わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~

みすたぁ・ゆー

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第2航路:公用船契約に潜む影

第4-4便:あの時の真相

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 ライルくんは機械も人間も、万物を慈しむことの出来る優しい人だ。整備を通じてずっと身近で接してきたから、そのことを私は知っている。

 いつも少し無愛想な感じがするから、みんなには誤解されることも多いけど……。

 だから彼なら誰かを守るために信念を曲げることはあり得る。でも優しい心の持ち主だからこそ、何かあったら思い悩んで絶対に顔に出る。

「実務審査の時のライルくん、いつもと変わったところはなかった。誰かにおどされていたとか、そういうことはないと思うよ」

「どうしてシルフィはそこまでアイツの肩を持つのだ?」

「ライルくんを信じてるから。もちろん、それはディックくんも同じだよ。大切な人たちを信じるのは当たり前でしょ」

 私は何を今更といった感じで即答した。だってほかに理由なんてないもん。

 するとそれを聞いたディックくんはなぜかキョトンとしていたけど、一瞬の間が空いてからお腹を抱えて大笑いする。

「はははははっ! シルフィらしい答えだな! それでこそシルフィだ。俺はますますキミのことが気に入ったぞ。分かった、ライルに関しては俺が個人的に調べてみよう」

「――その必要はない」

 不意にドックの隅から聞き覚えのある声がした。

 私とディックくんがほぼ同じタイミングでその方向を見てみると、そこにいたのはライルくん。彼は何かを載せた台車をゆっくりと押しながらこちらへ歩み寄ってくる。

 ちなみに台車に載せてあるものには白い布が覆い被せられていて、それが何なのかは分からない。

「ライルくん!?」

「貴様……なぜここへ……?」

 目を丸くしている私たちが声をかけると、ライルくんはすぐ隣まで来てから大きく息をついた。そしてツナギの袖で額の汗を軽く拭い、鋭い視線でディックくんを睨み付ける。

 ただ、冷静さを保っているみたいだから、一触即発といった雰囲気までには至っていない。

「シルフィに用事があったから来たまでだ。それよりもディック、もし俺について疑いを持っているなら堂々と調べるがいい。聴き取りでも何でも、いくらでも協力してやる。俺には何もやましいところがないからな」

「だ、だったら貴様はソレイユ水運の船で何をしていたというのだ?」

「魔導エンジンの調子や船体に問題がないか、点検魔法チェックで確認していたんだ。シルフィは操舵手としての仕事で疲れているのに、整備師としての仕事もしなければならなかっただろう? その負担を少しでも軽くしてやりたくてな」

「ほぅ、随分とお優しいことだな? 頼まれてもいないことを厚意でやってやるなんて。どういう風の吹き回しだ?」

 そのディックくんからの追求を受けると、なぜかライルくんは狼狽うろたえながら口ごもった。少し落ち着きもなくなって、頬を赤く染めながら私の方をチラチラと見ている。

 本当は優しい性格だということがディックくんにバレて、決まりが悪いのかな?

 もちろん、ライルくんのことをよく知っている私からすると、船の点検をしてくれていたという行動は『どういう風の吹き回し』とは思わない。彼の優しさを考えれば充分にあり得ることだ。


 そっか、あの時は桟橋の見回りをしていたんじゃなくて、整備をしてくれていたのか……。


 ありがとう、ライルくん。やっぱり優しくて良い人だ。自分の目に狂いはなかった。なんだか嬉しくて、私は彼に微笑みかける。

 するとたまたま視線が合ったライルくんは、照れくさそうにしながら慌てて俯いてしまう。

「ま、まぁ……その……俺が整備をしておいてやろうと思ったのは、整備師仲間としての気遣いというか……なんというか……。べ、別に理由なんてどうでもいいだろう!」

「……なるほど。納得はいかんが、色々と理解はした。と、な……」

 ディックくんは白い目でライルくんを見ると、なぜかますます不機嫌になって外方を向いてしまった。誤解は解けたみたいなのに、ふたりの間に流れている空気はハッキリ言ってさっきよりも悪い気がする。

 特にディックくんのライルくんに対する敵意というか、対抗心みたいなものが膨れあがったような感じ。どうしちゃったんだろうな……?

 ただ、私は戸惑いつつもとりあえずはそのことを置いておいて、今はあの時の行動の問題点についてライルくんへ伝えておくことにする。

「だったらそのことを翌朝にでも私に言ってくれていれば、誰にも誤解されずに済んだのに。整備をしておいて内緒にするなんて水くさいよ。お礼だって言えないじゃん」

「表立って整備をするのはシルフィのプライドを傷付けるかもしれないし、俺も照れくさかったんだ。黙っていて悪かったな。許してくれ。それと……俺を信じてくれていて嬉しかった」

「うん、ライルくんが機械に対して酷いことをするはずないもん。それは私が誰よりも分かってるよ。――じゃ、あらためてあの時のお礼を言うね。私を気遣って、整備をしてくれてアリガト」

 私がライルくんの手を取って頭を下げると、彼は満足げに頷いて手を握り返してくる。

 力強くて大きな手。彼は手袋をしているから体温や肌の感触は伝わってこないけど、心の柔らかさや温かさは充分に感じられる。

 あらためて魔術整備師同士の絆が深まったような気がする。

「では、皆様の誤解も解けたところでライル様もお茶をどうぞ」

 その時、いつの間にかライルくんの分のお茶の準備を終えていたアルトさんが彼へ椅子に座るよう勧めた。もしかしたら会話の流れを見極めつつ、そのタイミングを待ち受けていたのかもしれない。

 余計なことを言って話の骨を折るようなこともせず、静かにディックくんの近くに控えていたし、さすがの執事力。私なら絶対に口を出しちゃうもんなぁ……。

 それに対してライルくんは会釈えしゃくをして椅子に座ると、淹れてもらった紅茶をすする。


(つづく……)
 
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