異世界八険伝

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新たなる仲間たち

40.作戦会議【推敲済】

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『ミルフェちゃんへ。エリ村は魔人に滅ぼされてた。残っていた魔族を倒し、エリザベート様達のお墓を作った。今は黒の召喚者アイちゃん、金の召喚者アユナちゃん、生存者のリザさん達と一緒にフィーネにいます』

 ボクは悩んだ挙げ句、ギルドの魔導通信でミルフェちゃんにエリ村の残酷な真実を伝えた。

「勇者リンネ様、マスターが2階のマスタールームでお待ちです」

「分かりました、今から向かいます」

 受付の狼耳お姉さんから声を掛けられた。やはりボクたちから事情を説明しないといけないらしい。ギルドマスターに会う前に、ボクは思い切って仲間たちに気持ちを伝えることにした――。

「ボクが言えることじゃないんだけど、聞いてほしい。えっとね、本当に辛いことばかりあったと思うの。けどね、これからもっと辛いことがあるかもしれない。いや、絶対にあると思う。でも、泣いて立ち止まってちゃダメ。みんなで前を向いて戦っていこう。だから、これからは嬉し泣き以外は禁止です! 」

 予想通り、「散々泣いていたお前が言うなよ」って顔をされたけど、4人全員が笑顔で力強く頷いてくれた。

「ありがと! じゃ、マスターに会いに行くよ」



 ★☆★



「あっ……んんっ……そこ……くすぐったい! 」

「意外とこのあたりは敏感なんだね」
「触られると気持ち良さそうだね」
「2つとも大きくて白くて凄く綺麗ですね! 」
「本当に柔らかいんですね」



 ボクたちは今、アユナちゃんを囲んで絶賛弄り中だ。

「うん。動かせるし、魔力を通せば小さく畳むこともできるんだよ! 飛べないけどねっ! 」

 そう言いながら、アユナちゃんは羽をパタパタさせた後に、手のひらサイズに縮めてからまたパタパタやっている。小さいサイズの羽は凄く可愛い。大きな羽は夏に団扇がわりになりそうだ。


「ゴホン、ゴホン。勇者リンネ、その子……天使様が5人目の召喚者と言うことなのだな? 」

 ギルドマスターのゴドルフィンさんが、態(わざ)とらしく咳払いしてボクたちの戯れを中断してきた。本当は一緒に触りたいくせに。でも、土下座して頼まれたって許可しないけどね!

「はい。ボクを含めると、5人が揃いました。ミルフェ王女によると、恐らくは西の王国にあと3つの召喚石があります。あと――」

 ボクは、メルちゃん、レンちゃん、アイちゃん、アユナちゃんをギルドマスターに紹介した。

 その後、エリ村で起きた全ての事実を詳細に伝えた――。




 マスタールームには、ボクたちとギルドマスターの他、ボクやアユナちゃんを眩しそうに見つめながら泣きじゃくるリザさんも居た。


 ギルドマスターは、言いにくそうにしながらも、ようやく重い口を開いた。

「召喚されし勇者の皆様、非力なる我々にどうかお力をお貸し下さい」

 ギルドマスターは、椅子から立ち上がると、唐突に片膝を床に付けて頭を下げる姿勢をとった。北の大迷宮でメルちゃんたちがやってた忠誠ポーズだ――。

 びっくりしたボクたちは、何とか彼を落ち着かせて事情を聴いた。



 彼によると、以前捕縛された魔人ヴェローナからの情報により、フリージア・アルン両国でそれぞれ1人の魔人が人間狩りに動いているらしいことが判明した。

 この数日のうちに大小4つの町や村が滅ぼされ、そのうちの1つがエリ村と言うことだそうだ――。

 ギルド側も冒険者を募って対抗しているが、如何(いかん)せん戦力不足は否めず、拠点防衛で精一杯とのこと。

 さすがに次の攻撃対象についての情報までは得られず、後手に回って追い詰められているそうだ。



 長い沈黙のあと、ボクも心に秘めていた黒い部分を吐き出した――。

「ボクが今すぐにでもやりたいことは2つ。その1つは、当然、魔人の討伐です。エリ村を襲った魔人を絶対に許さない! もう1つは、奴隷制度を無くすこと。どちらも浅はかな考えかもしれませんが――この2つが、今のボクの心に深く刺さる棘なんです」

 ゴドルフィンはボクの目をじっと見つめている。

 皆もボクに視線を合わせて頷いてくれている。

 ボクたちは、そしてこの世界は、これから本格的に魔人との戦いに進んでいくだろう。怖くないと言えば嘘になる。でも、強い意志があれば不可能なことは絶対にない。信じ合える仲間がいれば、どんなことでもきっと乗り越えられる。今回の戦いでみんながそう強く感じたんだ。戦い続けるって決意したんだ!



「俺が……今でも心に抱き続けている……見果てぬ夢がある。まさか……まさか、それをこの場で口にする者がいるなんてな……」

 ゴドルフィンはそう呟くと、大の大人が恥ずかしがりもせず、流れ落ちる涙もそのままに自分の過去を語り始めた。



「俺は元奴隷だ。その事実を知っている者は、今はもう誰も居ない――」

 元奴隷!? 自治都市フィーネの自治長で、大陸全土を束ねるギルドマスターが、元奴隷!? とんでもない成り上がりだよね――でも、この人ならそれも可能かもしれない。

 
「物心がついた頃から奴隷だったので、産まれてすぐに捨てられたか売られたんだろうな。ガキの頃に運よく義母に買われた。義母はその後、このフィーネを興し、俺を解放して養子として育ててくれたんだ。
 大人になった俺は冒険者として成功を収めていった。そんなある時、当時のギルドマスターから後継の話がきた。俺は悩んで義母やギルドマスターに相談したんだ――」

 涙を拭いもせず、遥か遠くを眺めるような目で、当時を思い起こして懐かしく微笑むゴドルフィン――ボクたちは、彼の話に次第に引き込まれていった。


「2人はそんな俺を笑い飛ばしやがった――元奴隷だから遠慮するのかと。元奴隷ならばギルドマスターだけでなくフィーネの自治長もやれと。苦労を知る者にしか幸せの味は分からない、敗北を知る者にしか真の強さは分からない――そう強く言われた記憶がある」

 苦労を知る者にしか幸せの味は分からない、敗北を知る者にしか真の強さは分からない、か――確かにボクもそう思う。上に立つ者こそ、そうであらねばとさえ思う。この人がどうしてフィーネの民の幸せに固執してきたのか、少し分かった気がする。辛い思い出の町だけど、少し好きになれそうな気がする――。


「俺は、ただ運が良かっただけだ。俺と同じような境遇のガキが尽く死んでいくのを見てきたからな。だから、自治長になってすぐに、この町から奴隷制度を無くしてやった。反対派は居たさ。全員追い出してやったがな! そして、俺は俺の夢を叶えるため、大陸中を同じように変えてやるんだって意気込んでギルドマスターも引き受けた――」

 そこまで言った後、ゴドルフィンの表情が一変する。以前に見た怖い顔で俯いてしまう。

「だが、俺は逃げた。1人を救えば2人が不幸に落ちる。そんな社会に嫌気がさしたんだ。俺らが居るここ、この世界はな、弱者を糧にして、その上に成り立っている腐った世界なんだよ。いつの間にか俺も現実から目を背け、下を見なくなった。真っ直ぐ目に見えるものだけを見て生きるようになった――。
 そんな俺の前に、また俺に夢を追いかけさせてくれる者が現れたんだ。もう泣くしかないだろ? 義母や先代に誓った夢、それをまた目指したい。力を貸してほしい。勇者リンネ――」


 ゴドルフィンは顔を上げ、涙も鼻水も拭うことなく真っ直ぐにボクを見ながら、力を貸してほしいと言った。デカい図体をした大の大人が、ボクみたいな子どもに真剣に頼んだんだ。

 当たり前じゃないか。やってやろうじゃないか。どうせ嫌われ者の勇者なんだ。弱き者を救うために、嫌われることを恐れずに立ち向かってやる。ボクは、強い意志で彼の申し出を受け入れようと心に誓った。

 ボクは立ち上がり、彼の前まで歩むと、そっと手を差し伸べる。

 ゴドルフィンの分厚い両手がボクの右手を包み込む。



「その前に、まずは魔人です。魔人に滅ぼされてしまったら誰も助けられない」

 メルちゃんがゴドルフィンの手を跳ね除け、ボクを野獣の手から解放する。嫉妬? 眉間に皺を作って怖い顔をしている――。


「メルちゃんの言う通りだよ! 良い案ある? 」

 レンちゃんも、跪くゴドルフィンを蹴り倒す勢いで加わる。多分、戦ったらギルドマスターより強いよね。


「魔族の軍事拠点をこちらから強襲するのはどうですか? 」

 アイちゃんが“情報収集”を駆使して提案をしてくれる。ボクたちの軍師は心強い。


「リンネちゃんと一緒なら絶対に大丈夫だよ! 私も頑張る! みんなで力を合わせよう! 」

 信頼してくれるのは嬉しいけど、前回1人で暴走して命まで失った小学生の発言じゃないよね――。


「アイちゃんが昨日言ってた大森林近くのあれね。確かに分散して守りに回るよりは、戦力を集中させてこっちから攻める方が良いね! 」

「でも、相手は軍隊だよ? あたしたち個人がいくら集まっても、太刀打ち出来るの? 」

「レンちゃんの言いたいことはボクにも分かる。でも、魔人1人なら勝機は見出せるかもしれない。作戦を考えようよ。今度はこちらから動いて罠に嵌めるんだ――」



 その後、遅くまでボクたちの作戦会議は続いた。

 ギルドマスターもリザさんも、ボクたちを全面的に信頼し、協力してくれる。みんなで力を合わせれば必ず勝てる、勇気が湧いてくる。失われた命は戻らないけど、残された者はみんなの分も背負って生きていくんだ。だから、ボクたちは生き抜くことを絶対に諦めない!

 目指すは大森林に築かれた魔族の軍事拠点、作戦決行は、明日――。
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