28 / 58
第2航路:公用船契約に潜む影
第2-2便:実務審査の概要
しおりを挟むそんな私を尻目に、社長は真剣な顔つきで私を真っ直ぐ見つめている。
「船体や魔導エンジンに何かトラブルがあっても、シルフィならその場で対処できるからね。もちろん、運航中の審査担当者への案内や接待は僕やルティスが担当するから、シルフィは操船だけに集中してくれればいい」
「で、でも操船だけなら私以外にもベテランの皆さんがいるじゃないですか……。私は同乗しておいて、機械的なトラブルがあった時にだけ対処すればいいわけですし」
「シルフィの操船技術は全く問題ない。キミ自身が思っている以上にレベルが高いと僕は思うよ。今回の航路だって定期的に担当していて、経験があるわけだからね。それなら船の整備から一貫してシルフィに任せる方が総合的に安心感がある」
「確かにブライトポート市までの航路に関する情報や経験はありますけど……」
私にはあまり反論することが出来なかった。当惑するばかりで勢いは全く出せない。
なぜなら社長の言葉や考え方には筋が通っていて、拒否するのは難しいと感じたから。なんとか役割をほかの誰かに変わってもらえるよう遠回しに断ろうにも、その糸口すら見付けられない。
ある意味、社長ってズルイと思う。正論で来られたら逃げ道がないもん。
あとは卒倒するか、泣き喚くくらいしか拒否する方法がない。もちろん、それをするのはさすがに抵抗があるし。
一方で私にこの話を持ってきたということは、能力を評価して期待してくれているということでもある。
となると、もはや覚悟を決めるしかないかな……。
「僕は審査担当者への案内や接待に集中したい。だから操船に関することはシルフィだけで対処してもらえると助かるんだよ。もちろん、万が一の時にはシルフィに協力するけどね」
「……分かりました。そういうことならこの仕事を受けさせてもらいます」
「ありがとう。運航日は1週間後の早朝。運用に入る船はうちの所属旅客船で最上級の『グランドリバー号』だ。その日に合わせて整備と試運転も頼むよ」
「はい、しっかり調整しておきます!」
腹を括った力強い私の返事を聞いて、社長は満足げに頷く。
ちなみに『グランドリバー号』は私が普段から運航している渡し船の2倍くらいは大きな船で、操舵室と客室が独立した構造になっている。
船体の前方には屋根とドア付きで数人が入れる広さの操舵室があり、その床下は機械室。
そして船体の中央部分にあるのが2階建ての客室で、簡易的なキッチンやトイレ、豪華なソファー、大きな窓などが設置されている。長旅でも居住性は良い。その客室の一部分と甲板の下の空間が添乗員室だ。
さらに最後部は開放的な甲板となっていて、川面を吹き抜ける風を直接感じることが出来る。
「大まかに行程を説明しておくけど、リバーポリス市からブライトポート市までの往路はルーンの担当。その翌日にブライトポート市からリバーポリス市までの復路を担当するのが僕たちソレイユになる」
「なるほど、それで泊まりがけの出張というわけですね」
ブライトポート市との往復なら、早朝に出発して即座に折り返せば日帰りも可能だ。その場合、泊まりがけの必要はなくなる。
でも審査担当者さんたちの疲労を考えて、それは避けようということなのだろう。今回は実務審査ということで、急ぎで往復しなければならないというわけでもないし。
「宿の手配はルティスに頼んでおくよ。それとシルフィの食事代なども経費で落としてあげるから、領収書をもらっておくのを忘れないようにね」
「はい、承知しました。それで往路の時なんですが、私たちの船はどうすればいいんですか?」
「審査担当者たちの乗るルーンの船の後ろから、バックアップ船として運航することになる。といっても、大きなトラブルがなければ回送の船を運航しているのと変わりないけどね。復路はその担当が入れ替わる形。だから往路はそんなに気を遣わず、リラックスしてくれていいよ」
「でもいくら回送扱いでも気は抜けませんよ。運航中に漂流物と衝突して船体に深刻なダメージを受けたら翌日に響くわけですし」
「そうだね。ま、そういうわけだからよろしく頼むよ」
「はいっ、がんばりますっ!」
こうして私は大きな仕事を受けることになった。運航日までに航路の再チェックと気象状況を確認しておかなくちゃ。
それと最も大事なのが、実務審査の時に使用する『グランドリバー号』の整備と試運転。会社の経営や社長の期待がかかっているから、万が一にも失敗は許されない。
あと何があるか分からないから、運航中に何度か整備魔法を使っても大丈夫なくらいに魔法力回復薬を準備しておかないと。工学整備で使う工具類も。これはディックくんを助けた時に得た教訓だもんね。
(つづく……)
0
あなたにおすすめの小説
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる