異世界八険伝

AW

文字の大きさ
89 / 98
明日への道

87.邪神との闘い1

しおりを挟む
 時々、会話を中断させるほど強くなってきた風。
 舞い散る桜の花びらも、その1枚1枚を見れないほど地面と水平に飛び荒む。

 ここは天界だけど、地下空間のはず。どういう原理で風が起きるのかは分からないけど、この風にいい感じはしない。ボクとミルフェちゃん、アユナちゃんの3人は、天神と魔神をサクラちゃんに任せて家の外に出ることにした。


 見上げると、電気が通っていないはずの家には、電線が3本繋がっている。ちょうど頭上からまっすぐ伸びていて、ずっと先の東京タワーのような所に繋がっている。その背景はどこまでも澄み切った青い空だ。その2色のコントラストを見ていると、すっと空に吸い込まれるような、お腹がスーッとするような感覚に襲われる、とても綺麗な空だった。

 ふと、その2色に別の色が混じる。
 黒い線と垂直に交わるように飛んでいく白い影。1つ、2つ、そして3つめの黒を越えていく。
 
「飛行機? 違う、鳥かな? 」

 空を見上げて呟くボクに反応して、周囲の森を警戒していた2人も空を見上げる。

「白……邪神だよ、あれ! 」

 アユナちゃんの叫ぶ声と同時に、その白いモノは弧を描くように急降下してこっちに向かってきた!


 広いとは言えない庭の中で、ボクたちはそれと向き合う。

「シルフィ! 負けないで! 戻ってきて!! 」

 両のこぶしをぎゅっと握り、精一杯の声を張り上げるアユナちゃん。
 邪神――あの火口で出会った少女は、血走る眼を向けて今にも飛びかかってきそうな雰囲気だ。アユナちゃんの声は届いていない……。

「村の皆も待ってるから! 私も時々遊びに行くから! そんな奴に負けちゃダメだよ!! 」

 村?

 あっ……この子、見覚えがある!
 エリ婆さんに召還されたその日、エリ村で出会ってる! 広場でアユナちゃんと一緒に遊んでいた子だ……。
 
 そうだった、あの日も……魔族に殺されて……残虐な、残虐すぎる殺され方で……家族と一緒に埋葬した……。想像を絶する光景がボクの頭を支配する。あのとき感じた深い悲しみ、怒り、絶望が甦る。

 今、ボクの目の前に居る女の子は……恐らくは、敵。でも、怒りをぶつける対象ではない。複雑な感情がひしめき合い、判断を鈍らせる。

『魂を、よこせ!! 』

 ボクの一瞬の迷いをついたかのようなタイミングで、邪神が飛びかかってきた!


 歯茎を剥き出しにした口がボクの首に迫る瞬間、まさに紙一重で右手が反応した。カウンタースキルだ。棒の先端が固いものを捉えた感触があった。

 無表情で数歩後ずさった邪神……魔法じゃなければ、単純な物理攻撃なら倒せる!?

 横に大きく振りかぶり、居合い斬りのように踏み込んで右から薙ぎ払う!

「ダメっ! 」
「あぶな――」

 グキっという鈍い音が風に乗って響き渡る。

 ボクの手にはさっきと違う、何かを壊した感覚があった。

「「アユナちゃん!? 」」

「いたっ……殺さないで……殺さないで……お願いだから……お願い……」

 邪神――シルフィを庇うため、間に割り込んできたアユナちゃん……片腕は肘から先が……無い。辛うじてぶら下がる残りの腕でシルフィを庇いながら、大粒の涙を流し、必死に友達を助けてくれるように懇願する。

 えっ……ボクがアユナちゃんを傷つけた……。身体も、心も……。雷が墜ちる。全身から全ての力が抜けていく。


「聖なる光よ、彼の者の身体を癒したまえ! ヒール!! 」

 アユナちゃんの両腕が黄金色の光に包まれるのが見える。その後ろでは、白く綺麗な腕を貪るように喰い散らかす邪神が見える。

 座ったまま、無我夢中で骨を噛み砕き咀嚼する音が、ボクの罪悪感と嘔吐を引き出す。


「シルフィを助けてよ! レンちゃんが戦った魔王は分身を振り払ったんでしょ! 」

「自我が無い時点で手遅れだと思うけど? 」

「ミルフェちゃんの力ならできるんでしょ! 」

「その子次第なのよ! 」

「何でよ……シルフィは誰よりも優しい子なのに……何で助からないの? 」

「優しさじゃない!  必要なのは強さよ! 」

「違う、違うよ! 本当に必要なのは優しさだよ!! 」


 ボクとシルフィの間で激しく言い争う2人……そのぼやけた輪郭が目に映る。


 ボクには何ができる?何をすればいい?何をしなければいけない?

 ぐるぐると頭の中を疑問が浮かぶけど、考えが浮かばない、答えが見つからない……。誰か教えてよ、メルちゃん……レンちゃん……アイちゃん!



 邪神(シルフィ)は、最後に残った指まで喰い尽くすと、口の周りを真っ赤に染め上げたままゆっくり立ち上がる。ただ、その目からは血が、いや、血の涙が流れ落ちていた。


 その姿はボクに強い決意を呼び覚ました。ボクの決意――それは、全てを救うこと。ここには敵は居ない……誰も? 誰も!



 女の子座りの姿勢から、浮遊魔法で一気に飛び上がる!



「時間遅滞!! 」


 桜の花びらは、空に浮かぶ満開の星となる。よく見ると、雲のように流れていると思うけど、そんなの見る余裕はない!


 ミルフェちゃんの足元まで飛ぶと、グーの状態に強く握り締められているミルフェちゃんの右手を強引に開きにかかる。

 固い……でも、何とか指をねじ込んでこじ開け、ボクの武器を握らせる。
 

 時間がない、次はアユナちゃんだ。
 

 浮遊魔法でアユナちゃんの前まで飛ぶ。勢い余って身体にぶつかってしまった。落ち着け、自分。アユナちゃんを抱き締めて5mほど離れた場所まで運ぶ。

 ピンクに上気した頬にそっと唇を寄せる。絶対に助けるからね……聴こえないと思うけど、そっと耳元で囁く。

 よし、次は……。


 邪神(シルフィ)の背後に回る。

 両腕の脇の下から手を挿し入れ、白いうなじを包み込むように、指を交差させて首の後ろでがっちり組む。身長はアユナちゃんよりは高いけど、ボクよりは低い感じだ。

 両手に力が入るよう、両脚を肩幅まで広げて踏ん張る!


 その時、スキルの効果が切れた!

 満天の星々と化していた花びらが流星のように舞う。

「ミルフェちゃん! お願い!! 」

 突然の状況の変化に、無言で固まっていたミルフェちゃんの口元が緩む。

「うぉぉぉ!! 」

 両手で握った棒を、後ろに大きく振りかぶったまま気合の掛け声と共に走ってくる。
 この状況とボクの意図を瞬時に理解し、行動に移せるところが凄い。さすがミルフェちゃんだ!


「邪神、ボクの魂を食べてみな!! 」
(シルフィちゃん、頑張って!! )

 口と心が同時に叫ぶ。

『ギョエァァァ!! 』

 奇声を上げて暴れる身体を、全身全霊の力を込めて押さえ込む!
 
 振り回された腕が、爪がボクを切り刻む。脚がボクを蹴り続ける。それでも、それでも絶対に離すもんか!


 その時、髪を左右に激しく振り乱していた邪神(シルフィ)の頭部から、何かが湧き出てきた。

「ミルフェちゃん!! 」

 ちょうどこのタイミングを待っていたかのように、ミルフェちゃんの全力の一撃が邪神(シルフィ)の“頭部”を分断する!

『ギィィ!? 』

 地に堕ちた子鬼は、驚愕の眼でミルフェちゃんを見る。

「覚悟しなさい! たっぷり調教してあげるから!! 」


 邪神の分身が白い靄となって消えるまで、ミルフェちゃんの調教は続いた……。



 白いコンクリートの上に力を使い果たしてぐったり座り込む。

 目の前には、倒れ込んだシルフィを抱き締めて号泣するアユナちゃん、そのアユナちゃんの横で必死に回復魔法を連呼するミルフェちゃんが見える。


 シルフィの意識が戻らない!?
 カーリーのときのように上手くいかなかった!?

 ボクの目に映る現実(シルフィ)は赤……。
 白い髪、白いワンピースが、頭部から流れる鮮血に染まっていた。
  

 
 その時、ボクの背後で何かが蠢いた!

 白いコンクリートがふわっと盛り上がったかと思うと、ヴェールで包み込むようにボクの頭上に広がる。


 そう言えば、シルフィに憑いていたのは分身だっけ……本体はまだどこかに居るかもしれない。それに気付いた時、既にボクの視界は真っ白に染まっていた。

 油断した……。
 邪神に……吸収されちゃった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】 台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う! この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。 空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。 台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、 誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。 ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、 先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。 ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、 ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……? 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。 ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。 空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...