わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
3 / 58
第1航路:魔術整備師シルフィ

第1-2便:小さな相棒

しおりを挟む
 
 彼は私が飼っている――というか、うちに勝手に住み着いちゃったメイジカワウソのクロード。何年か前に川辺で大怪我しているのを見つけ、助けてあげてからずっと一緒にいる。

 もふもふで見た目は愛くるしいんだけど、ちょっと生意気な性格なのが玉に瑕だ。

「ちょっと、クロード! 整備だけっていうのは心外なんだけど? 操船や接客だってうまくやってるでしょ」

「操船も接客も船に関することだし、どっちも普通ってレベルじゃん。オイラが言いたいのは、もう少しオシャレにも気を遣ったらって意味。整備の時はツナギ、操船や私的な外出の時は会社の制服。シルフィは私服を持っているのか、疑問に感じるレベルなんだけど」

「……う、うるさい。服はともかくお肌の手入れはきちんとしてるもん。操船や整備をしている以上、日焼けや手荒れの対策をしておかないとカサカサになっちゃうから」

「見た目が男子みたいなんだから、お肌なんて気にする人いないでしょ。この前も冒険者風のお客さんから少年に間違われてたよね? その時のシルフィ、引きつった笑みを浮かべてて面白かったなぁ。思い出しただけで……ぷぷっ、あははははっ!」

 …………。

 さすがに私はカチンときた。確かに渡船業界は男性が多いし、整備師となると女性の割合は限りなくゼロに近い。それに私の見た目や立ち振る舞いが多少は男子っぽいというのは自覚してる。


 ――だけどそれの何が悪いって言うの?


 女子が整備師をしたっていいじゃない。男子っぽくてもいいじゃない。私は船も機械も好き。自分らしさと誇りを持ってこの仕事をしているのだ。それをバカにされたような気がして腹が立つ。

 だから私は冷めたような目付きでクロードを睨み付け、静かに言い放つ。

「……クロードのお昼ご飯は抜き。川に潜って自分で魚でも採りなさい」

「なっ!? ひ、酷いよ! 体が濡れちゃうだろっ!」

「カワウソのクセに何を言ってるんだか……」

「カワウソでも濡れるのが嫌な時だってあるわいっ! それに念を押しておくけど、オイラは単なるカワウソじゃない! メイジカワウソだッ! ほかの動物と会話が出来るし、夜目も利くし、氷系や風系の攻撃魔法だって使えるんだぞっ! それも初歩的なヤツじゃなくて、中位の威力があるんだぞっ!」

「はいはい、すごいすごい」

「言葉に気持ちが入ってない! 絶対にそう思ってないだろっ! よぅし、見てろよっ!」

 頭に血が上ったクロードは即座に何かのスペルを呟いた。


 ――っ!? ま、まさかこれはっ!


 慌てて止めようとしたけど時すでに遅し。彼の眼前付近から小さなつむじ風が放たれ、ドック内に積んであるボロ布ウエスや設計図などの書類が舞い上がって散乱した。天井から紐でつり下げられている魔導灯も大きく揺れ、落ちてこないか心配になるほどだ。

 こうしてあとに残ったのは、まるで盗賊にでも荒らされたかのような惨状……。

 クロードは『ほら、すごいだろっ!』とでも言わんばかりに得意気な顔をしているけど、私はそれを見て頭を抱える。だって今朝の出勤直後に掃除や整理をしたばかりなのに、その苦労が水の泡になってしまったから。

 思わずため息が漏れる。昼食が済んだら整備した魔導エンジンの試運転をしようと思ってたんだけど、その前にドック内を片付けないといけない。

「……クロード、夕食も抜きね」

「えぇっ!? なんでだよっ?」

「ドックをこんなにめちゃめちゃにしたんだから当然でしょ。片付けるのは私なんだからね?」

「そもそもシルフィがオイラを冷たくあしらったのが原因じゃん!」

「最初に私をからかったのはクロードでしょ」

「う……。オ、オイラがシルフィをからかったって証拠はあるのか?」

 往生際の悪いクロードは狼狽えつつもまだ反論してきた。反省する気も退く気もないみたい。素直に謝れば許してあげたのに、ホント強情なんだから。

 確かにクロードが私をからかったという証拠なんてない。だからこそ最終的には言った言わないの水掛け論になって、収拾が付かなくなるのは必至だ。本当に面倒臭い。

 そこで私はクロードにお灸を据える意味も含め、もう相手をしないことにする。

「さーて、私はこれで午前中の業務が終わりだから、レストランへ行って昼食にしようっと」

「聞いているのか、シルフィ! 証拠を出せぃっ!」

「今日のランチメニューは何かなぁ?」

「お、おいっ、シルフィ!」

「美味しいお魚料理だったら、ひとりで食べちゃおうっと。分けてあげる相手もいないことだしぃ」

「ひとりでって……。本気でオイラを置き去りにする気かよぉ……」

「ん? 何か声が聞こえたような気がするけど空耳だよね? ドックには私しかいないはずだもんね」

「……ぅ……シルフィ……うるうる……」

 横目でチラリと様子を窺ってみると、クロードは瞳に涙を浮かべていた。すっかり意気消沈し、すがるような目でこちらを見つめている。


 ――少しは反省したのかな? 演技している可能性もあるかもだけど、あまり冷たくするのも可哀想だよね。ま、憎めない子なのは確かだし、この辺で勘弁してあげよっかな。

 やれやれ、我ながら甘いなぁ……。

 私は苦笑しつつクロードに手を伸ばし、優しく体を撫でてあげた。サラサラな体毛の手触りと温かさが手と指に伝わってきて、なんだか心地良い。

「クロード、反省したなら許してあげる。でも今後はもう少し私を気遣うようにね。じゃ、一緒にレストランへ行こっ?」

「っ!? やったぁ! やっぱりシルフィは優しいっ! だからオイラ、シルフィが好きぃ!」

「ふふっ。調子が良いんだから、もう」

 その後、私は控え室でツナギから会社の制服へ着替えた。そしてクロードを左肩に載せると、ドックの隣にある渡船場へ移動したのだった。

 ちなみに制服に着替えたのは、午後からそれを着て行う仕事が主体になるから。昼食へ出かける際の私服を持っていないということじゃない。当然、自宅へ帰れば何着かある。

 た、確かに私は自宅と会社の往復時も制服姿だから、ロッカーの中に私服が入っていないのは事実だけどさ……。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...