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第三章

【秘密がいっぱい 02】

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「街の人たちが噂してる。オーマンさんが、畑で働いてる若い女の人と親しくしてるって」
「なっ……違う! ヨハナはただの農婦だ!」
 すぐさま誰のことなのか分かってしまったのは、ロッゲンもその現場を目にしたことがあるからだ。
 若い農婦と親しげに会話する父親の姿。そして楽しそうに細められた、その優しい眼差しを。
「働き者だから、お父様は雇用主として気にかけてるだけだ!」
「でも、僕にも『見えた』よ。お前の父さんと、その女の人の間に、その……淡い恋の色が在る、のが……」
「はあ? 恋の色ってなんだよ」
「僕のスキルなんだ。人の感情が、色で見えるんだよ。父さんは『色認識』って呼んでるけど、先天スキル持ちの中でも滅多にいないんだって」
「カミルさん」
 突然響いた女性の声に、ロッゲンは驚いて腰を浮かせた。
 山道の階段を登ってくるのは、診療所で世話になっているという、黒髪のコイという女性だった。
「ごめん、僕が呼んだ」
「ここまで上がって来る間に、ところどころお二人の会話が聞こえてしまいました。……私が聞いていい内容だったのでしょうか?」
「貴方に知っていて欲しかったんです」
 カミルも立ち上がり、山道を登る恋唯に手を差し出した。恋唯はその手を取って、二人の元へとやって来る。
「カミルさん、先天スキルをお持ちだったのですね」
「そうなんです」
「え……? そんな話、初めて聞いた」
 恋唯の出現と同時に明かされた幼なじみの秘密に、ロッゲンは何から驚けばいいのかと混乱してしまう。
「……なんだよ、スキル無しのオレに対する自慢か!?」
「違う。気持ち悪がられるかと思ってあんまり言ってないんだ。それに、常時分かるってわけじゃない。こうやって……」
 カミルの体全体が、淡い光を帯びる。足元には太陽の円陣が広がっていた。
 まるでカミルが天から遣わされた存在のようだと、ロッゲンは戦く。
「スキルを発動したときだけだ。ロッゲンは今、色んな色が混じってる。混乱しているんだな。コイさんは……月の無い、夜みたいな色……」
「なるほど、そんなスキルもあるのですね。……今までも、私を『見た』ことがありますか?」
「はい、すみません。父にコイさんたちのことを紹介された、最初の日に。何か父が……事件に巻き込まれているのではないかと、心配だったから」
「カミルさんは本当に、ご家族思いですね」
 恋唯が口元だけで笑った。
 ロッゲンはその表情を見て、何故か背筋が寒くなるのを感じる。ただ笑っているだけなのに、何故だろう。
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