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第2航路:公用船契約に潜む影
第1-5便:もうひとりの若き魔術整備師
しおりを挟む食堂へ入ると想像していた通り、かなりの混雑ぶりだった。
ほとんどのテーブルやカウンター席が埋まっていて、ホール担当の店員さんが忙しそうにあちこちを飛び回っている。お客さん同士の楽しげな会話や笑い声なども響いていて、どこもかしこも活況だ。
また、辺りに漂う美味しそうな香りは、私の食欲と空腹状態のお腹を激しく刺激する。
そしてしばらくして私たちは店員さんによって、壁際のボックス席に案内されたのだった。まずは奥の席にミーリアさん、その隣の通路側に私が座る。ちなみにクロードは私の足下に陣取っている。
一方、ミーリアさんの正面がアルトさん、その隣で私の正面がディックくんの席となる。ディックくんは席に座るなり、惚けたような表情でずっと私の顔を見つめている。
この時、私の中でふとした疑問が浮かんだ。それをその当事者であるディックくんにぶつけてみる。
「ディックくん、私と同じ通路側の席で良いの? 奥の方が上座だよ?」
ディックくんとアルトさんの主従関係を考えると、こういう場合は従者であるアルトさんが通路側の席に座るのが普通だ。しかもベテラン執事のアルトさんならそのことを分かっているはずなのに、なぜか彼は堂々と奥の席に座った。
それに対してディックくんが怒らないのも違和感が残る。
「っ!? あ、あー、そのっ、い、いいんだッ、この位置で! えっと……そ、そうっ、たまには年長者であるアルトを気遣ってやらないとな! はっはっは!」
視線を逸らし、しどろもどろになりながら照れくさそうにしているディックくん。そんな彼をミーリアさんとアルトさんは微笑んで眺めている。
――そっか、これはディックくんのアルトさんを想う気持ちが行動に表れたってことだったんだね。出会ったばかりの頃の彼と比べると、本当に精神的に成長した面がたくさんあると感じる。
私はなんだか嬉しくなって、目の前にある彼の頭を思わず優しく撫でる。
「さすがディックくん! 見直したよ。偉い偉い」
「なっ!? あ……ぅ……」
ディックくんは耳まで真っ赤にして照れながらも、心地良さそうにそのまま大人しくしている。まるで借りてきたネコのようで可愛らしい。
…………。
――って、また弟と勘違いして馴れ馴れしく接してしまった! ダメだなぁ、いつになってもこの感覚が抜けない。
私は慌てて手を離し、ディックくんに頭を下げる。
「ゴメン! 私、また弟みたいな感覚でディックくんの頭を撫でちゃって……」
「っ! か、構わんぞ、俺は! いくらでも撫でてくれていい。むしろ俺はシルフィに撫でられるのが……その……」
「ふふふっ! 良かったですねぇ、ディック様。そうだっ、私も撫でさせてもらっちゃおっかな?」
横でミーリアさんがクスクスと笑いながら、ディックくんの頭へ手を伸ばそうとしている。
そんな彼女に対してディックくんは恨みがましい目を向け、不満そうに低く唸る。
「……ミーリア、からかいおって。お前、意外に意地が悪いな」
「何のことですか?」
「く……白々しいヤツめ……」
ディックくんは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
私にはふたりが何をどういった意味で話しているのか分からないけど、ミーリアさんの方が立場的に優位な状況になっているというのだけは雰囲気で伝わってくる。
でも険悪というわけじゃなくて、冗談を言い合っているような感じだから心配はいらないと思う。
さて、駄弁ってばかりいないでそろそろメニューを見て料理を注文しないとな――と、思っていると、不意に横から溜息混じりの声が聞こえてくる。
「聞き覚えのある声がすると思って見てみたら、シルフィとその一行か……」
「あれ? もしかしてライルくん?」
声のした方へ視線を向けてみると、通路を挟んだ隣の席に座っていたのはライルくんだった。
彼はルーン交通で魔術整備師をしていて、年齢は18歳。服装は整備する時に着ているツナギのままだから、彼も仕事にひと区切りを付けて食事をしに来たのだろう。
ただ、いつもツバを後頭部の方へ向けて被っている帽子は見当たらなくて、ぼさぼさで短髪の黒髪をそのまま露わにしている。
彼は目つきが少し鋭いし、言葉遣いも荒いから知らない人から見ると怖い印象を受ける。
でも決して粗雑な人じゃない。整備に関して真っ直ぐな職人気質で、ほかのことにはあまり興味がない感じだから誤解されやすいだけなんだ。
私たちは所属している会社こそ違うけど、整備師としての機械に対する情熱は同じ。そのことはお互いに理解しているし、実力だって認め合っている。
「もしかしなくても俺だよ。ほかに同じ顔したヤツがいるか? ドッペルゲンガーじゃあるまいし。変身魔法で化けるにしても、飯を食べに来る際に姿を偽るメリットなんかない。もっと合理的に考えろ」
「……てはは、ゴメン。ライルくんはカレーライスを食べてるんだ。美味しいよね、この食堂のカレーライス」
「まぁな。安くてボリュームもあるしな」
「スパイシーな香りと濃厚なコクのある味は町でも評判だもんね。私も定期的に食べたくなるよ。クロードは香辛料の香りがあまり好きじゃないみたいだから、私がカレーライスを食べるのを嫌がるけど」
「なんにせよ、この店のカレーライスは注文から提供までの時間が比較的短いのがいい。忙しい時には重宝する」
そう言って、ライルくんはカレーライスをスプーンですくって静かに口へ運んだ。お皿に残っているご飯とルーはわずかのようだから、もうすぐ食べ終わる感じだ。
だとすると、もう少し早く来れば良かったかな……。
こうして話をするのは久しぶりで、整備に関する情報交換だって出来ただろうから。魔導エンジンに関して、聞きたいこともあるんだよね。
「シルフィさん、こちらの男性はどなたなのです?」
私とライルくんが言葉を交わしていると、興味深げにミーリアさんが問いかけてきた。その横ではディックくんがなぜか不機嫌そうな顔でライルくんを睨んでいる。
(つづく……)
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