃないかって、ずっと考えていて」
「じゃあ、そこから出ましょうか」
「えっ、えっ……本当に大丈夫なんですか!?」
怯えている若子を安心させるように、恋唯が笑う。
「多分、大丈夫だと思いますよ。神官さんも兵士さんたちも、私だけ行かせて、地下に降りるつもりはないみたいでしたし。この国の人たちはあまり信用出来ません。ずっとここにいるよりはマシじゃないでしょうか?」
「は、はい……。それは、そう……です」
それには若子も異論はないらしい。恋唯が手伝って、ベッドから立ち上がらせる。
彼女が素足なことに気付いて何か履けるものを探したが、生憎見つからなかった。
若子は恋唯と同じくハズレ認定を受けた初日にイストと引き合わされて、着ていた服を脱がされてから、ずっと裸で過ごしていたそうだ。
「若子さん、私の靴、履きますか?」
「だ、大丈夫です。それより早く……行くなら、早くしないと……っ」
「では、せめてこれを」
恋唯は会社の青いジャケットを脱ぐと、若子に羽織らせる。
「あ、ありがとうございます……」
「毛布は腰に巻き付けましょう」
「は、はい!」
若子はジャケットに袖を通し、ジッパーを胸元まで上げる。
毛布が落ちないようにどうにか押さえると、よろよろと歩き出した。
「ここ、若子さん以外に、まだ人がいたりしますか?」
「いえ……今はあたしだけだと思います」
若子が俯いて、弱々しい声を出した。
この地下は長い間イストという暴君の王国で、彼女だけが生き残りなのだろう。
ジャケットを脱いで白いブラウスだけの姿になった恋唯は少し肌寒さを覚えたが、若子はもっとずっと寒かったはずだと我慢する。
若子と共に部屋を出て、様子を伺いながら廊下を進むと、確かに突き当たりにも扉があった。
鍵を開けてさらに奥へと進むと、遠くに小さな光が見えた。
「はい。イストさんが持っていた鍵の束もお借りしています。上の階に戻りませんか?」
手首に下げた鍵の束を見せると、若子はさらに驚いた。
「ま、待って下さい。上に行くのは危険です、イスト様と鉢合わせしたら……!」
「あの人、もういませんよ」
「で、でも、他の人に見つかったら連れ戻されるかもしれないし……! あの、もう一つ、出入り口がある筈なんです! 廊下の先に……!」
「え、そうなんですか?」
若子があまりにも一生懸命止めようとするので、恋唯はその案に乗ることにした。
「あたしよりも前からここにいた女の子がいて、その、少し前に、死んで……。遺体がそこから出された筈なんです。だから、もし逃げるなら、そこから行けるんじゃないかって、ずっと考えていて」
「じゃあ、そこから出ましょうか」
「えっ、えっ……本当に大丈夫なんですか!?」
怯えている若子を安心させるように、恋唯が笑う。
「多分、大丈夫だと思いますよ。神官さんも兵士さんたちも、私だけ行かせて、地下に降りるつもりはないみたいでしたし。この国の人たちはあまり信用出来ません。ずっとここにいるよりはマシじゃないでしょうか?」
「は、はい……。それは、そう……です」
それには若子も異論はないらしい。恋唯が手伝って、ベッドから立ち上がらせる。
彼女が素足なことに気付いて何か履けるものを探したが、生憎見つからなかった。
若子は恋唯と同じくハズレ認定を受けた初日にイストと引き合わされて、着ていた服を脱がされてから、ずっと裸で過ごしていたそうだ。
「若子さん、私の靴、履きますか?」
「だ、大丈夫です。それより早く……行くなら、早くしないと……っ」
「では、せめてこれを」
恋唯は会社の青いジャケットを脱ぐと、若子に羽織らせる。
「あ、ありがとうございます……」
「毛布は腰に巻き付けましょう」
「は、はい!」
若子はジャケットに袖を通し、ジッパーを胸元まで上げる。
毛布が落ちないようにどうにか押さえると、よろよろと歩き出した。
「ここ、若子さん以外に、まだ人がいたりしますか?」
「いえ……今はあたしだけだと思います」
若子が俯いて、弱々しい声を出した。
この地下は長い間イストという暴君の王国で、彼女だけが生き残りなのだろう。
ジャケットを脱いで白いブラウスだけの姿になった恋唯は少し肌寒さを覚えたが、若子はもっとずっと寒かったはずだと我慢する。
若子と共に部屋を出て、様子を伺いながら廊下を進むと、確かに突き当たりにも扉があった。
鍵を開けてさらに奥へと進むと、遠くに小さな光が見えた。
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