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第六章
【小さなお城のまりあ姫 03】
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実際まりあはとても賢かった。異世界に突然召喚されたときも、すぐに一番偉い人を判別して、上手く取り入った。
でもその王様から命じられたのは不思議な内容だった。
自分の息子と旅をして、誘惑しろと言うのだ。そして必ず、息子を骨抜きにしたか、性行為をしたかどうかを報告しろと言う。
流石に一国の王に会うのは初めてだったから、あまりにも立場が偉くなりすぎると性癖もだいぶ拗らせちゃうのかな、とその時は思った。
「父上は、本来ならば国王になる方ではなかったのだ」
誘惑しろと命じられた相手……王子様のウーヴェがその話をしてくれたのは、旅が始まってしばらくしてからのことだった。
まだ水の回復スキルを持つ正夫が召喚されてなくて、二人で旅をしていた頃。
その日は大雨で近くに町もなくて、仕方ないからまりあの土スキルで小さな部屋を作った。
部屋といっても、かまくらみたいな簡単なやつ。
まりあの土スキルは本当に優秀で、戦闘でも日常でも使えて応用が利く。これもまりあが賢いからだと思う。
土壁の中にちょっとしたベッドを作って、その上にマントや毛布を敷けばそれなりにいい感じになった。
ベッドは大人二人が寝転んでも平気な広さで作ったのに、王子は頑なにそこで寝ようとはしない。
「じゃあ誰が王様になる筈だったの?」
ベッドの上でブーツを脱いで生足を晒し、こんなにも誘惑しているというのに、ウーヴェは不自然なまでにまりあを見ようとはしなかった。
「父上の姉君だ。とても美しく聡明な方だったと聞く。しかし、恋をして変わってしまった。父上はいつも姉君の肖像画を見上げて呟いている……姉君はつまらない女になってしまったと」
「ふーん」
あ、これ、まりあから意識を逸らす為に話してるんだなと察しが付いた。
まりあの作った土壁の小さなお城は防音も完璧で、雨の音が響かないから、ウーヴェの声がよく聞こえる。ウーヴェの声は、不思議と心地良い。
「姉君は表向きは病死したことになっている。しかし本当は自死なさったのだ。国を捨てるほど恋した男が殺されたから……私は、その男を殺したのは父上ではないかと思っている」
「王様が? お姉さんの恋人殺しちゃったの?」
「父上は聡明な姉君が、恋をしてつまらない女になってしまったことが許せないのだ。だから俺も、同じ状況に陥らせようとしている」
「同じ状況?」
まりあはふくらはぎを揉み揉みする。今日も沢山歩いたからマッサージ。もちろん相手に意識させる為に、わざとやってる。
「スキルを持つ異世界人と旅をさせて、国と恋、どちらを取るのかを見ているんだ。それによって、俺が次期王位継承者に相応しいかどうか、見定めるつもりなんだろう」
「ああ、なるほど。まりあを抱いたらアウト~ってこと?」
「お前とそういう関係になり、王位を捨てようとしたら、ということだろう」
「へえ、王様って面白いこと考えるね」
「正気か? お前は父上に利用されているのに。もっと怒ったっていいんだぞ」
王子の目線がまりあに向けられた。
まりあはスカートの裾を捲って、太ももまで露わにする。
「いいよ、別に。今までだって色んな人がまりあを利用してきたし、まりあだって利用仕返してやった。ウィンウィンってやつだよ」
「ウィ……? お前の使う言葉は時々分からない」
「あれ? 上手く翻訳されてないのかな? まりあ、文字もわかんないし、エダってなんか微妙じゃね?」
「軽口でもそういう発言をするな。俺の前でならともかく、特に神官たちがいる場所では駄目だ」
「王子の前でならいいんだ?」
「お前が、意外と……悪意の無い人間だということは、すでに知っている」
そう言って王子様が近づいてくる。
足を触るだろう、下着に手を突っ込むだろうと思ったのに、伸ばされた男の手は、まりあの前髪を優しく撫でるだけだった。
「明日晴れたら、予定通りモンスター退治に向かう。俺のことは気にせず、早く寝ろ」
「一緒に寝ればいいじゃん。ほら、ベッドも作ったんだよ?」
「俺は床でいい。なんなら立って寝られるように、訓練も受けている」
「王子様なのに~?」
「慣れているから、気にするな。……おやすみ、マリア」
「……おやすみなさーい……」
まりあに触れる指先にも、まりあの名前を呼ぶ声にも、確かに愛が、そこには在るのに。
王子様はまりあを抱こうとはしない。今までの男たちみたいに、褒美をチラつかせて体を触ってきたり、無理矢理押し倒して粗末な男性器を見せつけようとしてきたりとか、そういうことを全然しない。
いっそのこと、手荒く抱いてくれたらいいのに。
そうしたら王子様も他の男も同じか~って、軽蔑出来たのに。
なんでこんなに優しくするんだろう。
どうしたら、もっと、もっと……。
この人に、好きになってもらえるんだろう……。
でもその王様から命じられたのは不思議な内容だった。
自分の息子と旅をして、誘惑しろと言うのだ。そして必ず、息子を骨抜きにしたか、性行為をしたかどうかを報告しろと言う。
流石に一国の王に会うのは初めてだったから、あまりにも立場が偉くなりすぎると性癖もだいぶ拗らせちゃうのかな、とその時は思った。
「父上は、本来ならば国王になる方ではなかったのだ」
誘惑しろと命じられた相手……王子様のウーヴェがその話をしてくれたのは、旅が始まってしばらくしてからのことだった。
まだ水の回復スキルを持つ正夫が召喚されてなくて、二人で旅をしていた頃。
その日は大雨で近くに町もなくて、仕方ないからまりあの土スキルで小さな部屋を作った。
部屋といっても、かまくらみたいな簡単なやつ。
まりあの土スキルは本当に優秀で、戦闘でも日常でも使えて応用が利く。これもまりあが賢いからだと思う。
土壁の中にちょっとしたベッドを作って、その上にマントや毛布を敷けばそれなりにいい感じになった。
ベッドは大人二人が寝転んでも平気な広さで作ったのに、王子は頑なにそこで寝ようとはしない。
「じゃあ誰が王様になる筈だったの?」
ベッドの上でブーツを脱いで生足を晒し、こんなにも誘惑しているというのに、ウーヴェは不自然なまでにまりあを見ようとはしなかった。
「父上の姉君だ。とても美しく聡明な方だったと聞く。しかし、恋をして変わってしまった。父上はいつも姉君の肖像画を見上げて呟いている……姉君はつまらない女になってしまったと」
「ふーん」
あ、これ、まりあから意識を逸らす為に話してるんだなと察しが付いた。
まりあの作った土壁の小さなお城は防音も完璧で、雨の音が響かないから、ウーヴェの声がよく聞こえる。ウーヴェの声は、不思議と心地良い。
「姉君は表向きは病死したことになっている。しかし本当は自死なさったのだ。国を捨てるほど恋した男が殺されたから……私は、その男を殺したのは父上ではないかと思っている」
「王様が? お姉さんの恋人殺しちゃったの?」
「父上は聡明な姉君が、恋をしてつまらない女になってしまったことが許せないのだ。だから俺も、同じ状況に陥らせようとしている」
「同じ状況?」
まりあはふくらはぎを揉み揉みする。今日も沢山歩いたからマッサージ。もちろん相手に意識させる為に、わざとやってる。
「スキルを持つ異世界人と旅をさせて、国と恋、どちらを取るのかを見ているんだ。それによって、俺が次期王位継承者に相応しいかどうか、見定めるつもりなんだろう」
「ああ、なるほど。まりあを抱いたらアウト~ってこと?」
「お前とそういう関係になり、王位を捨てようとしたら、ということだろう」
「へえ、王様って面白いこと考えるね」
「正気か? お前は父上に利用されているのに。もっと怒ったっていいんだぞ」
王子の目線がまりあに向けられた。
まりあはスカートの裾を捲って、太ももまで露わにする。
「いいよ、別に。今までだって色んな人がまりあを利用してきたし、まりあだって利用仕返してやった。ウィンウィンってやつだよ」
「ウィ……? お前の使う言葉は時々分からない」
「あれ? 上手く翻訳されてないのかな? まりあ、文字もわかんないし、エダってなんか微妙じゃね?」
「軽口でもそういう発言をするな。俺の前でならともかく、特に神官たちがいる場所では駄目だ」
「王子の前でならいいんだ?」
「お前が、意外と……悪意の無い人間だということは、すでに知っている」
そう言って王子様が近づいてくる。
足を触るだろう、下着に手を突っ込むだろうと思ったのに、伸ばされた男の手は、まりあの前髪を優しく撫でるだけだった。
「明日晴れたら、予定通りモンスター退治に向かう。俺のことは気にせず、早く寝ろ」
「一緒に寝ればいいじゃん。ほら、ベッドも作ったんだよ?」
「俺は床でいい。なんなら立って寝られるように、訓練も受けている」
「王子様なのに~?」
「慣れているから、気にするな。……おやすみ、マリア」
「……おやすみなさーい……」
まりあに触れる指先にも、まりあの名前を呼ぶ声にも、確かに愛が、そこには在るのに。
王子様はまりあを抱こうとはしない。今までの男たちみたいに、褒美をチラつかせて体を触ってきたり、無理矢理押し倒して粗末な男性器を見せつけようとしてきたりとか、そういうことを全然しない。
いっそのこと、手荒く抱いてくれたらいいのに。
そうしたら王子様も他の男も同じか~って、軽蔑出来たのに。
なんでこんなに優しくするんだろう。
どうしたら、もっと、もっと……。
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