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第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)
第1-2節:シャロンとポプラ
しおりを挟むそして今、私は夕食などを済ませて自室に戻り、机で読書をしている。眠気がもう少し強くなったら灯りを消して、ベッドで横になるつもりだ。
開け放たれている窓から入り込んでくるのは涼しげな夜風。塵や土埃は地面で落ち着いているのか、昼間と比べて空気が澄んでいる。さらにその風はランプの炎を揺らめかし、私の影をちらつかせている。
そんな中、室内で家事をしていたポプラは最後に窓を静かに閉めて施錠し、カーテンを引いてからこちらを向く。
「お疲れ様なのです、シャロン様。そろそろ私は自分の部屋に戻らせていただくのです」
「うん、ポプラもお疲れ様。ところで、私が公務に参加するようになって以降、スピーナさんの指導の具合はどう?」
「てはは、やっぱり厳しいのです。手加減というものがないのですよ。失敗して叱られてばかりで……」
「でもそれはポプラに期待しているからなんじゃないかな? 見込みがないって感じたなら、もっと素っ気なく扱うと思うし。スピーナさんの性格を考えると口には出さないだけで、きっとポプラのことを評価しているはずだよ」
「それはそうなのかもですが、私としてはもっと優しくしてくれた方が嬉しいのです……」
苦笑しながら頬を指で掻くポプラ。その際、私は彼女のその手が目に留まる。
「ポプラ、手が随分と荒れているみたいだけど」
「へっ? あぁ、最近は水仕事を多く任されているので、どうしても荒れてしまうのです。でもこれくらいなら実家で家事をしていた時にもよくあったことですし」
「ちょっと待ってて」
即座に私は机の引き出しを開け、中から小瓶を取り出した。そしてその蓋を開けてから机の上に置くと、ポプラに歩み寄って彼女の両肩を優しく掴み、私の椅子に座らせる。
そのあと、正面に立った私は彼女の手をとり、小瓶の中に入っている白色の軟膏を薄く塗り込んでいく。
「この塗り薬は私が育った村から持ってきたものなの。腕のいい魔術医師の先生が近所に住んでいてね、その人が調合した薬なんだ。肌への刺激は少ないのに効き目はバッチリなんだよ」
「シャロン様……」
「いつもありがとう、ポプラ。本当はもっと待遇を良くしてあげられたらいいんだけど、今のフィルザード家の財政状況じゃ難しいだろうから。ごめんね……」
「い、いえ……そんな……」
小さくて温かなポプラの手。こうして実際に触れてみると、見た目以上に肌が荒れているのが分かる。場所によってはあかぎれや腫れもあるし……。
ただ、それはそれだけ一生懸命に仕事を頑張っているということだ。この子にもいつかもっと幸せになってほしい。そのためにも私も負けないように頑張らないといけない。
私はポプラを労るように、優しく丁寧に薬を塗っていく。そして両方の手のひらや手の甲はもちろん、全ての指先まで隙間なく網羅すると、小瓶の蓋を閉めてそれをポプラの手に握らせる。
「この薬、まだまだたくさんあるから瓶ごとポプラにあげる。もし肌に合わないようだったら、捨ててしまって構わないから。それとその時は代わりに回復魔法をかけてあげるから、遠慮なく言ってね」
「あ、ありがとう……ございますです……」
「明日から寝る前に薄く満遍なく塗ってね。それじゃ、お休み」
「はい……。お休みなさいませ……シャロン様……」
ポプラは立ち上がってペコリと頭を下げると、ドアのところへゆっくり歩いていった。ただ、ドアノブに手をかけた直後、不意に立ち止まってこちらを振り向く。
その表情はなぜかどんよりと曇り、瞳には涙が潤んでいる。
「あ……あの……シャロン様……私……」
「っ? どうしたの、ポプラ?」
「い、いえっ! ありがとうございますなのですっ! 薬、大切に使わせてもらうのですっ!」
ポプラは目を見開きながら大きくお辞儀をすると、慌てた様子で部屋から出ていった。
…………。
どうしたのだろう? 今の彼女は少し様子がおかしかったような……。
何か言いたいことがあったけど、既の所でそれを思い留まったという感じ。もしかして深い悩みごとでも抱えているのかな?
(つづく……)
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