月影の盗賊と陽光の商人

みすたぁ・ゆー

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第四幕:埠頭の違和感

第二節:バラッタの目論見

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 その日の夕方、ギルドに戻った俺はフリースペースにいたルナを捕まえ、行きつけの食堂へと誘った。もちろん、代金は全て俺が持つという条件で。すると予想通り、ルナは喜んで乗ってきやがった。


 でもこれは例のレストランの埋め合わせというワケじゃない。あくまでも『とある目的』を果たすための布石――。


 その『とある目的』というのは、これから俺が実行しようとしている仕事へ協力させるということだ。満腹にして気分が良くなったところで頼めば、首を縦に振る可能性が高まる。しかも俺の奢りだから、食べ終えてしまったあとでは断りづらいはず。

 そして食事が終わる頃、いよいよ本題を切り出す。

「あのな、ルナ――」

「何か頼みごとがあるんでしょ? あたしに出来ることなら協力してあげる。だから遠慮なく言ってみなさいよ」

 俺が話し出そうとするのを遮り、ルナは悟ったような顔をして言い放った。そして図星を指されて驚愕している俺と目が合うと、ふうっと息をついてからニタニタと微笑む。

「そんなに驚くことじゃないでしょ。バラッタと何年付き合ってると思ってんのよ? 裏があることくらい、気付いてるに決まってるじゃん。これで何もなかったら、むしろ気持ち悪いって。あたしは分かってて食事をご馳走になったの。依頼料代わりにねっ♪」

「そっか……」

 ルナの言う通りだ。俺たちはお互いに大抵のことは分かり合っている。こっちの思惑なんて、見抜かれていて当然。そんな単純なことも忘れていたのか……。

 やはりビッテルに関わって以来、俺はなんだか調子がおかしい。ペースを乱されっぱなしだ。

 アイツのことを意識しすぎなのか? だとすれば、なぜそんな気持ちになっているのか? 自分でも理解できない。

「でもっ、いかがわしいお願いはお断りだからね?」

「ははは、それはない!」

「……なんか即答されると、それはそれでムカツクわね」

 頬を膨らませ、ギロリと睨み付けてくるルナ。でもそんなに不機嫌になるのもおかしい気がする。

 だっていかがわしいことをさせようにも需要なんてないだろうから。もちろん、そんなことは口が裂けても言えないけど。

「今夜、俺はビッテルの交易船で仕事をする。だからルナも手伝ってくれ」

「えっ!? あの優男の交易船で? 仕事をするって、水夫にでも転職すんの?」

 ルナは分かってるクセに、素知らぬ顔ですっとぼけた。しかもその反応があまりにもお約束すぎて、呆れてものも言えない。

 ゆえに俺はルナに白い目を向けながら深いため息をつく。

「あのなぁ、ンなワケないだろ? そういうつまらないギャグはやめろ……」

「はいはいっ♪ で、具体的には何をする気?」

「こっそり船に忍び込んで、積み荷をちょこっと拝借する。あまり派手にやらかすワケにはいかないからな。それに相手は腐っても商人だ、警備の人間やトラップくらいは準備しているだろうし」

「だね。さすがにあたしたちだけで正面から相手をするのは、分が悪いかもね」



 ちなみに積み荷を奪うというのは、あくまでもオマケに過ぎない。

 真の目的は、ビッテルがどれだけ汚く儲けているのかの証拠を掴むこと。船内を調べれば、何かしらの手がかりは見つかるはずだから。ただ、それだと盗賊としての体裁が悪いから、積み荷を奪うなんて理由をでっち上げたワケだ。

 ――人が良さそうな顔をしているビッテルの化けの皮を、絶対に剥いでやる。

「でもさ、ホントにいいの? アイツ、悪人には見えなかったけど?」

「商人なんてみんな悪人なんだよ。私利私欲にまみれ、私腹を肥やすことしか頭にない連中さ」

 俺が吐き捨てるように言うと、ルナはふぅっと息をついてから軽く肩を落とす。

「やれやれ、バラッタの商人嫌いも筋金入りだね。で、お頭の許しは出てるの?」

「当たり前だ。なぜか渋ってたが、無理矢理に押し切ったよ」

「お頭もトシなんだから、あんまり苦労をかけちゃダメだよ? ますます白髪が増えちゃうんだから」

「今の言葉、お頭に言いつけちゃおっかな? 逆鱗に触れるぞ?」

「なっ!? ちょっ、悪い冗談はやめてよっ!」

 ルナは真っ青な顔をしながら、体をビクッとさせて狼狽えた。するとその拍子にテーブルの上にあったコップを倒し、それに驚いてさらに木製のボウルを床へと落としてしまう。

 そのあまりの慌てぶりに俺は吹き出しそうになったが、それを堪えて真面目に気持ちを口にする。

「……俺だってルナが言いたいことくらい分かってるさ。でもこんなワガママが出来るのは、あと少しだけなんだ。あと何年かすれば、俺たちの世代がギルドを支える主力になる。そうなると否応なしに、好き勝手には出来なくなる。お頭だってそれを理解しているからこそ、最後には折れてくれたんだろうよ」

 ルナは最初、それをキョトンとして聞いていた。でもすぐに破顔一笑して穏やかな目を向けてくる。

「ふーん、それなりに自覚はあるんだね。ちょっと見直した」

「ちょっとじゃなくて、すごく見直せ」

「自惚れるな、バーカ♪」

 ルナはクスクスと笑いながら俺の額を指で突いた。

 その後、俺たちはギルドへ戻って簡単な打ち合わせを行い、準備を整えてから港へ向かったのだった。


(つづく……)
 
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