15 / 90
第一章
【守ってあげたい 03】
しおりを挟む
部屋にあった服から二人が着用出来そうなブラウスやワンピースを拝借して階段を下りると、男性が食事を用意してくれていた。
固い黒パンに、野菜と干し肉が浮いたスープだ。久しぶりに温かいものを胃の中に入れることが出来て若子はホッとしたが、パンは恋唯に貰った食パンのほうが美味しかったと感じてしまう。
そう言えば、恋唯はあのパンをどこで手に入れたのだろうか。
「ああ、悪いな。パンが固かったか。少し炙ろう」
「え、いえ、そんな」
顔に出てしまっていただろうかと若子が慌てると、ハンスは空いている方の手から、蝋燭ほどの火を出した。
「えっ!?」
「これは俺の先天スキルでな。小さな炎を出す程度だが、夜に出歩く際の灯りや、料理の役くらいには立つ」
「先天スキル……というと、生まれつき持っているスキルということですか? 私が召喚されたときは、王様と神官の方々が、付与スキルがどうこうと言っていましたけど」
火に炙られて温かくなったパンを受け取って、恋唯が尋ねる。
「ああ……。全員じゃ無いが、この世界では生まれつきスキルを持っている者がいる。といっても俺みたいに、少しだけ火が出せたり、水が出せたりする程度が多いけどな」
「あっ、あたし! 少しだけ水が出せます!」
「異世界から召喚された者にエダが与えるスキルには、強力なものが多いそうだ。同じ炎でも森を一瞬で焼き尽くせたり、同じ水でも洪水を起こせたりする。そういったスキルを付与された者は『アタリ』として、王子のモンスター討伐の一行に加えられてる」
若子は温かいパンをのせた自分の両手を見た。
ほんの少しだけ、水が湧き出る小さな手のひらを。
「あんたは?」
「私に付与スキルは無いそうです。ハズレ中のハズレですね」
ハンスの目線が向けられたので、恋唯は神官に言われたことをそのまま口にした。
「何も無いってのは逆に珍しいな。しかしまあ、この国に召喚されたあんたらには、大変申し訳ないことをしてしまった。俺は若い頃は城の騎士団に務めていたが、王の不評を買って以来、イスト様に仕えることになった。……そちらのお嬢ちゃんには一度会ったことがある」
「そう、なんですね。あたし、あんまり覚えてなくて……」
ハンスは銀髪に青い目の、彫りの深い顔立ちをしていた。
すでに初老に差し掛かった年齢のようだが、体つきもがっしりとしているのは、今でも鍛えているからだろうか。
「イストさんはどうして、あんな真似が許されていたのでしょうか」
食事を終えた恋唯が尋ねる。ハンスはこめかみを指で押さえ、苦悩の表情を浮かべた。
「イスト様は……王の異母弟なんだ」
「ああ……そう言えば、そんなことを言っていたような気がします」
イストと交わした数少ないやりとりを思い返して、恋唯がやや納得する。
フェードゥンは王族の権威が相当強い国なのだろう。
「イスト様は、若い頃から残忍な性格をされていた。城の庭に住み着いた小動物をいたぶって殺すことから始まり、イスト様付きの侍女になったものはみな暴力を振るわれていたから、次々辞めるか、姿を消していってな。王は年を取っても残虐性を抑えられない異母弟を持て余し、ハズレ異世界人の世話役という任を与え、城の地下を好きに使わせることにしたんだ。お陰で、城内は平和になった」
「な、なんですかそれ!?」
若子が思わず大きな声を上げる。
「そんな人のために……あたしたちを、犠牲にしてたって言うんですか……っ!?」
「ああ、そうだ。本当にすまなかった」
頭を下げるハンスに、若子は悔しさで涙を浮かべた。この人に怒ったところで、どうにもならないことなのだろう。
固い黒パンに、野菜と干し肉が浮いたスープだ。久しぶりに温かいものを胃の中に入れることが出来て若子はホッとしたが、パンは恋唯に貰った食パンのほうが美味しかったと感じてしまう。
そう言えば、恋唯はあのパンをどこで手に入れたのだろうか。
「ああ、悪いな。パンが固かったか。少し炙ろう」
「え、いえ、そんな」
顔に出てしまっていただろうかと若子が慌てると、ハンスは空いている方の手から、蝋燭ほどの火を出した。
「えっ!?」
「これは俺の先天スキルでな。小さな炎を出す程度だが、夜に出歩く際の灯りや、料理の役くらいには立つ」
「先天スキル……というと、生まれつき持っているスキルということですか? 私が召喚されたときは、王様と神官の方々が、付与スキルがどうこうと言っていましたけど」
火に炙られて温かくなったパンを受け取って、恋唯が尋ねる。
「ああ……。全員じゃ無いが、この世界では生まれつきスキルを持っている者がいる。といっても俺みたいに、少しだけ火が出せたり、水が出せたりする程度が多いけどな」
「あっ、あたし! 少しだけ水が出せます!」
「異世界から召喚された者にエダが与えるスキルには、強力なものが多いそうだ。同じ炎でも森を一瞬で焼き尽くせたり、同じ水でも洪水を起こせたりする。そういったスキルを付与された者は『アタリ』として、王子のモンスター討伐の一行に加えられてる」
若子は温かいパンをのせた自分の両手を見た。
ほんの少しだけ、水が湧き出る小さな手のひらを。
「あんたは?」
「私に付与スキルは無いそうです。ハズレ中のハズレですね」
ハンスの目線が向けられたので、恋唯は神官に言われたことをそのまま口にした。
「何も無いってのは逆に珍しいな。しかしまあ、この国に召喚されたあんたらには、大変申し訳ないことをしてしまった。俺は若い頃は城の騎士団に務めていたが、王の不評を買って以来、イスト様に仕えることになった。……そちらのお嬢ちゃんには一度会ったことがある」
「そう、なんですね。あたし、あんまり覚えてなくて……」
ハンスは銀髪に青い目の、彫りの深い顔立ちをしていた。
すでに初老に差し掛かった年齢のようだが、体つきもがっしりとしているのは、今でも鍛えているからだろうか。
「イストさんはどうして、あんな真似が許されていたのでしょうか」
食事を終えた恋唯が尋ねる。ハンスはこめかみを指で押さえ、苦悩の表情を浮かべた。
「イスト様は……王の異母弟なんだ」
「ああ……そう言えば、そんなことを言っていたような気がします」
イストと交わした数少ないやりとりを思い返して、恋唯がやや納得する。
フェードゥンは王族の権威が相当強い国なのだろう。
「イスト様は、若い頃から残忍な性格をされていた。城の庭に住み着いた小動物をいたぶって殺すことから始まり、イスト様付きの侍女になったものはみな暴力を振るわれていたから、次々辞めるか、姿を消していってな。王は年を取っても残虐性を抑えられない異母弟を持て余し、ハズレ異世界人の世話役という任を与え、城の地下を好きに使わせることにしたんだ。お陰で、城内は平和になった」
「な、なんですかそれ!?」
若子が思わず大きな声を上げる。
「そんな人のために……あたしたちを、犠牲にしてたって言うんですか……っ!?」
「ああ、そうだ。本当にすまなかった」
頭を下げるハンスに、若子は悔しさで涙を浮かべた。この人に怒ったところで、どうにもならないことなのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―
EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。
そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。
そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる――
陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。
注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。
・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。
・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。
・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。
・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる