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第五章
【モンスターは誰 02】
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「このパン、干しブドウが入ってる!」
リリーが歓喜の声を上げる。カミルもパンを頬張って、もごもごと満足そうに口を動かしていた。
「おいひいです……」
「コイお姉ちゃん、すっごく美味しい!」
「良かったです。若子さんはどうですか?」
「あ、あたしは……」
一口だけ食べることにした若子は、思い切ってそれを口に含んだ。
表面部分がパリパリしていて、中は普段食べている黒パンよりは柔らかくて美味しい。干しブドウの甘みもアクセントになっている。
だが、あの時の食パンほどの感動は無いと思ってしまった。
あれは本当に、今までの不幸を全て消し去ってしまうかのような美味しさだったから。
「地下で食べた食パンの方が美味しいと思っているのでは?」
「えっ、バ、バレました?」
「若子さん、顔に出やすいですから。お陰で私も法則が分かってきました」
「法則って、スキルのですか?」
「リリー、カミルーッ!」
「あっ、お父さんだ!」
聞いたことのないアルバンの大きな声が響き、木々の隙間に灯りが浮かんでいるのが見える。アルバンが街の男の人たちを集めてやって来てくれたのだろう。
パンを食べ終わったカミルとリリーが、父親たちの元へと走って行く。
それを追いかけながら、若子は恋唯に話しかける。
「あの、分かりました!」
「何がですか?」
「あの時の食パンも……モンスターだったんですね!」
怪我一つなく、肌艶もいい若子の顔を見て、恋唯は初めて出会ったときのことを思い出した。
不衛生な暗い地下室に閉じ込められ、裸で毛布に包まっていた若子のことを。
恋唯が一人で森を見に行こうとしたら、置いていかないでと心細そうに泣き出した、あの姿を。
「ええ、そうですね……」
あのとき自分が取った行動を、何も後悔などしていない。
結果的に、あの男から若子を救うことになったのだから。
「とても恐ろしい、モンスターでしたよ」
リリーが歓喜の声を上げる。カミルもパンを頬張って、もごもごと満足そうに口を動かしていた。
「おいひいです……」
「コイお姉ちゃん、すっごく美味しい!」
「良かったです。若子さんはどうですか?」
「あ、あたしは……」
一口だけ食べることにした若子は、思い切ってそれを口に含んだ。
表面部分がパリパリしていて、中は普段食べている黒パンよりは柔らかくて美味しい。干しブドウの甘みもアクセントになっている。
だが、あの時の食パンほどの感動は無いと思ってしまった。
あれは本当に、今までの不幸を全て消し去ってしまうかのような美味しさだったから。
「地下で食べた食パンの方が美味しいと思っているのでは?」
「えっ、バ、バレました?」
「若子さん、顔に出やすいですから。お陰で私も法則が分かってきました」
「法則って、スキルのですか?」
「リリー、カミルーッ!」
「あっ、お父さんだ!」
聞いたことのないアルバンの大きな声が響き、木々の隙間に灯りが浮かんでいるのが見える。アルバンが街の男の人たちを集めてやって来てくれたのだろう。
パンを食べ終わったカミルとリリーが、父親たちの元へと走って行く。
それを追いかけながら、若子は恋唯に話しかける。
「あの、分かりました!」
「何がですか?」
「あの時の食パンも……モンスターだったんですね!」
怪我一つなく、肌艶もいい若子の顔を見て、恋唯は初めて出会ったときのことを思い出した。
不衛生な暗い地下室に閉じ込められ、裸で毛布に包まっていた若子のことを。
恋唯が一人で森を見に行こうとしたら、置いていかないでと心細そうに泣き出した、あの姿を。
「ええ、そうですね……」
あのとき自分が取った行動を、何も後悔などしていない。
結果的に、あの男から若子を救うことになったのだから。
「とても恐ろしい、モンスターでしたよ」
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