月影の盗賊と陽光の商人

みすたぁ・ゆー

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第二幕:気心が知れているからこそ

第三節:仕事の手伝い

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 ようやく全てを理解した俺ははらわたが煮えくり返る想いを必死に堪え、一計を案じることにする。

「そうだな、さっさと飯を食いに行こう。でもその前に『別の仕事』を済ませないといけないんだ。お前も手伝ってくれると、早く終わって助かるんだが?」

 俺は相手の話に乗る形で、こちらからも提案をした。もちろん、そこには深い意味を忍ばせて……。

 一方、何も気付いていない様子の『そいつ』は露骨に不満げな声を上げる。

「えぇーっ? あたしも手伝わなきゃいけないのぉ?」

「ちょっとくらいいいだろ?」

「うーん、だったら交換条件。ご飯、奢ってくれるんなら手伝ってあげる!」

「やれやれ、しっかりしてんな……。ま、いっか。それくらいは面倒見てやるよ。んじゃ、早速なんだが、こっちを向いたままその壁際に立ってバンザイしてくれ」

 俺は路地に面した民家の壁を真顔で指差した。

 それは何の変哲もない、どこにでもある白壁。表面に経年による汚れが少しある程度で、ひび割れや目立った凹凸はない。

 当然ながら『そいつ』は、その意味不明な指示に口をポカンと開けたまま棒立ちしている。

「はぁっ!? 何それっ?」

「文句を言うな。それが仕事に関係あるんだよ。飯、奢ってほしいんならさっさとやれ」

「……しょうがないなぁ。でも変なことしないでよね? 殺すよ?」

 口を尖らせつつも『そいつ』は俺の指示通りに動いた。

 直後、俺は一気に踏み込んで瞬時に間合いを詰め、無防備状態の相手の腹に右の拳を繰り出す。全力を込めた渾身の一撃! さらに間髪を入れず第二撃、第三撃を打ち込んでいく。

 当然、ヤツは背中が壁に付いているため、後ろへ体を退いてダメージを軽減することは不可能な状態。俺の腕の筋肉は雄々しく躍動し、出しうる最大限の衝撃力を発揮する。

「がはぁっ!」

 そのまま『そいつ』は白目をむきながら、ズルズルと壁に沿って地面へ崩れ落ちた。その直後、体全体が銀色の光に包まれ、瞬時にそれはシャボン玉が弾けるように消滅する。

 俺が冷たく見下ろすその先で失神しているのは、小汚い風体の中年男。ルナとは似ても似つかない。おそらく変身魔法か魔法薬でも使ってルナに化けていたのだろう。


 ……この男、本当に舐めた真似をしやがる。未だに腹立たしくてイライラが収まらない。


 ルナの姿に化けたことはもちろん、盗賊である俺を騙そうとしたことが許せない。なぜなら変装は盗賊の十八番でもあるわけで、つまり俺は真贋を見抜けない未熟者だと見くびられたに等しいのだ。ゆえに無意識のうちにこの男の胴体にあらためて蹴りを入れてしまっている。

「……手間かけさせやがって。『別の仕事』ってのは、テメェを捕まえてギルドへ連れていくことだよ。ボケが! 約束通り、飯は奢ってやる。臭い飯をギルドの座敷牢の中でな」

「……ぁ……ぐ……」

「残念だったな。いくら外見や内面を似せたとしても、完全に誤魔化すのは難しい。喋ったり行動したりすればするほどボロが出るもんだ。俺を殺りたければもっと完璧に仕事をしろ。未熟な暗殺者アサッシンめ。テメェはド素人か? うちのギルドの新入りだって、もう少しうまくやるぞッ?」

「――バラッタ!」

 俺が暗殺者を罵倒していた時のこと、ギルドのある方角からルナが全力疾走で向かってくるのが見えた。まるでこの世の終わりでも告げられたかのように、血相を変えて激しく息を切らせている。

 でもコイツも偽物という可能性があるから、まだ油断は出来ない。足下で泡を吹いているのはダミーで、あとからやってくるのが本命の暗殺者という二段構えの作戦も充分にありえる。同業者の俺としては、それくらい緻密な作戦であってほしいとは思うが。


 とりあえず鎌をかけてみるか……。


(つづく……)
 
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