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求められし力
71.新たな敵
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行き交う群衆に笑顔はなかった。
朝焼けの空を覆う雲のように、せわしなく走り回る陰鬱な表情。
これが、戦争。それも、人間同士の戦争……。
ボク達は今、地上世界フリージア王国の王都にいる。
四方位に大門を持つ巨大城塞都市、その大東門付近に転移した。2週間ぶりの王都は以前とは違う意味で活況を呈していた。
『リンネちゃん、最後の召還石は桃色だったよね。もしかして……ミルフェ様が召還者って可能性はあるのかな?』
「それ、ボクも真っ先に考えたよ。だから王宮内に転移しなかったの。それに、ピンクの髪って、ミルフェちゃんしか見たことがないからね。この世界でも特殊な髪色なのかもしれない。ウィズによる召還と宣戦布告のタイミング、関係ないと思うほうが無理だよね。でもさ、アユナちゃん以外は異世界からの召還な訳だし、どうなんだろう……クルンちゃん、分かる?」
「ミルフェ様のことは占いには出ていないです。もしかしたら、クルン達のときみたいに召還が失敗した可能性もあるです。召還権限がない場合は、相応の儀式が必要なはずです……」
「失敗?そっか!ウィズが召還したんだもんね!異世界じゃなくて、中途半端にこの世界から魂を引き寄せたのかも。そうすると、アユナちゃんみたいに記憶を失っていない可能性もあるのか……」
ボク達は話しながらも、早足で雑踏を進んでいく。
王都の民衆の多くは、戦乱を避けるために西のアルンを目指しているようだ。王宮に向かうボク達とは反対方向に進む流れが出来上がっていた。
やっとのことで500mの道のりを進むと、白と赤を基調にした立派な王宮が見えてきた。案の定、警備が手厚い。王宮と同じ白と赤の重厚な甲冑を身にまとった兵士が10人ほど立っている。誰もが侵入者を許すまじという、気迫のこもった険しい表情だった。
「中に入れてもらえるかな?」
『えっ?リンネちゃんなら大丈夫でしょ?』
「捕まって地下牢行きはもう嫌だよ!やばそうだったら王宮の中に転移するからね?」
「あの~、リンネと申します。ミルフェ様に会いに来たんですが……」
恐る恐る近づいて話しかけてみた。こういう時にメルちゃんが居てくれると助かるんだよね。全部お任せでここまでやってきたボクには荷が重い。ニューアルンに寄ってメルちゃん達も連れてくれば良かったかな。なんだか兵士の視線が怖い……。
『リンネ様?本物か!?』
「失礼です!こんな天使のような美少女が他にいる訳がないです!!」
『えっと、クルンちゃん……天使は私なんだけどね』
兵士達がたくさん集まってきたよ。皆の視線がアユナちゃんの羽に集まる……。
『大変失礼致しました!!』
『案内させていただきます、どうぞこちらへ』
そうだね、ボクよりアユナちゃんの方が有名だよね!
でも、安心した。ミルフェちゃんがボク達を排除したらどうしようって心配していたから。
先導役の兵士2名の後ろに金魚の糞よろしくお子様3人がついていく。
庭を越え、門扉を潜り、廊下を進む。道中も、尋常ならざる兵士の数……。ただ事ではない緊張感がひしひしと伝わる。
やがて、兵士達の足が止まる。
ボク達は、謁見の間ではなく、以前に三者会談が行われた閣議室に通された。
『中でしばらくお待ちください』
そう言い残すと、兵士達は駆け足で去っていく。
ボク達は遠慮なく中に入る。この前来たときには座れなかった椅子……正方形のテーブルの四辺に置かれたそれを眺める。よく見ると、テーブルの角にある彫像と同じような柄のレリーフが椅子にも施されている。竜と獅子と……それと、人と天使だろうか。悩んだ挙句、竜の椅子に遠慮深く座った。アユナちゃんは天使の席に、クルンちゃんは獅子の席にちょこんと座る。
『なんか、偉くなった気分だよね!』
「クルンもです。獅子の椅子なんて恐れ多いです……」
「ふふっ、皆同じこと考えてるみたい。なんか、落ち着かなくてお尻がムズムズする!」
ボク達がはしゃいでいると、扉の向こう側から足音が近づいてきた。3人……?
ボク達の視線が扉に集中する。
話し声と共に扉が開く。
最初に入ってきたのは、金髪にツンツン頭の長身……ランゲイル隊長だ!
次に、赤い髪の細身の青年……“竜の牙”のハルトさんだ。
そして最後に……。
『では私は扉の前で警護に当たりますので!』
『宜しく頼む』
さっきの案内してくれた兵士さんだった……。
あれ?ミルフェちゃんは来てくれないの!?
どかどかと大股で歩み寄る2人は、ボクの正面にある人間のレリーフが施された椅子に座った。当然、椅子は1つ、大人が2人。紙一重でランゲイルさんのお尻が敗れ去る。微妙な表情を浮かべながら部屋の隅に置かれた丸椅子を持ってきて、改めてどっかりと座る。
険しい表情がやや崩れ、ランゲイルさんが話しかけてくる。
『リンネ、お前の言いたいことは分かっているつもりだ。愛弟子だからな!』
「……」
『師匠は相変わらずカッコいいですね、と言いたいんだろ?』
「違います」
『ははっ、冗談だ。椅子を取り替えてあげましょうか、と言いたいんだろ?』
「全然違います」
『はははっ!知っている、お前が恥ずかしがり屋さんだってことはな!じゃぁ、あれだ!2週間でこんなに胸が育ちましたって見せに来たんだろ?』
でたな、セクハラ!このセクハラおじさんのペースに乗ってしまったらダメだ。こっちから先手を打たないと!
アユナちゃんが杖で小さな木竜を作っている。クルンちゃんも尻尾の毛を逆立てて、剣の柄に手を伸ばしている……やばい、戦闘態勢だ。
「ハルトさん、ミルフェちゃんはどこにいますか?」
『リンネ様、僕を覚えてくれていたんですね、感激です!でも、ミルフェ王ですが……』
そこまで言うと、ハルトさんは言葉を詰まらせてランゲイルさんを見る。
ランゲイルさんは、腕を組み、俯きながら静かに頷いている。
『失礼。ミルフェ王は連れ去られました……僕達がいながら、申し訳ありません……』
「『えっ!?』」
ボク達が王宮に来たとき、ランゲイル隊長さんは全てを打ち明ける決意をしたそうだ。
彼によると、その事件は2日前の早朝に起きた。
ミルフェちゃんがいつも通りに食事と入浴を済ませて寝室に向かったことは、侍女達が見ていた。侍女の部屋はミルフェちゃんの部屋を囲むように設けられている。王宮の暗黙上のルールとして、ミルフェちゃんの部屋の明かりが消えてから1時間後に侍女達は就寝することになっている。その夜も、いつもと変わらなかった。
皆が寝静まる中、1人の侍女が物音を聞いて目を覚ました。侍女と側近がミルフェちゃんの部屋へ急ぎ入ってみると、既に彼女の姿はなかった。動くものと言ったら、割られた窓から入る風で揺れるカーテンのみだったそうだ。
間髪入れずに検証と追跡が行われた。
窓は内側から割られていたが、2階の窓から飛び降りたであろう足跡は地上には残されていなかった。しかし、警備の兵士達数人によって、“白い衣を纏った複数の者”が飛ぶようにして王宮から逃げ去る姿が目撃されていたのだ。
逃げた方角と服装から、クルス光国に疑いの目が向けられた。ヴェルサス前国王の指示で編成された追跡部隊は、王都南方の霊峰ヴァルムホルンまで来て追跡を断念することになったが、追跡の途上に残された遺留物から、犯行がクルス光国よるものだと断定された。ここに至って、ヴェルサス前国王により、フリージア王国はクルス光国に宣戦布告をした……。
現在、既にフリーバレイの拠点は制圧され、王国軍1500人からなる部隊が南進を始めていると言う。
「ちょっと待って!それだけでクルス光国だって断定できる訳ないよね?おかしいでしょ!だって、ミルフェちゃんが自分の意思で行ったかも知れないし、白い服なんて……」
『最初はエンジェルウイングを疑う者もいた。飛行魔法が使える者がいるからな。しかし、ヴェルサス様が絶対に有り得ないと言い切ったのだ』
「『……』」
「クルスも有り得ないです!クルンはそう信じるです!」
『クルスではないとする証拠もない』
「『……』」
落ち着け……ウィズに召還されたのがミルフェちゃんなら、無意識にでもウィズを探しに本人が動く可能性はある。でも、ミルフェちゃんは飛行魔法が使えない。それに、“白い衣を纏った複数の者”という証言とも相容れない。
違う場合はどうか。ウィズに召還された者がクルス光国に所属する者だったら?一部、辻褄は合う。でも、何の為にミルフェちゃんを浚う?それに、ウィズは魔界に居たはず……一緒に行動していたのは仲間?それとも、何かの組織ぐるみの犯行?
『リンネちゃん……これって、召還と何か関係があるよね?』
「そう思う。ランゲイルさん、ハルトさん……実は、魔人ウィズに最後の召還石を奪われて使われたの。恐らく、召還者は桃色の髪をしている……」
『『何だって!?』』
「召還された者は、召還した者、つまり魔人ウィズの魂に従う。洗脳とかではないよ?ボクと仲間達みたいな感じだと思う。もしミルフェちゃんが召還者だとしたら、ウィズを探しているのかもしれない。勿論、断定はできないけどね!」
(アイちゃん、今の話、聞いてた?)
(はい。まさかミルフェ様が……でも、この件にエンジェルウイングは係わっていません。これは確実です。それに、クルス君も係わっていないようです。確認が取れています)
(良かった!ありがとう、安心した!)
(安心はできません。ウィズの指示なのか、召還者の意思なのか分かりませんが、犯人の狙いは大陸全土を巻き込む戦争だと思います。早く見つけ出して止めないと!)
(戦争……でも、この広い大陸からどうやって見つけ出すの!?)
(まずは宣戦布告を取り消させてください!アルンの方はわたし達に任せてください、罠を張ります)
(分かった!)
『魔人かよ……リンネ、俺らは一体どうすればいいんだ?』
「今、アイちゃんから情報を確認しました。クルス光国は無実です。即時停戦を!宣戦布告を解除してください!!」
★☆★
白い街、白い城……ボク達はクルス光国に転移した。
神殿の結界のせいで、以前のように都の外から入ることになった。
ここでも民衆は慌しく逃げ惑っている。主力軍はフリーバレイに進軍してしまい、聖都ムーンライトを守るのは僅か500人ほどの留守番部隊のみ。2日前にフリージア王都を発った王国軍は、4日後には到達するものと思われる。それまでに停戦の急使が送られる手筈にはなっているけど、不安は残る。
『リンネ様!?クルン姉様!!あぁ、良かった……』
例の白い部屋の中には、悲嘆に暮れる教皇のクルス君と最高司祭シラヌイさんがいた。
「クルス君、久し振り!フリージア王国は停戦を決定したよ!ただ、王都を既に出発した遠征軍への連絡はまだ……」
『それでも助かります!戦争なんて嫌です!!』
クルス君が泣きながらボクに抱き付いてくる。さらりと身を交わし、クルンちゃんに押し付ける。もふもふは後回しだ。
「アイちゃんから聞いていると思うけど、ミルフェちゃんが浚われた。囚われているなら一刻も早く助けたいの!犯人はクルス光国の、拝光教の格好をしていたらしい。憶測だけど、タイミング的に魔人ウィズが召還した者が係わっていると思う。心当たりはない?」
『そう言われましても……僕は神殿から出たことがないんですよ?』
『拝光教の格好ですと?異端の一派が東の大森林を拠点にしていると聞いたことがありますぞ』
「東の大森林って……エリ村がある所か!」
アユナちゃんと目が合う。微妙に歪んだ表情が悲しみを映し出している。魔族といい、異端一派といい、聖なるエルフの森が犯されるのは気持ちが良くないはずだ。
『リンネちゃん……私は大丈夫だから、今すぐに行こう!』
「クルス、しっかり国を守るですよ!クルンはリンネ様を守るです!」
『リンネ様!姉様!僕にお任せくださいです!シラヌイさん、こちらも停戦宣言してきてください!』
クルス君、大丈夫だろうか……大変だけど、頑張ってね!
★☆★
今日何度目の転移だろうか……。
ボク達は、今度は大森林の入り口に来ている。ここは初めてミルフェちゃんに会った場所だ。まだ正午前なのに空が薄暗いせいか、見慣れた森が不気味に感じられる。この森の中にミルフェちゃんがいる可能性があるんだ。人質にされているのなら、相手に気づかれないように気をつけないと!
『リンネちゃん、森の中が騒がしい!早く行こう!!』
「案内お願い!」
隠密行動よりスピードを重視することになった。飛ぶように駆けるアユナちゃんを追って、ボクとクルンちゃんも全力で走る!戦闘になっても大丈夫、魔力は9割近く残っている!
鳥の鳴き声が木霊する中、30分ほど走ると少し開けた場所に出た。
そこには、黒い土を加工して造られたような壁と、その上に聳える黒い塔があった。
そう言えば、シラヌイさんが以前呟いていた。拝光教の異端の中でも最も邪悪な……光が作り出す影の存在にこそ光を崇拝する意義がある、という教義を持つ一派、影を崇拝対象とする暗殺者集団がいるということを……。
そして、この瞬間から、ボク達の運命が大きく変わることになる。
朝焼けの空を覆う雲のように、せわしなく走り回る陰鬱な表情。
これが、戦争。それも、人間同士の戦争……。
ボク達は今、地上世界フリージア王国の王都にいる。
四方位に大門を持つ巨大城塞都市、その大東門付近に転移した。2週間ぶりの王都は以前とは違う意味で活況を呈していた。
『リンネちゃん、最後の召還石は桃色だったよね。もしかして……ミルフェ様が召還者って可能性はあるのかな?』
「それ、ボクも真っ先に考えたよ。だから王宮内に転移しなかったの。それに、ピンクの髪って、ミルフェちゃんしか見たことがないからね。この世界でも特殊な髪色なのかもしれない。ウィズによる召還と宣戦布告のタイミング、関係ないと思うほうが無理だよね。でもさ、アユナちゃん以外は異世界からの召還な訳だし、どうなんだろう……クルンちゃん、分かる?」
「ミルフェ様のことは占いには出ていないです。もしかしたら、クルン達のときみたいに召還が失敗した可能性もあるです。召還権限がない場合は、相応の儀式が必要なはずです……」
「失敗?そっか!ウィズが召還したんだもんね!異世界じゃなくて、中途半端にこの世界から魂を引き寄せたのかも。そうすると、アユナちゃんみたいに記憶を失っていない可能性もあるのか……」
ボク達は話しながらも、早足で雑踏を進んでいく。
王都の民衆の多くは、戦乱を避けるために西のアルンを目指しているようだ。王宮に向かうボク達とは反対方向に進む流れが出来上がっていた。
やっとのことで500mの道のりを進むと、白と赤を基調にした立派な王宮が見えてきた。案の定、警備が手厚い。王宮と同じ白と赤の重厚な甲冑を身にまとった兵士が10人ほど立っている。誰もが侵入者を許すまじという、気迫のこもった険しい表情だった。
「中に入れてもらえるかな?」
『えっ?リンネちゃんなら大丈夫でしょ?』
「捕まって地下牢行きはもう嫌だよ!やばそうだったら王宮の中に転移するからね?」
「あの~、リンネと申します。ミルフェ様に会いに来たんですが……」
恐る恐る近づいて話しかけてみた。こういう時にメルちゃんが居てくれると助かるんだよね。全部お任せでここまでやってきたボクには荷が重い。ニューアルンに寄ってメルちゃん達も連れてくれば良かったかな。なんだか兵士の視線が怖い……。
『リンネ様?本物か!?』
「失礼です!こんな天使のような美少女が他にいる訳がないです!!」
『えっと、クルンちゃん……天使は私なんだけどね』
兵士達がたくさん集まってきたよ。皆の視線がアユナちゃんの羽に集まる……。
『大変失礼致しました!!』
『案内させていただきます、どうぞこちらへ』
そうだね、ボクよりアユナちゃんの方が有名だよね!
でも、安心した。ミルフェちゃんがボク達を排除したらどうしようって心配していたから。
先導役の兵士2名の後ろに金魚の糞よろしくお子様3人がついていく。
庭を越え、門扉を潜り、廊下を進む。道中も、尋常ならざる兵士の数……。ただ事ではない緊張感がひしひしと伝わる。
やがて、兵士達の足が止まる。
ボク達は、謁見の間ではなく、以前に三者会談が行われた閣議室に通された。
『中でしばらくお待ちください』
そう言い残すと、兵士達は駆け足で去っていく。
ボク達は遠慮なく中に入る。この前来たときには座れなかった椅子……正方形のテーブルの四辺に置かれたそれを眺める。よく見ると、テーブルの角にある彫像と同じような柄のレリーフが椅子にも施されている。竜と獅子と……それと、人と天使だろうか。悩んだ挙句、竜の椅子に遠慮深く座った。アユナちゃんは天使の席に、クルンちゃんは獅子の席にちょこんと座る。
『なんか、偉くなった気分だよね!』
「クルンもです。獅子の椅子なんて恐れ多いです……」
「ふふっ、皆同じこと考えてるみたい。なんか、落ち着かなくてお尻がムズムズする!」
ボク達がはしゃいでいると、扉の向こう側から足音が近づいてきた。3人……?
ボク達の視線が扉に集中する。
話し声と共に扉が開く。
最初に入ってきたのは、金髪にツンツン頭の長身……ランゲイル隊長だ!
次に、赤い髪の細身の青年……“竜の牙”のハルトさんだ。
そして最後に……。
『では私は扉の前で警護に当たりますので!』
『宜しく頼む』
さっきの案内してくれた兵士さんだった……。
あれ?ミルフェちゃんは来てくれないの!?
どかどかと大股で歩み寄る2人は、ボクの正面にある人間のレリーフが施された椅子に座った。当然、椅子は1つ、大人が2人。紙一重でランゲイルさんのお尻が敗れ去る。微妙な表情を浮かべながら部屋の隅に置かれた丸椅子を持ってきて、改めてどっかりと座る。
険しい表情がやや崩れ、ランゲイルさんが話しかけてくる。
『リンネ、お前の言いたいことは分かっているつもりだ。愛弟子だからな!』
「……」
『師匠は相変わらずカッコいいですね、と言いたいんだろ?』
「違います」
『ははっ、冗談だ。椅子を取り替えてあげましょうか、と言いたいんだろ?』
「全然違います」
『はははっ!知っている、お前が恥ずかしがり屋さんだってことはな!じゃぁ、あれだ!2週間でこんなに胸が育ちましたって見せに来たんだろ?』
でたな、セクハラ!このセクハラおじさんのペースに乗ってしまったらダメだ。こっちから先手を打たないと!
アユナちゃんが杖で小さな木竜を作っている。クルンちゃんも尻尾の毛を逆立てて、剣の柄に手を伸ばしている……やばい、戦闘態勢だ。
「ハルトさん、ミルフェちゃんはどこにいますか?」
『リンネ様、僕を覚えてくれていたんですね、感激です!でも、ミルフェ王ですが……』
そこまで言うと、ハルトさんは言葉を詰まらせてランゲイルさんを見る。
ランゲイルさんは、腕を組み、俯きながら静かに頷いている。
『失礼。ミルフェ王は連れ去られました……僕達がいながら、申し訳ありません……』
「『えっ!?』」
ボク達が王宮に来たとき、ランゲイル隊長さんは全てを打ち明ける決意をしたそうだ。
彼によると、その事件は2日前の早朝に起きた。
ミルフェちゃんがいつも通りに食事と入浴を済ませて寝室に向かったことは、侍女達が見ていた。侍女の部屋はミルフェちゃんの部屋を囲むように設けられている。王宮の暗黙上のルールとして、ミルフェちゃんの部屋の明かりが消えてから1時間後に侍女達は就寝することになっている。その夜も、いつもと変わらなかった。
皆が寝静まる中、1人の侍女が物音を聞いて目を覚ました。侍女と側近がミルフェちゃんの部屋へ急ぎ入ってみると、既に彼女の姿はなかった。動くものと言ったら、割られた窓から入る風で揺れるカーテンのみだったそうだ。
間髪入れずに検証と追跡が行われた。
窓は内側から割られていたが、2階の窓から飛び降りたであろう足跡は地上には残されていなかった。しかし、警備の兵士達数人によって、“白い衣を纏った複数の者”が飛ぶようにして王宮から逃げ去る姿が目撃されていたのだ。
逃げた方角と服装から、クルス光国に疑いの目が向けられた。ヴェルサス前国王の指示で編成された追跡部隊は、王都南方の霊峰ヴァルムホルンまで来て追跡を断念することになったが、追跡の途上に残された遺留物から、犯行がクルス光国よるものだと断定された。ここに至って、ヴェルサス前国王により、フリージア王国はクルス光国に宣戦布告をした……。
現在、既にフリーバレイの拠点は制圧され、王国軍1500人からなる部隊が南進を始めていると言う。
「ちょっと待って!それだけでクルス光国だって断定できる訳ないよね?おかしいでしょ!だって、ミルフェちゃんが自分の意思で行ったかも知れないし、白い服なんて……」
『最初はエンジェルウイングを疑う者もいた。飛行魔法が使える者がいるからな。しかし、ヴェルサス様が絶対に有り得ないと言い切ったのだ』
「『……』」
「クルスも有り得ないです!クルンはそう信じるです!」
『クルスではないとする証拠もない』
「『……』」
落ち着け……ウィズに召還されたのがミルフェちゃんなら、無意識にでもウィズを探しに本人が動く可能性はある。でも、ミルフェちゃんは飛行魔法が使えない。それに、“白い衣を纏った複数の者”という証言とも相容れない。
違う場合はどうか。ウィズに召還された者がクルス光国に所属する者だったら?一部、辻褄は合う。でも、何の為にミルフェちゃんを浚う?それに、ウィズは魔界に居たはず……一緒に行動していたのは仲間?それとも、何かの組織ぐるみの犯行?
『リンネちゃん……これって、召還と何か関係があるよね?』
「そう思う。ランゲイルさん、ハルトさん……実は、魔人ウィズに最後の召還石を奪われて使われたの。恐らく、召還者は桃色の髪をしている……」
『『何だって!?』』
「召還された者は、召還した者、つまり魔人ウィズの魂に従う。洗脳とかではないよ?ボクと仲間達みたいな感じだと思う。もしミルフェちゃんが召還者だとしたら、ウィズを探しているのかもしれない。勿論、断定はできないけどね!」
(アイちゃん、今の話、聞いてた?)
(はい。まさかミルフェ様が……でも、この件にエンジェルウイングは係わっていません。これは確実です。それに、クルス君も係わっていないようです。確認が取れています)
(良かった!ありがとう、安心した!)
(安心はできません。ウィズの指示なのか、召還者の意思なのか分かりませんが、犯人の狙いは大陸全土を巻き込む戦争だと思います。早く見つけ出して止めないと!)
(戦争……でも、この広い大陸からどうやって見つけ出すの!?)
(まずは宣戦布告を取り消させてください!アルンの方はわたし達に任せてください、罠を張ります)
(分かった!)
『魔人かよ……リンネ、俺らは一体どうすればいいんだ?』
「今、アイちゃんから情報を確認しました。クルス光国は無実です。即時停戦を!宣戦布告を解除してください!!」
★☆★
白い街、白い城……ボク達はクルス光国に転移した。
神殿の結界のせいで、以前のように都の外から入ることになった。
ここでも民衆は慌しく逃げ惑っている。主力軍はフリーバレイに進軍してしまい、聖都ムーンライトを守るのは僅か500人ほどの留守番部隊のみ。2日前にフリージア王都を発った王国軍は、4日後には到達するものと思われる。それまでに停戦の急使が送られる手筈にはなっているけど、不安は残る。
『リンネ様!?クルン姉様!!あぁ、良かった……』
例の白い部屋の中には、悲嘆に暮れる教皇のクルス君と最高司祭シラヌイさんがいた。
「クルス君、久し振り!フリージア王国は停戦を決定したよ!ただ、王都を既に出発した遠征軍への連絡はまだ……」
『それでも助かります!戦争なんて嫌です!!』
クルス君が泣きながらボクに抱き付いてくる。さらりと身を交わし、クルンちゃんに押し付ける。もふもふは後回しだ。
「アイちゃんから聞いていると思うけど、ミルフェちゃんが浚われた。囚われているなら一刻も早く助けたいの!犯人はクルス光国の、拝光教の格好をしていたらしい。憶測だけど、タイミング的に魔人ウィズが召還した者が係わっていると思う。心当たりはない?」
『そう言われましても……僕は神殿から出たことがないんですよ?』
『拝光教の格好ですと?異端の一派が東の大森林を拠点にしていると聞いたことがありますぞ』
「東の大森林って……エリ村がある所か!」
アユナちゃんと目が合う。微妙に歪んだ表情が悲しみを映し出している。魔族といい、異端一派といい、聖なるエルフの森が犯されるのは気持ちが良くないはずだ。
『リンネちゃん……私は大丈夫だから、今すぐに行こう!』
「クルス、しっかり国を守るですよ!クルンはリンネ様を守るです!」
『リンネ様!姉様!僕にお任せくださいです!シラヌイさん、こちらも停戦宣言してきてください!』
クルス君、大丈夫だろうか……大変だけど、頑張ってね!
★☆★
今日何度目の転移だろうか……。
ボク達は、今度は大森林の入り口に来ている。ここは初めてミルフェちゃんに会った場所だ。まだ正午前なのに空が薄暗いせいか、見慣れた森が不気味に感じられる。この森の中にミルフェちゃんがいる可能性があるんだ。人質にされているのなら、相手に気づかれないように気をつけないと!
『リンネちゃん、森の中が騒がしい!早く行こう!!』
「案内お願い!」
隠密行動よりスピードを重視することになった。飛ぶように駆けるアユナちゃんを追って、ボクとクルンちゃんも全力で走る!戦闘になっても大丈夫、魔力は9割近く残っている!
鳥の鳴き声が木霊する中、30分ほど走ると少し開けた場所に出た。
そこには、黒い土を加工して造られたような壁と、その上に聳える黒い塔があった。
そう言えば、シラヌイさんが以前呟いていた。拝光教の異端の中でも最も邪悪な……光が作り出す影の存在にこそ光を崇拝する意義がある、という教義を持つ一派、影を崇拝対象とする暗殺者集団がいるということを……。
そして、この瞬間から、ボク達の運命が大きく変わることになる。
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第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
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