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1 お隣さんは(性にだらしない)アイドル!?
― 3 ―
ロゴには見覚えがある。私が結婚する前に買っていた雑誌だったから。けれど、表紙を飾る男の子達には見覚えはなかった。
「その子たち、今人気急上昇中らしいよ」
「へぇ。『Oceans』……オーシャンズって言うのかな?」
三人組の男性アイドルが笑顔をこちらに向けている。
「せっかくだし、新しい『推し』でも見つけなよ。生活に潤いをもたらすらしいよ、推しって」
「潤いかぁ……」
確かに、今の私の生活はカサカサの砂漠地帯みたいな感じだ。優奈の言うとおり、新しい『潤い』を見つけるのもいいかもしれない。
「ありがとう、ちょっとこれ見てみるね」
***
弁護士事務所での話し合いを終えた私は自宅のあるマンションに帰っていく。ここを紹介してくれたのは優奈のお父さん。どうやらこのマンションのオーナーさんと知り合いらしい。駅やスーパーマーケットが近くて、セキュリティばっちりの1LDK。家賃が高そうだと震えあがったけれど、オーナーさんのご厚意で少し安めにしてもらっている。でも、いい加減仕事を見つけないと。オートロックを開けるために鍵を探していたら、どうやらお客さんが来ていたみたいだった。オートロックのパネルに向かって何か言っているのかと思えば、自動ドアが開いていく。
(綺麗な人だなぁ)
エレベーターで乗り合わせたその人は、私が住んでいる部屋があるフロアのボタンを押していた。相手に失礼にならないようにチラリと視線を向ける。すらっとしていて、ピンヒールのサンダルが良く似合う脚。サングラスをかけていてどんな目をしているのか分からないけれど、鼻筋がスッと通っている。モデルさんかと思うようなスタイル。ボロボロになってきたスニーカーと量産品のTシャツとジーンズ、肩のあたりで揃えられた黒髪でろくにメイクをしていない私とは大違い。私はその女性の後にエレベーターを降りる。彼女はさっさと歩いて行ってしまって……隣の部屋の呼び鈴を押し、施錠されていなかったであろうドアを開けていく。
(また『お隣さん』か)
私の部屋のお隣さん。一度も会ったことはないけれど、しょっちゅう今みたいな綺麗な女性や可愛い女の子がやってくる。みんな友達なのかな、と思うこともあるけれど……。
(でも、いつも違う女の人なんだよねぇ)
詮索するのは良くないけれど、少しだけ好奇心がわいてしまう。お隣さんって、一体どんな人なんだろう?
私は自分の部屋のドアを開け、誰もいないのに「ただいま」と言った。冷蔵庫を開けると中に入っていたオレンジ色のホーロー鍋が「おかえり」って言ってくれているみたいだった。
「さて、残りのカレーどうしよう」
久しぶりにカレーを作ったら、加減が分からなくて多く作り過ぎてしまった。優奈の家に分けたとしても、あと何人分も残っている。今日の晩ご飯もカレーにして、残りは保存袋に入れて冷凍しておこう。いつか食べることもあるでしょう。
私はリビングの座布団に座って、優奈がくれた雑誌を開く。しばらくこの世界から離れている内に、いろんなアイドルが登場していたみたいだ。みんな若々しく、キラキラと輝いている。今の私には目が眩むくらい眩しい。
「へぇ、このOceansの子たちって下積みが長かったんだ」
巻頭特集は、表紙にもなっているOceans。ロングインタビューが掲載されていて、私はじっくりと読み始めていた。
落ち着いた感じのリーダー・KOTA。彼がグループの歌の作曲とダンスの振り付けをしていて、ライブの演出をすることもある大黒柱。アイドルが大好きで自分自身がアイドルになることを夢見ていたらしい。
やんちゃな表情を見せるMINATO。KOTAの中学時代の後輩で、歌が上手いという事でKOTAが引きずり込んだらしい。彼が一際輝いて見えるのは、黒髪のKOTAとは対照的な金色の髪のせいなのかもしれない。
幼い顔立ちのYOSUKE。国内外のダンスコンテストで入賞経験のある実力派ダンサー。ダンスユニットの勧誘を断り『アイドル』を選んだのは、彼もそれに憧れていたからと話すグループ最年少。
この三人でレッスンを重ねて、この春には朝の情報番組のレギュラーも獲得。今後の活躍も期待できる……。インタビューの最後はそう締めくくられていて、今後のテレビ出演予定日がまとめられていた。
「あ、この『キラモニッ☆』のレギュラーって金曜日……明日なんだ」
せっかくだし、見てみようかな。私の独り言は、一人暮らしの部屋の中に吸い込まれていった。
翌朝、いつもより少し早めに起きて朝日を浴びる。【あの家】から逃げ出して以来、不規則な生活をしてきたせいか朝日が目に染みる。私はツンと痛む目をこすりながらテレビをつけた。そういえば、ここで暮らすようになってからまともにテレビを見ようと思ったのは初めてだった。リモコンを操作して、キラモニッ☆にチャンネルを合わせる。
「あ、もう始まってる」
司会者、コメンテーターの横に並ぶOceans。どうやら、毎週何かに挑戦するVTRが流れるコーナーがあるみたいだ。今週は肉じゃがを煮込み時間合わせて20分で作る、というものらしい。けれど、MINATO君だけは包丁や皮むき器を持たず、二人の作業を眺めている。
『恒例となっていますが初めての人のためにちゃんと説明をすると、MINATOは包丁を持つと必ず指を切るので、今日は見学係です』
リーダーのKOTA君がそう説明する。画面端のワイプにはMINATO君が映し出されるけれど……何だか眠そうだった。何だか、仕事が身に入っていないような様子。それから映し出される姿は少し眠気を堪えていたり、コメントを求められた時にワンテンポ遅れたり、欠伸しそうになってYOSUKE君から肘打ちされていたり。どうしても不真面目な姿に見えてしまう。私が昔好きだったグレイテストボーイズはまさに完璧集団で、こんな姿を見せることはなかったから、何だかショックだ。
ふと思い立ってスマートフォンでネットを確認する。検索サイトの話題ワード欄には『MINATO』の文字があるのでタップする。そこにはSNS上での反応が並んでいた。
『MINATO、今日も眠そう』
『みなと通常運転で草』
『早朝レギュラーはミナトには酷』
そんな言葉が並んでいるから、きっとファンの間では有名なのだろう。
「これが時代の変化なのかな……?」
「その子たち、今人気急上昇中らしいよ」
「へぇ。『Oceans』……オーシャンズって言うのかな?」
三人組の男性アイドルが笑顔をこちらに向けている。
「せっかくだし、新しい『推し』でも見つけなよ。生活に潤いをもたらすらしいよ、推しって」
「潤いかぁ……」
確かに、今の私の生活はカサカサの砂漠地帯みたいな感じだ。優奈の言うとおり、新しい『潤い』を見つけるのもいいかもしれない。
「ありがとう、ちょっとこれ見てみるね」
***
弁護士事務所での話し合いを終えた私は自宅のあるマンションに帰っていく。ここを紹介してくれたのは優奈のお父さん。どうやらこのマンションのオーナーさんと知り合いらしい。駅やスーパーマーケットが近くて、セキュリティばっちりの1LDK。家賃が高そうだと震えあがったけれど、オーナーさんのご厚意で少し安めにしてもらっている。でも、いい加減仕事を見つけないと。オートロックを開けるために鍵を探していたら、どうやらお客さんが来ていたみたいだった。オートロックのパネルに向かって何か言っているのかと思えば、自動ドアが開いていく。
(綺麗な人だなぁ)
エレベーターで乗り合わせたその人は、私が住んでいる部屋があるフロアのボタンを押していた。相手に失礼にならないようにチラリと視線を向ける。すらっとしていて、ピンヒールのサンダルが良く似合う脚。サングラスをかけていてどんな目をしているのか分からないけれど、鼻筋がスッと通っている。モデルさんかと思うようなスタイル。ボロボロになってきたスニーカーと量産品のTシャツとジーンズ、肩のあたりで揃えられた黒髪でろくにメイクをしていない私とは大違い。私はその女性の後にエレベーターを降りる。彼女はさっさと歩いて行ってしまって……隣の部屋の呼び鈴を押し、施錠されていなかったであろうドアを開けていく。
(また『お隣さん』か)
私の部屋のお隣さん。一度も会ったことはないけれど、しょっちゅう今みたいな綺麗な女性や可愛い女の子がやってくる。みんな友達なのかな、と思うこともあるけれど……。
(でも、いつも違う女の人なんだよねぇ)
詮索するのは良くないけれど、少しだけ好奇心がわいてしまう。お隣さんって、一体どんな人なんだろう?
私は自分の部屋のドアを開け、誰もいないのに「ただいま」と言った。冷蔵庫を開けると中に入っていたオレンジ色のホーロー鍋が「おかえり」って言ってくれているみたいだった。
「さて、残りのカレーどうしよう」
久しぶりにカレーを作ったら、加減が分からなくて多く作り過ぎてしまった。優奈の家に分けたとしても、あと何人分も残っている。今日の晩ご飯もカレーにして、残りは保存袋に入れて冷凍しておこう。いつか食べることもあるでしょう。
私はリビングの座布団に座って、優奈がくれた雑誌を開く。しばらくこの世界から離れている内に、いろんなアイドルが登場していたみたいだ。みんな若々しく、キラキラと輝いている。今の私には目が眩むくらい眩しい。
「へぇ、このOceansの子たちって下積みが長かったんだ」
巻頭特集は、表紙にもなっているOceans。ロングインタビューが掲載されていて、私はじっくりと読み始めていた。
落ち着いた感じのリーダー・KOTA。彼がグループの歌の作曲とダンスの振り付けをしていて、ライブの演出をすることもある大黒柱。アイドルが大好きで自分自身がアイドルになることを夢見ていたらしい。
やんちゃな表情を見せるMINATO。KOTAの中学時代の後輩で、歌が上手いという事でKOTAが引きずり込んだらしい。彼が一際輝いて見えるのは、黒髪のKOTAとは対照的な金色の髪のせいなのかもしれない。
幼い顔立ちのYOSUKE。国内外のダンスコンテストで入賞経験のある実力派ダンサー。ダンスユニットの勧誘を断り『アイドル』を選んだのは、彼もそれに憧れていたからと話すグループ最年少。
この三人でレッスンを重ねて、この春には朝の情報番組のレギュラーも獲得。今後の活躍も期待できる……。インタビューの最後はそう締めくくられていて、今後のテレビ出演予定日がまとめられていた。
「あ、この『キラモニッ☆』のレギュラーって金曜日……明日なんだ」
せっかくだし、見てみようかな。私の独り言は、一人暮らしの部屋の中に吸い込まれていった。
翌朝、いつもより少し早めに起きて朝日を浴びる。【あの家】から逃げ出して以来、不規則な生活をしてきたせいか朝日が目に染みる。私はツンと痛む目をこすりながらテレビをつけた。そういえば、ここで暮らすようになってからまともにテレビを見ようと思ったのは初めてだった。リモコンを操作して、キラモニッ☆にチャンネルを合わせる。
「あ、もう始まってる」
司会者、コメンテーターの横に並ぶOceans。どうやら、毎週何かに挑戦するVTRが流れるコーナーがあるみたいだ。今週は肉じゃがを煮込み時間合わせて20分で作る、というものらしい。けれど、MINATO君だけは包丁や皮むき器を持たず、二人の作業を眺めている。
『恒例となっていますが初めての人のためにちゃんと説明をすると、MINATOは包丁を持つと必ず指を切るので、今日は見学係です』
リーダーのKOTA君がそう説明する。画面端のワイプにはMINATO君が映し出されるけれど……何だか眠そうだった。何だか、仕事が身に入っていないような様子。それから映し出される姿は少し眠気を堪えていたり、コメントを求められた時にワンテンポ遅れたり、欠伸しそうになってYOSUKE君から肘打ちされていたり。どうしても不真面目な姿に見えてしまう。私が昔好きだったグレイテストボーイズはまさに完璧集団で、こんな姿を見せることはなかったから、何だかショックだ。
ふと思い立ってスマートフォンでネットを確認する。検索サイトの話題ワード欄には『MINATO』の文字があるのでタップする。そこにはSNS上での反応が並んでいた。
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