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第二章
【新しい生活 03】
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「役に立てたなら良かったです!」
「あと、すみません。治療に必要かと思って、若子さんが眠っている間に、若子さんを見つけたときの状況を、アルバン先生に伝えてしまいました」
「ぜ、全然いいですよ! お医者さんだし、全然……」
「ワコさん、もしもですが……体に何か異変があれば、一人で抱え込まずに、相談して下さい。男の私に言い辛ければ、今は不在ですが、数日経てば妻が戻りますので、妻にでも。それか、こちらのコイさんに」
「異変……ですか?」
アルバンが何を言わんとしているのかが分からず、若子は思わず恋唯に目を向けた。
「その、アルバン先生は……若子さんの妊娠の可能性を、心配されていまして」
「あ、ああ~……」
ようやく合点がいったと若子が笑う。
笑うような話題ではないのだが、情けなさと惨めさがごちゃごちゃになってしまい、そう反応するしかなかった。
あの地下室で若子がどんな目に遭っていたのか、二人にはもう全部、把握されているのだろう。
「あっ、でも、その、可能性は低いと思うんですよ! ……その、死んじゃった子が言ってたんです、暴力でしか女を支配できない種無し野郎~って! それ言ったら殴られて死んじゃったんですけど……。でも、多分それ、本当のことだと思います。本当のことだったから、あんなにブチギレたんだろうなって」
「……なるほど。前から王がイスト様を放置していた理由が分からなかったのですが、そうだったからなのかもしれませんね……」
子どもが出来ないから跡継ぎを作れない、つまり王位継承争いが起きない……ということだろうかと、恋唯も推測した。
会話したのはほんの少しであり、限りなく不快な人間という印象しか無いが、イストという男もそれなりに辛い立場で生まれ育ったのかもしれない。
「ワコさん。貴方が体験したことは、とても異常なことです。この国の王族は暴君気質の方が多く、それが庶民の信仰をエダに向かわせた背景もあるのですが……異世界から来た貴方には、まるで関係の無いことです。この国が貴方のような若い女性を辱めたこと、とても申し訳なく思います。……本当にすみません」
「いえ、そんな、あの、アルバンさんのせいじゃないんで!」
頭を下げるアルバンに、若子が慌てて両手を振った。
実際、ハンスのときもそうだったが、アルバンに謝られたからといって、若子の負った傷が治るというわけでもない。
「あ、そう言えば……恋唯さんが着てるのって、ハンスさんの、娘さんの?」
「ええ。頂いた服です」
若子の話題を変えたい気持ちを汲んで、恋唯が頷く。
恋唯が着ているのは、半袖の白いブラウスに、深緑のワンピースを合わせた服だ。胸元が大きく開いており、恋唯の豊かな胸が一層強調されている。
「なんか、どっかの民族衣装に似てますね?」
「ビールのお祭りとかで見かけたことがありますね。私は服に詳しくないので、構造も全て一緒なのかは分かりませんが」
「あたしもその服着たいです!」
「ええと、じゃあ着替えましょうか?」
「安静第一ですが、気晴らしになることなら積極的にやりましょう。この建物の周りを少し散歩するくらいなら許可しますので」
目を輝かせた若子に、アルバンも朗らかに笑う。
続けて飲み薬と塗り薬の説明をすると、アルバンは診療所内の患者の回診へと向かっていった。
「恋唯さんは昨日どこで寝たんですか?」
「隣のベッドですよ」
部屋には二つベッドがあり、片方は恋唯が使用したらしい。
しばらくは同室で寝起きすることになったと聞いて、若子は安堵した。
恋唯がそばにいてくれるのは、とても心強い。
「あと、すみません。治療に必要かと思って、若子さんが眠っている間に、若子さんを見つけたときの状況を、アルバン先生に伝えてしまいました」
「ぜ、全然いいですよ! お医者さんだし、全然……」
「ワコさん、もしもですが……体に何か異変があれば、一人で抱え込まずに、相談して下さい。男の私に言い辛ければ、今は不在ですが、数日経てば妻が戻りますので、妻にでも。それか、こちらのコイさんに」
「異変……ですか?」
アルバンが何を言わんとしているのかが分からず、若子は思わず恋唯に目を向けた。
「その、アルバン先生は……若子さんの妊娠の可能性を、心配されていまして」
「あ、ああ~……」
ようやく合点がいったと若子が笑う。
笑うような話題ではないのだが、情けなさと惨めさがごちゃごちゃになってしまい、そう反応するしかなかった。
あの地下室で若子がどんな目に遭っていたのか、二人にはもう全部、把握されているのだろう。
「あっ、でも、その、可能性は低いと思うんですよ! ……その、死んじゃった子が言ってたんです、暴力でしか女を支配できない種無し野郎~って! それ言ったら殴られて死んじゃったんですけど……。でも、多分それ、本当のことだと思います。本当のことだったから、あんなにブチギレたんだろうなって」
「……なるほど。前から王がイスト様を放置していた理由が分からなかったのですが、そうだったからなのかもしれませんね……」
子どもが出来ないから跡継ぎを作れない、つまり王位継承争いが起きない……ということだろうかと、恋唯も推測した。
会話したのはほんの少しであり、限りなく不快な人間という印象しか無いが、イストという男もそれなりに辛い立場で生まれ育ったのかもしれない。
「ワコさん。貴方が体験したことは、とても異常なことです。この国の王族は暴君気質の方が多く、それが庶民の信仰をエダに向かわせた背景もあるのですが……異世界から来た貴方には、まるで関係の無いことです。この国が貴方のような若い女性を辱めたこと、とても申し訳なく思います。……本当にすみません」
「いえ、そんな、あの、アルバンさんのせいじゃないんで!」
頭を下げるアルバンに、若子が慌てて両手を振った。
実際、ハンスのときもそうだったが、アルバンに謝られたからといって、若子の負った傷が治るというわけでもない。
「あ、そう言えば……恋唯さんが着てるのって、ハンスさんの、娘さんの?」
「ええ。頂いた服です」
若子の話題を変えたい気持ちを汲んで、恋唯が頷く。
恋唯が着ているのは、半袖の白いブラウスに、深緑のワンピースを合わせた服だ。胸元が大きく開いており、恋唯の豊かな胸が一層強調されている。
「なんか、どっかの民族衣装に似てますね?」
「ビールのお祭りとかで見かけたことがありますね。私は服に詳しくないので、構造も全て一緒なのかは分かりませんが」
「あたしもその服着たいです!」
「ええと、じゃあ着替えましょうか?」
「安静第一ですが、気晴らしになることなら積極的にやりましょう。この建物の周りを少し散歩するくらいなら許可しますので」
目を輝かせた若子に、アルバンも朗らかに笑う。
続けて飲み薬と塗り薬の説明をすると、アルバンは診療所内の患者の回診へと向かっていった。
「恋唯さんは昨日どこで寝たんですか?」
「隣のベッドですよ」
部屋には二つベッドがあり、片方は恋唯が使用したらしい。
しばらくは同室で寝起きすることになったと聞いて、若子は安堵した。
恋唯がそばにいてくれるのは、とても心強い。
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