6 / 23
第二幕:気心が知れているからこそ
第三節:仕事の手伝い
しおりを挟むようやく全てを理解した俺ははらわたが煮えくり返る想いを必死に堪え、一計を案じることにする。
「そうだな、さっさと飯を食いに行こう。でもその前に『別の仕事』を済ませないといけないんだ。お前も手伝ってくれると、早く終わって助かるんだが?」
俺は相手の話に乗る形で、こちらからも提案をした。もちろん、そこには深い意味を忍ばせて……。
一方、何も気付いていない様子の『そいつ』は露骨に不満げな声を上げる。
「えぇーっ? あたしも手伝わなきゃいけないのぉ?」
「ちょっとくらいいいだろ?」
「うーん、だったら交換条件。ご飯、奢ってくれるんなら手伝ってあげる!」
「やれやれ、しっかりしてんな……。ま、いっか。それくらいは面倒見てやるよ。んじゃ、早速なんだが、こっちを向いたままその壁際に立ってバンザイしてくれ」
俺は路地に面した民家の壁を真顔で指差した。
それは何の変哲もない、どこにでもある白壁。表面に経年による汚れが少しある程度で、ひび割れや目立った凹凸はない。
当然ながら『そいつ』は、その意味不明な指示に口をポカンと開けたまま棒立ちしている。
「はぁっ!? 何それっ?」
「文句を言うな。それが仕事に関係あるんだよ。飯、奢ってほしいんならさっさとやれ」
「……しょうがないなぁ。でも変なことしないでよね? 殺すよ?」
口を尖らせつつも『そいつ』は俺の指示通りに動いた。
直後、俺は一気に踏み込んで瞬時に間合いを詰め、無防備状態の相手の腹に右の拳を繰り出す。全力を込めた渾身の一撃! さらに間髪を入れず第二撃、第三撃を打ち込んでいく。
当然、ヤツは背中が壁に付いているため、後ろへ体を退いてダメージを軽減することは不可能な状態。俺の腕の筋肉は雄々しく躍動し、出しうる最大限の衝撃力を発揮する。
「がはぁっ!」
そのまま『そいつ』は白目をむきながら、ズルズルと壁に沿って地面へ崩れ落ちた。その直後、体全体が銀色の光に包まれ、瞬時にそれはシャボン玉が弾けるように消滅する。
俺が冷たく見下ろすその先で失神しているのは、小汚い風体の中年男。ルナとは似ても似つかない。おそらく変身魔法か魔法薬でも使ってルナに化けていたのだろう。
……この男、本当に舐めた真似をしやがる。未だに腹立たしくてイライラが収まらない。
ルナの姿に化けたことはもちろん、盗賊である俺を騙そうとしたことが許せない。なぜなら変装は盗賊の十八番でもあるわけで、つまり俺は真贋を見抜けない未熟者だと見くびられたに等しいのだ。ゆえに無意識のうちにこの男の胴体にあらためて蹴りを入れてしまっている。
「……手間かけさせやがって。『別の仕事』ってのは、テメェを捕まえてギルドへ連れていくことだよ。ボケが! 約束通り、飯は奢ってやる。臭い飯をギルドの座敷牢の中でな」
「……ぁ……ぐ……」
「残念だったな。いくら外見や内面を似せたとしても、完全に誤魔化すのは難しい。喋ったり行動したりすればするほどボロが出るもんだ。俺を殺りたければもっと完璧に仕事をしろ。未熟な暗殺者め。テメェはド素人か? うちのギルドの新入りだって、もう少しうまくやるぞッ?」
「――バラッタ!」
俺が暗殺者を罵倒していた時のこと、ギルドのある方角からルナが全力疾走で向かってくるのが見えた。まるでこの世の終わりでも告げられたかのように、血相を変えて激しく息を切らせている。
でもコイツも偽物という可能性があるから、まだ油断は出来ない。足下で泡を吹いているのはダミーで、あとからやってくるのが本命の暗殺者という二段構えの作戦も充分にありえる。同業者の俺としては、それくらい緻密な作戦であってほしいとは思うが。
とりあえず鎌をかけてみるか……。
(つづく……)
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる