月影の盗賊と陽光の商人

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
15 / 23
第三幕:盗賊と商人

第六節:ビッテルの抱く夢

しおりを挟む

 レストランでの会話が落ち着いたあと、俺はビッテルと一緒に店を出た。そしてヤツの現在の滞在先だという、ガトーの屋敷まで一緒に向かうことにする。帰りの夜道で誰かが待ち伏せていて、ひとりになったところを襲われるという可能性も否定できないからな。

 だから帰る方向が同じだと嘘をつき、屋敷の前まで送り届けることにしたわけだ。


 もちろん、俺に対して好意的な感情を持っているビッテルは即座にそれを了承。それどころか、せっかくなので泊まっていけとまで申し出てきた。あっちの趣味があるんじゃないかと疑いたくなるほどの猛アピールだ。

 当然、そんなの真っ平ゴメンなので、敷居が高いとか何とか言って断ったけど……。


 ちなみにガトーというのはフォルスでも屈指の大商人で、商人ギルドの運営にも関わっている。当然ながら盗賊ギルドのマスターであるお頭とは面識がある。

 そしてガトーのところで厄介になっているということは、ビッテルはそれなりに大きな取引をしている商人ということになる。成り行きとはいえ、そんなヤツを助けることになるなんて複雑な気分だぜ……。


 そういえば、すでに帰り道のあちこちでうちのギルドメンバーの姿があるのを俺は確認している。ルナの報告を受けて、お頭が手配したのだろう。さすが決断と仕事が早い。

 これで商人ギルドに貸しが出来たし、きっとお頭はホクホク顔のはずだ。

「――バラスト、僕には夢があるんです」

 なんとなく話が途切れ、黙って歩いていた時のことだった。隣にいたビッテルが不意に切り出してくる。

 視線を向けてみると、ヤツは穏やかに微笑みながら顔をやや上に向けて満天の星を見やっている。

「どうした、藪から棒に?」

「今まで僕は、あなたほど気の合う人と出会ったことはなかった。だから僕の夢を語りたいと思ったんです。こんな気持ちになったの、初めてなんです。だからよろしければ聞いていただけますか?」

「まぁ……聞くだけなら……」

「自然界には弱肉強食という絶対の掟があります。でも僕たち人間は違う。助け合うことが出来る。それって素敵なことだと思うんです」

「…………」

「この世の中は不平等だ。だからこそ、僕は苦しむ人たちに手を差し伸べて助け合っていきたい」

「ふーん……」

 俺は適当に相槌を打った。あまり興味のない話だし、ご託を並べているようにしか思えなかったから。当然、心に留め置く気なんてさらさらない。

 だが、そんなこちらの想いなど知るよしもないビッテルは、熱を込めて言葉を続ける。

「僕は世界一の商人になりたい! そうなれば各地の領主や王たちも、僕の言葉を無視できなくなる。不当な重税や法律に対して、改善するよう迫ることだって出来るんです。剣を振るう力がない僕でも、戦うことが出来るんです」

「確かに少しぐらいは変えられるかもしれないな。でもそれだけだろ? あまり意味はないんじゃないか?」

 俺はにべもなく言い捨てた。するとビッテルはニヤリと頬を緩め、確信に満ちたような瞳で俺を見つめてくる。

「小さな雫も水面に落ちれば波紋となって、大きく広がっていきます。それと同じように、一人ひとりの力は小さくても、いずれそれが増幅して大きな力になる。誰にも止めることが出来ないほどに。その最初の一滴に僕がなれたなら、例えそのあとにこの命が尽きたとしても悔いはありません」

 そうビッテルが言い切った時、ちょうど俺たちはガトーの屋敷に到着した。

 敷地は高い壁に囲まれ、門の鉄格子の隙間から広い庭が見えている。城のような豪華な屋敷はさらにその奥に建っていて、そこまでの道沿いにはいくつもの魔法灯が連なって設置されている。

「バラスト、今日は楽しい時間をありがとうございました」

 ビッテルは俺に向かって深々と頭を下げると、門を通って屋敷の方へ歩いていった。途中で何度も立ち止まり、こちらへ振り向いて手を振っている。律儀というかクソ真面目というか……。



 その後、俺は屋敷の前を離れ、ギルドの方へ向かって歩き出した。



 夜も遅いせいかすっかり人通りはなくなり、辺りは静まり返っている。唯一、昼間には雑踏にかき消されてしまう潮騒だけがかすかに響いている。そこへ潮の香りを乗せた涼しげな海風がそよそよと吹き、俺の髪を揺らす。

 町は全てが漆黒の闇の中。ただ、夜目が利く俺にとっては、むしろこの状況の方がアドバンテージがある。もし不自然な動きがあれば即座に気付くことが出来る。

「――バラッタ」

 程なく路地の影からルナが現れ、囁くように声をかけてきた。そしてこちらへ近寄ってきて、隣を歩き始める。

「お疲れ、ルナ。ちなみにお前は本物か?」

「それならあんたの腹を殴らせてもらってもいい? きっと体はあたしの拳の味を覚えているはずだから、本物か偽物か明確に判断できるでしょ」

 ルナはニコニコしながら拳を握り、ポキポキと音を立てていた。しかもこの雰囲気だと本気で実行に移しかねない。

 だから俺は苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。

「遠慮しておくよ。その反応はルナそのものだしな」

「あら、残念っ♪ ――で、あのふたり組はどうなったの? 辺りに気配はないみたいだけど」

「ずっと俺が一緒にいたから、仕事するのを諦めたらしい。途中で店を出ていったよ」

「そうなんだ。ちなみにあの優男は何者?」

「交易商人のビッテル――。商人だと分かってたら、助けようなんて気は最初っから起きなかったのにな。それに今回はアイツを助けたくて助けたんじゃない。ギルドの縄張りをヨソ者に荒されるのが癪だっただけだ」

 俺は苦々しく思いつつ、バレバレの嘘をついた。

 命が危機にさらされているヤツを見たら、どんな相手でも放っておけない――俺のその性格をルナなら絶対に知っている。それが本意だってきっと理解してる。

 でも助けた相手が大嫌いな『商人』という職業の人間だったから、俺は素直にそのことを口に出したくなかったんだ。

 なにより、どうもアイツは虫が好かない……。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...