わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
46 / 58
第2航路:公用船契約に潜む影

第5-1便:常識に隠された刃

しおりを挟む
 
 こういう重苦しい空気の時はクロードの脳天気さが欲しくなる。いつもはうるさくて迷惑に感じるばかりだけど。ホント、肝心な時にいないんだから……。

 今ごろは発着場の屋根の上で、ノンキに寝息でも立てているに違いない。悩みもなく、魚を食べて寝るだけという彼の生き方がちょっとだけうらやましい。

 もっとも、それを聞いたらクロードは顔を真っ赤にして憤慨ふんがいしながら『オイラだって見張りをしたり、シルフィの話し相手になったりしてやってるだろ』って、否定するだろうけど。

「――根本的なことをシルフィとライルに訊ねるが、魔導エンジンの出力が低下するのはどんな場合だ?」

 ディックくんが不意に口を開いた。

 その質問の意図から察するに、基本的な事柄から確認していこうということなのだろう。彼は機械に詳しくないから、単純な疑問というところもあると思うけど。

 確かに八方塞がりな現状を考えると、そうしたやり方もひとつの手かもしれない。

 だから私もその問いを真摯しんしに考えながら答える。

「最も単純なのは魔導エンジンのどこかが故障した時かな。ただ、今回はそれが原因じゃない可能性が高いけど」

「ほかに出力が低下する時はないのか?」

「さっきから話しているように、外部から魔法などの影響を受けた場合もそうだね。そこには魔法を無効化する道具や結界も含まれるよ。あとはディックくんもよく分かっていると思うけど、魔導エンジンは月齢によって出力が変化する」

「まぁ、今回は月の影響が除外されるとして、魔法の可能性も低いのだろう? それなら温度や湿度の影響は考えられないか?」

「うーん、それも可能性は低いと思う。だってそれが原因ならその場で分かるはずだし、途中で勝手に元の状態に回復するなんてあり得ない」

 その私の言葉にライルくんも静かに頷いている。

 例えば、魔導エンジンがオーバーヒートを起こしたとすると、冷せば多少は状態が回復することがあるにせよ、そのままでは正常に戻ることはない。自己治癒能力があるわけじゃないから。

 どこかに不具合や異常が残るからこそ、使い続けるためには整備をしてやる必要がある。

 実際、ディックくんを助けた時に使った魔導エンジンはダメージが大きすぎて壊れてしまった。

 そうしたことから、温度や湿度による出力低下が原因ではないと思う。

「では、燃料はどうだ? 魔鉱石の魔法力が魔導エンジンへ供給されなくなっていた可能性はないか?」

「燃料系の機構も不具合はなかったよ」

 これも私は点検魔法チェックで確認をしている。

 魔鉱石が充填されている燃料タンクはもちろん、魔法力を抽出する装置、その魔法力を動力へ変える変換器、残りカスとなった灰――厳密には鉱物の微少な粒子だけど――を空気とともに排出する装置、それらの通り道となっている配管など、いずれも異常はなかった。

 そもそももしそのどこかに不具合があったり、配管が詰まって魔法力が供給されていなかったりしたら、魔導エンジンは完全に止まってしまうはずだ。

 でもあの時は不安定ながらも動作していたので、その可能性はないということになる。

「……いや、待て。そうか、魔鉱石か! それは盲点だった!」

 ライルくんは勢いよく立ち上がって大きな声を上げた。

 座っていた椅子がバランスを崩して床に倒れ、けたたましい音がドック内に響く。そして彼の瞳は確信に満ちたように輝いている。

 私は不具合の原因と燃料系に関連性はないと考えていたし、それはライルくんも同じだと思っていたから、その反応には驚きだ。

 ゆえに未だに事態が飲み込めずにキョトンとしてしまっている自分がいる。

「ライルくん、どういうこと?」

「俺は船体や魔導エンジンなどの点検はしたが、魔鉱石そのものは確認していない。なぜなら燃料タンクに充填された魔鉱石は正常なものという前提があるからだ。充填の際にはその担当者が品質のチェックをするし、問題があればその時点で対応をする」

「そうだね、だから整備項目に魔鉱石の確認はないもんね。私を含め、ほとんどの整備師は燃料タンクそのものは確認しても、中に入っている魔鉱石については調べないのが普通だと思う」

「そこが盲点なんだ。魔鉱石に問題があれば、出力だけが低下したことにも納得がいく」

「っ!? そっか! うん、あの時は私も魔鉱石は確認してないよ!」

 濃霧に包まれている中を進んでいて、急に視界が開けたような気分だった。

 常識にとらわれていたら、なかなか辿り着くことの出来ない結論。整備師ではないディックくんだからこその視点や疑問が道しるべになった。

 色々な分野の人が一緒になって考えるというのは大事なんだなってあらためて思う。

「しかも魔鉱石は魔法力を抽出したあとは灰になって、空気と一緒に外へ排出されてしまうから証拠は残らない。犯人にとってはそれも好都合だな」

「そういえば、全般検査をした時にシリンダ内や排気パイプ内が異常に汚れてた! 使用期間の長さの割にススが多くておかしいなぁとは思ったんだ! でも通常通りに使っていてもそれは起こりうる現象だから、気には留めなかった!」

 ゴールが見えると、様々な事象が正解を裏付ける証拠として存在感を示すようになってくる。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...