嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)

第3-1節:裏切りの凶刃

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 何が起きたのか分からず、私の心臓は一瞬ドキッと大きく跳ねる。緊張で思わず唾を飲み込む。視線だけをゆっくりと動かして周囲を見回してみると、暗殺者アサッシンたち以外の全員が息を呑んでこちらに注目している。

 直後、背後から誰かの腕が回され、私は羽交い締めにされた。依然として首には冷たさを感じている。

 柔らかな体の感触と熱い体温。さらによく知った人物の匂いが鼻に伝わってくる。

 そのことで私はようやく状況を理解した。私はから身体を拘束され、首にナイフを突きつけられていたのだ。



「……全員、武器を捨てて私たちから離れるのです」

 今までに聞いたことのない、冷たく重苦しいポプラの声――。

 ゼファルさんやソフィアちゃん、兵士さんたちは驚愕きょうがくと絶望に満ちたような瞳で彼女や人質となった私を呆然と見ている。

 リーザさんはやや焦りつつも基本的には冷静。そしてリカルドとナイルさんは暗殺者アサッシンたちと対峙して以来、ずっと厳しい表情をしたままで特に目立った変化は見られない。ただ、その三人はピタリと身動きを止め、今後の成り行きをうかがっている。

 ……あれ? 私はこんな危機的な状況に立たされているのに、不思議なくらいに落ち着いているのはなぜだろう?


 …………。

 あぁ、そっか……そういうことか……。


 きっとポプラのこうした行動も、いつかどこかであってもおかしくないと無意識のうちに感じていたからだろうな。納得というか、覚悟が出来ていたみたいな。



 私がフィルザードへ嫁いでから、現在までに起きた複数のアクシデント――。

 いずれもポプラが裏で動いていたと考えれば、合点のいくことが多かった。いつからか私は様々な状況から、なんとなくそのことに気付いていた。

 でも彼女を信じて何も問いたださず、胸の奥にしまったままでいた。なぜなら彼女はそうした行動をやりたくてやったんじゃなくて、何か理由があって仕方なくやっていたのだという気がしてならなかったから。

 その証拠に、今も彼女の手や唇はありの身震いと同等かというくらいかすかに揺動している。周りに向けている敵意に満ちた瞳も、その奥には悲しみと苦しみが潜んでいると私には分かる。

 もっとも、そのことにリカルドたちも暗殺者アサッシンたちも、ポプラ自身でさえも気付いていないだろうけど。

 私は物理的にも精神的にも、ずっとポプラの一番近くで過ごしてきた。今だってこの場の誰よりもそばにいる。だから彼女が本心を押し留め、偽りの姿を演じているのがハッキリ分かる。

 ……でもそこまでのことをしなければならないなんて、裏には相当深刻な事情があるんだろう。私は神様じゃないから、話してくれないとその事実まで知ることは出来ないけれど……。

「全員、武器を捨てて私たちから離れるのです。早くしないとシャロンさ……っ……シャロンの命は……ないのですっ!」

「ポプラっ、お前ッ! どうしちまったんだよっ?」

 ゼファルさんは激しく動揺しながらポプラの目を見て問いかけた。それに対してポプラは眉ひとつ動かさず沈黙を保っている。あくまでも氷のように冷たい。

 直後、すかさずリカルドがショートソードを床に放り投げ、私たちから一歩後ずさりをするようにして離れる。その場には金属の乾いた響きがむなしくこだまし、すぐに消える。

 続けてナイルさんもそれに従って剣を足下に捨てて数歩ほど下がり、ふたりは神妙な面持ちになる。その様子を見ると兵士さんたちも苦悶くもんの表情を浮かべながらそれに従い、最後にゼファルさんが舌打ちをしてから自棄やけになったように剣を投げ捨てる。

 その様子を見て暗殺者アサッシンたちは目元を緩ませ、愉悦に満ちたような声を上げる。

「はーっはっは! 誰かが先ほど『いつどんな状況でも想定外のことは起こりうるものだ』と言ったな? その言葉、そっくりそのまま返すぞ」

「ぐっ……一転して俺たちが不利かよ……」

「形勢逆転だなァ、脳筋野郎」

 暗殺者アサッシンたちに挑発され、奥歯をみ締めてくやしがるゼファルさん。その握られた拳はこらえる怒りでプルプルと震えている。


(つづく……)
 
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