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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第5-7節:間近に迫る死
しおりを挟む私は立ち上がってそれを見届けつつ、次に不安げな瞳で佇んでいるポプラに凛とした表情で声をかける。
「ポプラ、万が一の時にはソフィアちゃんのことを頼むね」
「っ!? シャ、シャロン様はどうするのですっ?」
「私はここに近付いてくるアンデッドを剣で倒すよ」
「危険なのです! それなら私たちと一緒に結界の中にいる方が安全なのです!」
「ううん、そうとも言えないよ。だってリカルドたちが魔方陣の対処をしている間、結界は一方的に攻撃を受けることになる。ダメージが限界を超えたら、結界だって破壊されちゃうんだよ」
「……っ……」
ポプラはすっかり色を失い、何も言葉が出てこない様子。彼女も状況を理解し、私の説明に納得せざるを得なかったのだろう。
私は涙が滲んでいるポプラの頬を指で拭ってあげて、言葉を続ける。
「だから剣を扱える私が、少しでもアンデッドの攻撃や接近を防がないと。大丈夫。ゴーレムと対峙した時だって、私が充分に戦えていたのをポプラも見ていて知ってるでしょ?」
「そ、それはそうなのですが……」
「リカルドの受け売りだけど、お互いに助け合わなきゃ。少なくとも私にとって主人とかメイドとか関係ない。なによりポプラは私の大切な友達だから。守らせてよ」
「シャロン様……」
私はポプラとソフィアちゃんに背を向けると、大きく深呼吸をした。
心を静かな水の如く落ち着かせ、腰に差しているショートソードを抜いて構える。
私もアンデッドに有効な死霊祓いや光系魔法が使えれば良かったんだけどね。どちらも習得していないことが悔やまれる。精霊の力を使おうにも、すでに何体かのアンデッドが迫り来る現状では発動させられるまでの時間的な余裕がない。
モーリスさん、せっかく諭してくれたのにごめんなさい。命を惜しまないという意思だけでは乗り越えられそうにないので、私は覚悟を持って戦います。
「――たぁああああアアアァーっ!」
私はタイミングを見極め、間合いに入ったスケルトンの一体に斬りかかった。
敵の持つ剣の方がわずかに長いという点においては確かに私は不利だけど、ヤツらは単純に振り下ろしてくるだけ。動きを読んだり対処したりするのはそんなに難しくない。
事実、私の一撃はスケルトンの体を粉々に破壊し、脆くもその場に崩れ去る。そうなってしまっては、ヤツらといえども復元は出来ない。
ただ、一体を倒してもすぐに次の一体が迫ってくる。息つく暇もなく、即座に体勢を整えて次の攻撃を繰り出す。さらにそれが片付くと、次の一体への対処。その繰り返しが続く。
これはキツイ……どんどん体力が削られる……。
しかも最近は剣の稽古をする時間がなかったから、動きも鈍ってる。
「はぁっ……はぁっ……ホントに……はぁはぁ……キリがない……」
十数体のアンデッドを倒したところで、私はすっかり息が上がっている。全身から汗が噴き出して止まらない。
肌や髪に砂埃などが張り付いて、端から見たら酷い状態だろうな……。
その一方でリカルドたちやリーザさんたちが確実に魔方陣を消してくれているからか、アンデッドたちが襲ってくる頻度は減ってきている。おかげでこうして秒単位くらいは動きを休められる間が出来ている。
もう少し……もう少し頑張れば……あとひと息だ……。
「シャロン様ッ! 上っ!」
「っ!?」
背後から不意に上がったポプラの大声に、私の体は無意識のうちに反応した。
瞬時に呼吸と体勢を整え、奥歯を噛み締めながら腹に力を入れる。そのまま振り返りつつ、上方へ視線を向ける。
…………。
……え……っ?
山道の上、高さは二階建ての家の屋根くらいはあるだろうか。その山肌から一体のスケルトンが剣を振り上げた状態で飛び降りてくる!
その位置は今の今まで私の死角であり、しかも通常なら想定しない角度からの襲撃ッ! 落下スピードは刻一刻と増し、私とスケルトンの距離はあっという間に詰まっていく。身構える余裕なんてない。
……そうか、これは体が容易に復元し、失う命も恐怖という感情もない彼らだからこそ取れる戦略。その上、それを私たちに悟られにくいよう、単独で密かに行動していたなんて。
間に合わない……やられる……。
本能的にそれを察し、全身に走る絶望と寒気。スケルトンの動きがなぜかスローに見えて、振り下ろされる剣の軌道や綻びた刃の質感までもがハッキリ分かる。
――直後、私の体に鈍い衝撃が走る。
(つづく……)
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